阿寒の森のちょっと奥へと足を踏み入れると、
国道を走る大型トラックの走行音が、
かすかに聞こえてくることもたまにはありますが、
基本的には、人工物とはほとんど無縁の、
自然の世界が広がっています。
写真を撮ることがぼくの仕事なのですが、
阿寒の原生林を目の当たりにすると、
思考が一時停止するというか、全身が弛緩するというか、
とにかく、嬉しいやら、感動するやらで、
写真を撮ることも忘れてぼ〜っとしてしまうことが、
しばしばあります。
でも、ある瞬間に、ふと我に返ると、
洪水のように押し寄せてくるいろいろな情報を、
五感で受け止めつつ頼りない脳みそで処理して、
気になる「何か」を記録すべく、
カメラのシャッターを押すわけです。
気になる「何か」とは、もちろん、きのこ(笑)。
生物も非生物も含めて、眼の前に、
圧倒的なまでの大自然があるというのに、
まず、気になるのは、きのこなんですよね……。
このウスキモミウラモドキを撮影したのも、
人間の気配がまったく感じられない森の奥でした。
3時間くらいの滞在時間のうち、
写真を撮影したのは最後の30分ほど。
あとは、何と言うか、うっとりしてました。
ウスキモミウラモドキは、夏から秋にかけて、
各種森林の地面から発生します。
傘は直径2〜7cmくらい。
表面は繊維状でやや灰色を帯びた淡い蜜色。
円錐状のまんじゅう形からほとんど平らに開きます。
ヒダは密で、初め白く、やがて淡紅色に。
柄は高さ5〜10cmほど。
傘よりは色が淡く、繊維質で、中空。
そして、しばしば、ねじれます。
そう、このねじれがたまらないんです、はい。
『北海道のキノコ』によると、
ウスキモミウラモドキは、漢字では、
「淡黄擬紅絹裏」と書きます。
淡黄色で裏が紅絹(もみ)のきのこに似ているきのこ、
という意味だと思います。
食毒はよくわかってないようですが、
食べるには適さないようです。
見つけたら、とにかく、柄のねじれを、
じっくりとご堪能あれ。
はるか昔、われわれのご先祖さまが、
夜空を埋め尽くす星々を意識しはじめたときから、
人間は他の生きものとはやや異なるというか、
ちょっぴり特殊な脳みその使い方を得たのかも。
そう、大自然のなかで、思う存分、
あれこれ想像空想夢想妄想することは、
人間に与えられた快楽のひとつに違いありません。