それまで雨が降らず、カラカラに乾いた森は、
雨が降ると、雰囲気が一変します。
車を降りた瞬間に、森の香りが鼻腔をくすぐります。
爽やかだけどほんの少しだけ鼻にツンとくるような、
空気中に漂う何らかの物質と、樹木がつくる物質が、
独特の香りをつくりだしているのかも。
そう、だから、例えば、
阿寒川の上流部に広がる針広混交林と、
雌阿寒岳山麓に広がるアカエゾマツの純林とでは、
明らかに香りの構成成分が違う気がします。
今回ご紹介する、
オウバイタケの写真を撮影したのは、
阿寒湖から車で20分ほど離れたオンネトーのほとり。
雌阿寒岳の山麓とはちょっと異なり、
アカエゾマツよりトドマツがやや優勢な、
これまた針葉樹の森です。
針葉樹林、というと、
内地で多く見られるスギの人工林を思い出し、
昼なお薄暗く、植生が単純なのできのこが少なそう、
と思う人がいるかもしれませんが、
どうぞご心配なく……(笑)。
針葉樹は常緑だからといって、もちろん、
落葉が全然ないわけではありません。
森に足を踏み入れたら、落葉でふかふかです。
この何層にも積み重なった落葉がつくる地面は、
絶好のきのこ観察ポイントでもあるのです。
オウバイタケは、夏から秋にかけて、
主に、トウヒ類の落葉から発生。
群生することも珍しくありません。
傘は経0.4〜1cmほどで、円錐形〜釣鐘形。
表面は、中央部が鮮やかな橙色で周縁部が黄色、
古くなると全体的に淡い黄色に。
湿っているときには条線が見られます。
ヒダは白色でやや間隔が広くなっています。
絵は高さ18〜55mm。
淡い黄色〜白色で、中空です。
食不適。
まあ、小さくて、どんな味がするのか、
すごく分かりづらそうですね。
こんな可憐なきのこなので、ぜひ、じっくりと、
観察・鑑賞させていただきましょう。
ちなみに、
トドマツは、マツ科モミ属、
エゾマツ、アカエゾマツは、マツ科トウヒ属なので、
オウバイタケが発生するのは、
主にエゾマツ、アカエゾマツの落葉です。
これらの樹木の生きた葉は、
ちょっとだけちぎって匂いを嗅ぐと、
いかにも森!といった感じの、
とても素敵な香りがします。
この香りを知ってしまうと、
さらに森の虜になってしまいます。
読者の皆さまも、ぜひ、阿寒湖へおいでになり、
この魅惑の香りを心置きなくご堪能あれ。