食べられるきのこは「良いきのこ」で、
毒きのこは「悪いきのこ」だと思っている人は、
もしかしたら、けっこう多いかもしれません。
きのこを食べて中毒を起こした場合、
往々にして非があるのは食べた人間であって、
きのこには何ら罪はありません。
例えば、人家の近くで、
スズメバチが大量発生したら、
駆除することも含めて早急な対策が必要でしょうが、
猛毒を持つきのこが大発生したとしても、
単に食べなければいいだけの話なので、
対策うんぬんは必要ないと思われます。
さて。
今回ご紹介する、モミサルノコシカケは、
林業関係者にとっては「悪いきのこ」です。
モミサルノコシカケは、名前の通り、
サルノコシカケの仲間で、多年生。
主にトドマツの生立木から発生します。
形は馬蹄形、あるいは釣鐘形で、
厚さは3〜16cmくらい、半径4〜20cmほど。
表面には環紋があり、
幼い部分は黄褐色〜灰褐色、
老成した部分は黒褐色〜灰褐色です。
下部は暗褐色で微細な穴が空いています。
食不適。
人間にとって、毒はないようですけど、
まあ、サルノコシカケの仲間なので、
食べるにはまったく値しません。
それはそうと、モミサルノコシカケは、
トドマツの幹の傷から内部に侵入し、
その周辺部を白色腐朽させます。
枯死した部分は成長が止まり、
周囲はそのまま成長を続けるために、
幹の縦方向に大きな溝ができてしまうんです。
木材的価値が著しく低下!
「溝腐病」と呼ばれる所以です。
きのこファンにとっては、
四季折々いつでも必ず見ることができるので、
きのこが激減する冬に「きのこ分」を補給できる、
貴重なきのこのひとつなのですが、
林業関係者にとっては、大切な資産を脅かす、
厄介者だと言えるでしょう。
生木に取り付いてその木を枯死させるということは、
自然界においては、間引きすることに他ならず、
老成した大きな木が無くなることで、
その場所に日があたり、林床に新しい芽生えがあり、
森を活性化させる、と考えることができます。
自然の森でモミサルノコシカケを見つけたら、
木の敵とばかりにガリガリと削り取ったりせず、
(もちろん、食べられませんし)
ここは、単に、ひとつのきのことして、
じっくり鑑賞させていただきましょう。