大都会であれば、虫とまったく無縁の生活が、
もしかしたらあり得るのかもしれませんが、
広大な原生林の片隅にわずかな人間が住んでいる、
阿寒湖温泉のような場所では、虫は、空気のように、
どこでも当たり前に存在しています。
阿寒湖周辺で、何がイヤかって、そりゃあ、もちろん、
蚊系というか、人の生き血を吸う昆虫です。
普段、毛がみっちり生えて動きも俊敏な、
シカやくまさんなどをターゲットにしている奴らの前に、
毛が生えてないつるつるの肌を露出した、
のろのろ歩きの人間が現れたら、どうでしょう?
もう、盆と正月が一緒に来たような騒ぎですよ(笑)。
一般的な防虫スプレーも、あまり役立たず、
したがって、こちらは、肌を露出しないよう、
着衣で対抗するしかありません。
ぼくは、森へ行くときには、
真夏でも上下レインウエアを着て、長靴をはいて、
あたまからすっぽり防虫ネットをかぶります。
蚊に刺されるより汗をかく方がマシですからね。
街にもどったら温泉がありますし。
そして、もう1種類の、イヤな虫。
スズメバチです。
何を隠そう、ぼくは、スズメバチに刺されると、
眼の前真っ暗、心臓ばくばく、全身発疹などなど、
アナフィラキシーショックが出ちゃうんです。
30分以内の病院へ行かないと死んでしまいます。
(森には「エピペン」というショック緩和剤を持参)
ですから、ぼくにとって、スズメバチは、
イヤ、というより、怖い存在です。
しかし、森には、殺人スズメバチを含めて、
ハチを食べてしまう生きもの、
いや、ハチしか食べない生きものが存在します!
そう、我らが、ハチタケです。
今回の写真をご覧になって、
コケの間から簡単にハチタケを見つけた人は、
なかなかのきのこ目を持っていると思われます(笑)。
コケをかき分けてみると、ハチが出現します。
冬虫夏草は、その種類によって、
宿主(しゅくしゅ=寄生する昆虫やクモ)が決まっていて、
ハチタケは、ハチの仲間だけに寄生し、
カメムシタケは、カメムシの仲間だけに寄生します。
ハチタケは夏から秋にかけて、
ハチの成虫の胸部などから1~12本くらい発生。
長さは3~10cmくらいです。
頭部は、円筒形~紡錘形で、
長さ7~12mm、太さ1.5~2mmほど。
それほど目立ちませんが、
冬虫夏草特有のつぶつぶがあります。
柄は、太さ0.5~1mmほど。
色はともに淡橙黄色で、明瞭に分かれています。
食毒は不明なのですが、
このきのこは食べなくてもいいでしょう(笑)。
ハチタケの胞子には「鈎」がついていて、
それがたまたまハチに引っかかったときだけ、
発芽できるらしんです。
な、なんて、非効率な……。
しかし、森の中で、ぼくの天敵が、
大好きなきのこに変わっているなんて、
考えてみたら、すごくファンタジックですよね(笑)。
ハチタケさまさまです。