欽ちゃん!
萩本欽一さんの、おもしろ魂。

失敗から、何かが生まれる。


土屋 長嶋茂雄さんについては、
おふたりは、どう思いますか?

ぼくの場合は、
日本テレビに勤めていますし、
「野球の視聴率が悪くなってきて」
でもなんでも、
いろいろなところで、
いろいろな話に、なりますよね。

戦後のプロ野球と、
日本テレビは切りはなせない、
というあるひとつの側面で見ると、
「プロ野球は、すべて長嶋さんだった」
という見方だって、あると思うんです。

ホームランバッターの王さんが横にいて、
と、長嶋さんを中心に物事を見ていれば、
野球がすごくわかりやすく見えた、
ということも、たぶんあると思いますけど。

いろいろな意味での
奇跡的なドラマを
たくさん作ってきたことも確かだろうし。
自己演出ではあるだろうけど、
「打球をおもしろく捕球する」
「おもしろく三振する」
ということも、長嶋さんは、やってきた。
卓越したひとりの
エンターテイナーが作ってきた
プロ野球人気というのが、あると思うんです。
萩本 長嶋さん出てると、テレビ見るもんね。
もうとにかく、好きですもん。
糸井 長嶋さんは、
小さい頃のぼくにとってはヒーローですし、
長嶋さんの似顔絵は、描けるんです。
いつでも、長嶋さんが好きだったし、
長嶋さんにファンレターまで出してるんです。

でも、子どもの頃は
誰にも言わなかったけど……
長嶋さんって、ゲッツーが多かったですよね。

ここで右側に打ったほうが、
ランナーが進むというバッティングを、
今の選手は、するようにしていますよね。
「このおかげで、ランナーが2塁に進むから、
 最低限の仕事は、しましたねぇ」
という褒めかたがあるんだけど、
小さい頃のテレビ中継で、ぼくは、
長嶋さんのゲッツーを、
山ほど見ているんです。

いつも、
「次は、王さんもいるんだから、
 ゲッツーさえなければ……」
という展開でのゲッツーを、ずいぶん見ていて。
萩本 そうとう好きだったんですね。
心配までしてるんですもん。

ぼくは、好き、なんですよ。
糸井さんの場合は、とても好き、なんです。
好きだと、心配までするようになるじゃない?

みんな、天覧試合のホームランの話とか、
チャンスに打つ、男とか言うんだけども、
ものすごく、チャンスに弱かったんです。
それはやっぱり、彼が
華麗な守備を見せるための練習をしていて
エラーが多かったのとおなじで、
リスクが多かったんです。

さっきの「不本意」の話に戻りますけど、
長嶋さんって、
「リスクの多い、不本意な人生」
を送っているんです。
だからみんなは、
長嶋さんを見て、わくわくしたんだと思う。


つまり、
「最低限の仕事をしましたね」
と褒められるやつは、
記憶に残らないんですよね。

だから、ゲッツーが多くても、
たまに大当たりがあれば、
みんなは、忘れてくれるんですよね。
今の時代にも、そういう人は
あまりいなくなっちゃったもんだから、
今は、そういう人は当たると思います。

監督時代の長嶋さんについては、
ぼくは、さんざん、文句を言っていますけど。
上司にはしたくないけどね……。
土屋 自分が演出をしたり、
番組を作ったりすると、
長嶋さんを作った、その時代の監督の
川上哲治さんがすごかったんじゃないか、
と思うようにもなってきたんです。

やっぱり、スターを作るというのは、
作る側が、作ろうとしていないと、
できないだろうと思うから、です。

昔、大将が、
「もっと見たいな、というふうにしないと、
 スターは作れないんだよ」
と、おっしゃっていたことを、
ぼくは、いろんなことをやるときに、
よく使っているんですけど、
「長嶋が出てくればいいのになぁ」
と思わせた、
川上さんの演出が
あったんじゃないかなぁ、 と。
糸井 演出は、大きいです。

