欽ちゃん!
萩本欽一さんの、おもしろ魂。

放送作家と暮らした日々。


糸井 萩本さんは、ふだん、
メモとかはとらないんですか?
萩本 メモは、しないです。
はじめに芸人になったときは、
メモをしていたんですが、
「コメディアンは頭でおぼえるんじゃない。
 からだで、おぼえるもんだ」と……。

「メモをしても、頭に入るだけだから、
 今、からだでやってみて、
 できなきゃ、そのまま通過していけ。
 できるものから、からだに入れていけ。
 メモをすると、あとでおぼえようとする、
 その『間』が、よくない」

そう言われまして。
だから、からだに入れていく仕事だ、と。
だから、メモは、取っていません。
糸井 萩本さんは、ご家族とは
どういうふうに、接していましたか。

つまり、
パジャマ党、という放送作家たちと
家で暮らしていたときには、
奥さんや子どもは、困らなかったですか?
萩本 テレビの打ちあわせも、
家でやっていましたからね。

ですから、奥さんが、
「お願いですから別にして下さい」
と、それで、二宮に行っちゃいましたから。
糸井 あ、そういうことか。
萩本 二宮に、子どもと一緒に。
糸井 やっぱり、両立はむずかしいんですね。
萩本 むずかしいです。
「わたし、死にます」って言ったね。

パジャマ党がいて、
子どもを育てながら、
テレビ局の人がきている……
お茶を出していたら、寝るヒマがない。
糸井 当たり前ですよね。
萩本 お乳は、3時間おきに起こされて……。
「死にます」と言うんだよね。
「死んじゃまずいですよね」
ということで、二宮にお家を買って、
「静かに育てるがよい」と──。
糸井 別々に暮らしていても、
仲は、いいんですよね?
萩本 別々にいるから、仲がいいんです。

ぼくは、
「子どもたちに必要もないのに
 帰るのはイヤだ。
 だから、必要があるときに、
 いつでも呼んでくれ」
と伝えていました。
糸井 現実の父親ではなくて、
まるで、テレビの中の、
欽ちゃんみたいな人だなぁ。
萩本 ええ、そういう父親は、
やってないですね。

だから、
「ただいま」
って帰ってきたって、
奥さんは、やっぱり笑いますよ。
糸井 (笑)そうでしょうね。
おもしろいなぁ。
萩本 そうすると、家に帰っても、
子どもはどうのって話は、ないですよね。
「おいしい? あぁ、よかった」とかさ。
糸井 もう、
根っから欽ちゃんなんですね。

欽ちゃんって人は、
本名の生活なんか、ないんだ。
萩本 うん。

家族とは、
東京と二宮に別れてくらしていて、
最近は、作家もいないもんだから、
ひとりになって……。
ゆっくり、いろいろ考えてるんだけどね。

「いま、何してんの?」
と、よく聞かれると、
「何するって、ないんだよ」と。

「からだにいいこと、してないですか?」
と言われても、
からだにいいことはしていないし。
土屋 大将は、いいことについては、
「しない」って言うんですよね。
からだにいいことをする、
というのが、ふつうじゃないですか。
萩本 ほとんどの年寄りが、
体にいいことしか、しないから。

それから、頭がボケないように
みんなが何とか努力をしているから、
いかに、頭がボケるか、とやっていて……。


そうすると、
ボケようとしてんのにボケない自分が、
すごいなぁって思うし。
体にいいことをしていないのに、
病気しないって、すごいやつだね、と。

タバコの量も、だから、
徐々に増やしてんですよね。
みんながやめていくなかで……。

タバコの裏に、
「害があるから注意しましょう」
と書いてあるもんだから、
それなら、真剣に吸おうと思ったの。

これね、害があるんじゃなくて、
「健康になります」といったら、
ぼく、やめちゃいますもん。
「こんなもんに、健康は頼まない」と。

みんなが、根性なくてやめていくなかで、
害になるやつと戦ってる自分がうれしくて。

テレビで、タバコには
害があるとやっていればやっているほど、
本数増やして、
「欽ちゃん、強いよ。4箱!5箱!」と。

からだをじょうぶにしていて
からだがじょうぶだと言うんじゃ、
たいしたことはない。
やることをしないでじょうぶだったら、
すごいでしょう?

