大学生になってから、
登山や沢登りが好きになったので、休みのたびに、
まだ見ぬ大自然を求めて出かけていたのですが、
まさか、春の始めから秋の終わりまで、ほぼ毎日、
森に入り浸る生活をすることになるなんて、
昔のぼくは、想像だにしなかったと思います。
きのこや粘菌に興味を持つと、
いつでも、どこでも、あまり意識せずとも、
きのこや粘菌が目に入るようになります。
「きのこ眼」「菌視」「菌眼」
などと、きのこファンの間では言われています。
興味を持つこと、あるいは、知識を持つことは、
それまで見えなかったものが見えてくること。
きのこや粘菌というフィルターを通すことで、
はじめて見えてくる世界があるんですよね。
世界がぐんと広がるんです。
知らずのうちに強化された「きのこ眼」は、
コケの間から生えるきのこを鋭くキャッチしますが、
それまで脇役だったコケや地衣類の面白さにも、
気づくことができるわけで……。
じっくり腰を据えて、森の倒木をよく観ると、
思っていた以上に、たくさんの種類の、
コケや地衣類が生えていることに驚かされます。
10倍程度のルーペで見てみると、
1本1本の造形が、本当に、複雑で、精緻で、
思わず感嘆の声をあげてしまうほどです。
そして、もちろん「きのこ眼」ですから、
森の地面の地味な落葉の間に、
これまた地味な色のきのこが生えていることに、
しっかりと反応するわけで。
今回見つけたのは、チャナメツムタケです。
傘の直径は4〜10cmほど。
最初はまんじゅう形でやがて平らに開きます。
表面は粘性があり、レンガ色。
はじめは綿毛状で帯黄色の鱗片が付いています。
傘の裏のヒダはびっしり間隔がつまっていて、
淡色から汚褐色に変化していきます。
柄は高さ5〜10cmほどで、やや繊維状。
上部は帯白色、下部は褐色で、ささくれがあります。
食。
野性的なナメコ、という感じの味で、
汁ものや炒めものなどによく合います。
チャナメツムタケは、
他のきのこでもよく見られるケースなのですが、
発生時期が春と秋の2回あります。
どちらかと言えば、本格的な発生シーズンは、
秋だと言えます。
もし、仮に「きのこ眼」を駆使してなお、
森の地面にきのこが見つからないとしても、
きのこの本体は地中にいる糸状の細胞=菌糸なので、
つまり、姿こそまったく見えないとしても、
そこらに存在していることは疑いようがなく、
そんな見えないきのこを想像をするだけでも、
森の散策は楽しいのであります、はい。