サッカーのワールドカップに
日本が出るか出ないかというときに、
いつもスポーツ新聞に載るのは、
「これで、首の皮一枚でつながった!」
ということで、
あれ、3回ぐらい、言うんですよね。

あの仕組みを考えたやつは、すごい。
お客さん側は、おかげで、
もう、ほんとにおもしろいですよね。
萩本 おもしろい。
糸井 昔は、
もっとシンプルに、
出られるか出られないかで、
決まっていたのに、
いつまでもたのしめる演出をした、
FIFAの背広組が、いるんですよね。
萩本 ぼくなんかも、サッカー、
ほとんど好きじゃないのに
「これは見なきゃ」ってなるもん。
糸井 そうですよね。
萩本

「やったー!」と叫んどいて、
あれ、俺、サッカーファンじゃねぇぞ?

と。

糸井 ぼくも、そうなんですよ(笑)。

スポーツビジネスの話については、
本の受け売りなんですけど、
モスクワオリンピックが開かれたとき、
西側諸国が、出場をボイコットしましたよね。

で、ボイコットした側に、
いい選手がいっぱいいまして。

たとえば
「カール・ルイスが見たいじゃないか?」
というような欲望が、地球規模であったとき、
「それを集めると儲かる!」
と思った人たちが、いるんです。

オリンピックのほうは、
金集めの仕組みがややこしかったけど、
そいつらは、ばんばんスポンサー集めて、
ばんばんテレビ中継の権利とか
代理店に渡して売ったり買ったりして、
金だけは集めまくって、選手も集めて……
それで、世界陸上が始まったっていうんです。

オリンピック出られない西側の選手たちが、
もう欲求不満を晴らすためにも、
みんな、集まりたかったんですね。
そこから、スポンサーをじゃんじゃんつけて、
じゃんじゃん派手にしてテレビに売るという、
スポーツの商売が、はじまったらしいんです。

それのマネをして、
サッカーも盛んになっていったらしいんです。
だから、おおもとは、
アフガン戦争なんですよね?
萩本 それで、世界陸上ができたんだ?
……やっぱり、
失敗からひとつ生まれてるでしょう?
糸井 そうなんです。
萩本 失敗は、ダメと思わないってことなのね。
糸井 追い詰められた側が、
「なんとかしなきゃ。
 やりたいのか? やりたくないのか?
 ……やりたい! 
 やりたい以上は、死に物狂いでやれよ」
と思うところには、
かならず、新しいパワーが生まれてくる。
萩本 いま、世界陸上なんていったら、
たのしみだもんねぇ。

やらなきゃなんない、
つきあいのスポーツないからね。
いいのだけ集めてるから。
人気が出る、
みんながワッと見るようなものしかない。
糸井 そうなんです。
オリンピックも、そういうのがなければ、
昔は、赤字だったはずですよ。

要するに、商業とのからみで成長したのが、
テレビ時代のスポーツ、で。

萩本さん、サッカーは見ないんですか?
萩本 サッカーは……
男らしくないんで、見ないですね。

押されて、痛いふりするっての、
男の子のやることではないから。
糸井 (笑)自分で足かけてるくせに、
痛いふりをしたりも、しますね。
萩本 寝転がったあとに、
審判を上目づかいで見て、
「……痛いのよ」
ってやるのは、男の子らしくない!と。
痛さって、人に訴えるものじゃないでしょう。

それを見て審判が、ピーッていうのはね、
ダメなやつを、優遇しすぎ。
「その目が嫌なんだよ!」
って怒ってほしいよなぁ。男の子なんだから。
糸井 (笑)仮病に近いですよね?
萩本 中田選手っているでしょう?
痛そうにしない唯一の選手で、
痛いのに無理して出かけていくし、
倒れないで倒れまいとしてるんだ、
と思えたから、ぼくは、
中田選手が出ていないといやだ、と思う。

その点、野球は、
死球でも我慢しているのが、なんか、いい。
  (次回に、つづきます)

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2004-10-01-FRI

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