欽ちゃん!
萩本欽一さんの、おもしろ魂。

他人のためなら、がんばれる。


萩本 お客さんが、あれだけ集まっているのに、
うずもれちゃっている野球が、イヤなの。

巨人なら、
清原という、あれだけのドラマを持っている
スーパースターの絵がないのが、イヤなのよ。

ぼくなら、清原が
監督に指さしてるシーンが見たい。
その次には、清原がバットを持っていて、
堀内さんが、頭をさげている絵もほしい。

そういうフリがあったら、
三振でもホームランでもなんでも、
テレビを見ているお客さんは、感動する。
スーパースターを見たいんですから。

監督は、勝とうとするんだけど、
お客さんは、
勝つことがたのしいんじゃないから。

個々の人間が生きてこないと、
劇場はおかしくない、みたいなことなんです。
だから、清原を大事にしてくれ、と思う。
テレビを見てる人を満足させる作業をしてほしい。

清原の三振のドラマが
大きな活字になるような演出をしてほしいんです。

ぼくが監督なら、スーパースターが
やめたいと言ってもやめさせません。
新聞記者のいる席で、
たとえば清原になら、3年連続でも、

「絶対に、やめないでくれ。
 『打てるから必要』というわけじゃないんだ。
 ぼくは『清原』という名前が、好きなんだ。
 だから、君の名前があるだけでいい」


と言いつづける、とか。
糸井 清原って、いま、そこまできてますよね?
萩本 代打で出て、
あんなにお客さんがよろこぶんだから、
打つとか打たないとか、
人間の能力だけで結論を出しちゃうのは、
スポーツのつまんないところだと思います。

打たれたらね、ピッチャー交代?
打たれたからこそ、
投げさせてあげる場面も、もっとあっていい。
糸井 もっと残酷なことを言うと、
「今年は、5位か6位かを争うだろうなぁ」
というチームは、たてまえで
「優勝したいです」なんて言わずに、
「今年は、4位を目指す野球ですけど、
 お客さんをアッと言わせることをします!」
と元気よく笑っていたら、
ファンは、見にいきたくなりますよね。
萩本 そうそう。
糸井 横浜の山下大輔が、
「3位になっちゃったら、
 もうぼくは、逆にカツラをかぶります!」
と言ったら、絶対に応援したくなる。

金メダルを取るはずがない
福原愛を応援するように、たのしめるから。
萩本 卓球の愛ちゃんは、
勝負師でいいんだけれども、
勝ったときは、
相手の目を見て握手してほしかった。

そのときにだけは、
15歳を出してほしかったんです。

「そういう愛ちゃんが見たかったのになぁ」

つまり、勝ったというだけで、
おとなと同じような握手して
去っていくところが「あ!」と。

もう、負けても勝ってもいいんだけど、
そこはどうするの? どうするの?
あれ? そうか……。

あそこで、恥ずかしそうな目が、
ワンカットだけ、欲しかったなぁ。
土屋 それ、すごい想像の演出家ですよね。
大将は、無意識のうちに、
スターを作ろうとするんだと思うんです。


「彼女をスターにするためには、
 こういうふうな目線を撮ったほうが、
 絶対に人に好かれるぞ」
という見方をしている……。
萩本 プロ野球、ぼくが演出だったら、
お客さんが入ってなければ、
球場の電気、半分消しますからね。

「ちょっと、暗いよ?」

「だって、客入ってないんだもん。
 そんなに明るくつけられないだろう?
 この中で、アウトにしてこそプロだよ」

そうしたら、スリルのある野球になる。
糸井 (笑)ひどいですね。ヤミ野球。
萩本 もう、その中で捕ったら、
ファインプレーですから、捕ったやつには
ピンスポでスコーンと光をあててあげて……。
糸井 ええ。

野球中継が
そういうことをやらないのは、
「なんで野球を見にくるの?」
というところを問いかけない時代が、
長すぎたんでしょうね。

ほんとは、勝ち負けの試合よりも、
歴史に残る試合を、見たいんですから。

野球が、
「何対何で勝った、負けた」
という話ばかりになっているという、
このせせこましさは、ダメですよね。
萩本 ぼくは、打てないやつをひっこめるのも、
打たれたやつをひっこめるのも、
イヤなんです。
「野球は、勝ったり負けたりだから、
 負けそうなら、
 他のやつがなんとかするから」
という態度が、イヤなんです。

