ぼくは、6月から10月くらいまでの間、
ほぼ毎日、阿寒の森へ入っています。
もう、十何年も、そんな生活をしているのですが、
まったく飽きることがなく、逆に、
さらにどんどん森が好きになっている気さえします。
森へ行って、何をしているかというと、
きのこや粘菌などの写真を撮影しているわけです。
一応、職業写真家を名乗っておりますゆえ(笑)。
でも、写真を撮影している時間は、
おそらく、森へ入っている時間のうち、
10分の1にも満たないくらいの割合であり、
多くの時間は、きのこや粘菌を探しています。
森での活動は、その日の気分にもよりますが、
大きく、2つのパターンがあります。
ひとつは、広範囲に動き回ること。
そして、もうひとつは、居座ること。
広範囲に動き回ることが、
広く浅く森を観察することだとしたら、
居座ることは、狭く深く森を観察すること。
気に入った場所を見つけたら、
その場所で、2時間、3時間過ごすことも、
決して珍しいことではありません。
ここで、今回ご紹介する写真をもう一度ご覧あれ。
真ん中に、で〜んと、オキナクサハツが生えていますが、
その周りに、ご注目を。
そう、きのこの周りには、数種類のコケが生えていて、
背後には、シダの仲間のスギカズラが見えます。
奥の倒木には、さらに違う種類のコケや地衣類が……。
ルーペで、それぞれの細部を見始めたら、
1時間2時間など、すぐに経ってしまいます。
面白いんだなあ、これが。
まあ、それはそれとして(笑)。
オキナクサハツは、夏から秋にかけて、
ブナ科の樹木、あるいはトドマツが生えている森の、
地面から発生します。
傘は、黄土褐色〜汚黄土色で、直径5〜13cmくらい。
まんじゅう形から、やがて平らに開きます。
クサハツに比べて、著しいシワがあり、
周辺部はつぶつぶで放射状の条線が見られます。
シワ=翁(おきな)ってことの命名ですな。
ヒダは、白く、やや密。
柄は、長さ5〜10cmくらい。
帯黄色〜白で、黒褐色の点々があります。
初めは中実ですが、徐々に中空になるようです。
肉には辛味とイヤな感じの臭みがあります。
毒成分は不明ながら、誤食すると、
嘔吐、腹痛、下痢など、胃腸系の中毒を起こします。
まずくて、しかも、毒。
ゆめゆめ食べるべからず。
もちろん、きのこ観察は面白いのですが、
ぱっと見ただけでは「緑」にしか見えない、
コケや地衣類をルーペで見ようものなら、もう大変。
その造形の美しさ、精緻さときたら……。
これまた、本当に、楽しいです。
現在では、生物学的に、死語になってしまいましたが、
きのこや粘菌、コケやシダ地衣類などを含む、
「隠花植物」は、実に、魅力的な生物群だと思います。
隠花植物写真家、と、
名乗るのも悪くないよなあ……(笑)。