写真をじっくりご覧ください。
真ん中にあって、棒状で頭部が白いきのこと、
左右にあるパラボラアンテナのような皿型のきのこは、
同じ種類なのか、はたまた、違う種類なのか?
どちらだと思いますか?
そこで、ヒントになるのが、
ナガミノクロサラタケ、という名前です。
漢字で書くと、長実黒皿茸。
長い実と、黒い皿。
もうおわかりですね。
そう、このまったく形状が違うきのこは、
同じナガミノクロサラタケなんです。
じゃあ、何でこんなにも形が違うのかというと、
完全世代(完全型)と、不完全世代(不完全型)の違い、
有性生殖を行うか、無性生殖を行うかの違いなんです。
お皿のような形をしたものが有性世代、
棒のような形をしたものが無性世代です。
有性生殖は細胞の融合で新しい個体をつくるので、
遺伝的には多様です(胞子をつくります)。
一方、無性生殖の場合、新しく生まれた個体は、
親とまったく同じ遺伝情報を持つクローンです。
これって、すごい生存戦略ですよね。
胞子を飛ばして環境が異なる新天地へ向かうならば、
遺伝的に多様な方が何かと融通がきくでしょうし、
今、発生している場所がいい環境なら、
そのままクローンを増やせばいい、と。
完全世代と不完全世代で形状が大きく違うのは、
菌類ではよく見られるそうですな。
冬虫夏草の一部では、完全世代と不完全世代が、
同じ宿主に同時に発生する場合があったりします。
さて。
ナガミノクロサラタケは、夏から秋にかけて、
カツラやシナノキなどの倒木から発生します。
お皿同士はけっこうまとまって生えていて、
棒状のものはちらほら散らばって見られる、
というパターンが多いような気がします。
この棒の長さは5mmくらいと極小なので、
食べようと思えるような大きさではありません。
味がわかるくらいたくさん集めるには、
相当な時間がかかりそうですね。
ちなみに、
この写真を撮影した大きなシナノキの倒木には、
多種多様なきのこや粘菌が発生するんです。
少なくても1週間に1度は見に行くのですが、
きのこや粘菌が見られないことはありません。
さらに、コケや地衣類も生えているので、
「隠花植物」好きなら虜になること間違いなし。
倒木は、邪魔者どころか、宝の木なのです!