だから、なるべく
若い人と会話をかわさないとか……
そういうことを、やっています。
糸井 いま、作家たちがいない生活なんですよね。
萩本 もう、入れないですから。
君塚(良一)が、最後ですよ。
糸井 つまり、まわりに何人も
作家たちがいなかったりするのは
萩本さんには非常に珍しい、
人生はじめてのことなんですね。
萩本 そう。

ひとりになってわかったのは、
よく、
「ごはんはみんなで食べるとおいしい」
と言うけど、ぼくにとっては、
ひとりで食べるのがおいしい、ということ。

今までは、
常にまわりの人と
しゃべりながら食べていたけど、
しゃべる言葉がないと、おかずに語るの。

「おまえ、何なんだよ」
とか、いろいろしゃべっていると、
「たいしたタラコじゃねぇなぁ。
 あ……うめぇよ、おめぇは」ということになる。
糸井 かつて、ご自宅に
すべての放送作家を住ませていたときには、
「ひとりだ、ホッとする」という時間は……?
萩本 ないです。
糸井 どうして、そんなに
自分をさらすことができるんですか?
萩本 少なくとも、
女の人と一緒にいるよりたのしい。

作家たちが、自分と
互角になって話せるようになったとき、
やっとこ、なんか、たのしくなるよね。

将棋でも、
互角になってきたときが
おもしろいじゃないですか、

いちばん最初は、違います。
「スターはどういうものか」
というところから、教えますから。
ぜんぶ、ウソですけどね。

スターは、鮭は身しか食べない。
しもじもは、皮を食えっていうんで、
ずっと、皮を食わしてましたからね。
糸井 (笑)
萩本 「スターは、
 チャーシュー7枚以下なら
 ラーメンを食わない」
と教えたら、
みんな、ラーメンを頼むと、
ぼくのところに、
チャーシューを持ってきましたもんね。

だいたい、3か月もすれば
「……そんなことはねぇだろう!」
とわかるのに、それに気がつくのに、
1年かかったやつがいたりして。

でも、素人を入れてやっていると、
気づくまでの間、たのしいですよ。

麻雀をやっていても、
「スターから
 ハネ満をあがるとはなにごとだ!」
と言えば、
「すいません。もうしわけありません!」
と、一度あがりになった牌を、
また手元で立てるからね……。

「スターに、そういうこと、
 二度とないようにね」
なんて、ずっと言ってるもんだから、
そのうち、最初の3人が
卒業したよっていったときは、みんな、
「お茶、飲みたくない?」
「あぁ、飲みたいなぁ」
「どういうお茶、飲みたい?」
とか、言っているんです。

「俺、スターの入れたお茶を飲みたい!」
「あ、俺も」
「俺も」
「でも、スターっていったって、
 簡単に会えないし……」
「ちょっとまてよ?
 こいつ、スターやってない?」
「おまえ、スターやってない?」
と、ぼくに言うんです。

「……はい、ぼく、
 まぁちょっと、やっていますけど」
「ちょっとじゃ、ねぇだろう?」
「スター、今の会話、聞いた?」
「ええ、聞きました」
「だからね、スターのお茶、飲みてぇんだよ」
「ちょっと待って、今、入れてきます……」

で、俺は、お茶を入れて、
「もう、あとは、
 おまえらのその会話を
 台本に書きゃあいいんだよ」
と言って、それで、
放送作家の3人は、送りだしました。
糸井 すごいですね。
萩本 最初は、いじめるだけいじめてました。
だけど、それをやっているうちに、
芸能人も、スターも、
大したことないってのに気づく。
そこを、早いとこ、知りなさいというか。

芸能人や、スターに
おびえては何もできないってことですね。
糸井 やっぱり、そういうことも含めて、
5年、かかるものなんですね。
萩本 ええ。
それをやりきったら、
いつまでに出ていってくれ、と言います。
  (明日に、つづきます)

前へ
次へ

感想メールはこちらへ! 件名を「欽ちゃん」にして、
postman@1101.comまで、
ぜひ感想をくださいね!
ディア・フレンド このページを
友だちに知らせる。

2004-10-04-MON

BACK
戻る