負けた選手が、
「今日のことは忘れて、
 気持ちをきりかえます」
っていうのも、イヤなの。

見ている側からしたら、
「負けたこと」に、
決着をつけてくれないと。
ダメになったことについては、
ちゃんと、自分でチャラにして進まないと、
人間が、どんどん弱くなっていくんだから。


それから、野球選手に
「この姿を見にきてほしい」
と、言葉として出せる人が、
いなくなったんだと思います。

最近のイチローさんの言葉で好きだったのは、
「最下位で、
 チームがお客さんをたのしませないから、
 ぼくがたのしませたいと思う。
 ぼくのヒットを見にきてください」
というもので……見事ですよ。
もう、達人になりつつありますね。
萩本 つまり、
お客さんのことを言うセリフに
なってきたときには、達人だと思います。

「自分のバッティングを改良しました」
では、まだまだなの。

オリンピックの金メダルでも、
「よし、金メダルを取るぞ」
と決めていても、取れないんじゃないの?
糸井 女子柔道で、
すごく悲劇的な試合を見ました。

ダークホースの選手が、どんどん勝って、
で、とうとう決勝に出る寸前で、
あと何秒かで勝つという瞬間に、
自分がリードしているものだから、
ずるいことに、逃げたんですよね。

「もう攻撃されなければ、
 わたしの勝ちだ」と、ごまかした。
そしたら、失格になったんです。

あと何秒のところで、
弱い心が出ちゃったんでしょうね。
萩本 うん。
だから、あれは、
金メダルを取ろうとしたからなんです。
ちがうんですよね。

なんか、金メダルを取ろうとすると、
それは、金メダルじゃないんですよ。

「金メダルを取る人って、どういう人?」
それができている人が、金メダルなんです。


ぼくが、テレビをやっているときでも、
「自分で数字が取りたい」とか、
「自分は成功したい」
と思ったら、途中で投げてますね。
なんかに、縛られていないと……。

成功するというか、
オリンピックでも、金メダルを取るときは、
取った人は、かならず人のことを言うでしょ?

誰かが、いるんですよ。
だから、あきらめたり、投げたりできない。
自分って、けっこう投げられるんですよね。
糸井 そういう意味では、
家族とかって、けっこう大事でしょうね。
萩本 そうだと思います。
「家族がいるから」とか
「家族のために」とか、言うでしょう?
「コーチが」とか……女子柔道の
谷本さんも、古賀先生に抱きつきたかった。
あれが、金メダルなんです。
糸井 マラソンの小出監督とかも、ものすごい。
萩本 シドニーの金メダルを取ったときも、
尚子ちゃん、終ってすぐに
監督のところに飛んでいったでしょ。
あのときに、泣いているんですよ。

金メダルを、自分が取ったから
感動して泣いてるんじゃないんです。
小出監督のところで、泣きたくてやってきた。
糸井 自分のためにやることって、
確かに、つまんないですよねぇ。
人のためだと、自分なんかよりも、
もっと大きいことが、できるんですよね。
萩本 そうなの。

たとえば、金メダルを取るなら、
なんとしても取るのではなく、
すごい金メダルにしてほしいんです。

体操の団体で日本が金を取ったときに、
アメリカの選手たちが、拍手をしたという……
勝つんじゃなくて、負けたやつから、
「まいった!」と言われる金メダルですよね。

あの体操の演技、最後の人は、もう、
難易度をさげても優勝できたはずなのに、
「難易度を、さげろ」
と、選手に伝える時間がはなくて……。

だから、すごいむずかしいのをやっちゃったわけ。
金メダルのためにセコイことをするんじゃなくて、
いつも、金メダルを取ろうとして
やってきたことを、ふつうにやったんですね。
それで、とんでもない数字を出してきている。

「落っこちなきゃ、金メダル」
というところで、堂々と、
最高の演技をやったものだから、
アメリカの選手たちも、
拍手したんじゃないですか?
「あいつバカだなぁ。でも、すごい!」と。
  (明日に、つづきます)

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2004-09-30-THU

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