科学の進歩は、ときに、残酷なほどに、
人々が一歩ずつ積み重ねてきた努力の結晶を、
根底から覆してしまうことがあります。
(それはそれで素晴らしいことですが)
きのこ界の話に当てはめて言うなら、
分子系統学的分類の登場、および、普及でしょう。
それまで「見た目」で行われていた同定・分類は、
無意味、とまではいかないものの、
過去のものになりつつあります。
人の目は想像以上によくできていて(笑)、
場数を重ねて慣れてくるにつれて、
瞬時にそこそこ精度の高い見分けが可能です。
そのきのこをひと目見ただけで、
あ、これはテングタケの仲間、とか、
モエギタケ系とか、わかっちゃうんですよね。
図鑑で詳しく調べるときも、
行程を何ステップかパスできるので、
より早く、より正確に、種名にたどり着けたりします。
しかし、種の同定、というか、分類が、
DNAの塩基配列がうんぬん、かんぬん、
ということになってしまうと、
素人の手には負えなくなってしまいます。
しかし、まあ、全部が全部、
見た目での分類が覆されてしまったわけではなく、
まだそこそこは通用しているはずですが……。
夏の初め、ブナの生育の北限と言われている、
(阿寒では寒すぎてブナは育ちません)
北海道は黒松内のブナの森を歩いていたら、
「きのこ目が」ぴぴぴ、と反応しました。
何もないような地面で見つけたのは、ブナの実。
正確に言うと、殻斗=どんぐりの帽子の部分=です。
しかし、じ〜っとよく見ると、ビンゴ!
白くて細いきのこがにょきにょき。
ブナノホソツクシタケです。
ちょっときのこに詳しい人なら一目瞭然。
ホオノキの実から発生するホソツクシタケにそっくり。
ブナの実から発生するから、ブナノホソツクシタケ、
というわけで、近縁種だそうです。
初夏くらいに、地面に落ちているブナの実を、
丁寧に見ていくと、見つかります。
きのこは黒くて細長く、先端が尖っていて、
ときに高さ5cmほどになることも。
成熟するとともにだんだん白っぽくなり、
ふっと息を吹きかけると白い粉=胞子が、
ぶわっと舞い上がります。
食不適。
細くて小さくて固くて、
まあ、食べる気にはなりませんね。
それにしても、きのこの同定は、
個体差も地域差もあるし、
見た目での判断も時代遅れになりつつあるし、
なかなか大変ですけど、
今まで出会ってなかった新しい種を知る喜びは、
快感以外の何ものでもありません。