kirikou
大貫妙子さんと
『裸のキリク』。
 
映画『キリクと魔女』のイメージソング
『裸のキリク』を書き下ろし、
歌っている大貫妙子さん。
彼女の歌は『キリクと魔女』の監督である
ミッシェル・オスロ監督からも
「アフリカの心を持つ仲間である!」と
絶賛されたほどです。

アフリカとも縁が深い大貫妙子さんに
映画『キリクと魔女』のこと、
イメージソング『裸のキリク』のことを
伺ってみました。

── はじめに、映画のイメージソング
『裸のキリク』を作るにあたって
この映画をご覧になったと思うのですが、
観た時の感想をお聞かせいただけますか。
大貫 最初見たときはちょっと変わったアニメだなって
思いました(笑)。
今まで見たアニメ映画と、どこか肌合いが違う。
登場人物の描画方法とか・・・
紙みたいなところがあるでしょう?
紙の人形が動いているような。
色は、とてもきれいでした。
お話は、
ずいぶんあっけなく終わっちゃうんだなっていう
印象が強かったですね。
「え? 物語はここから始まるんじゃないの?」
って。
すごく丁寧に描かれていく前半と、
早い展開になっていく後半との違いに
最初に見たとき、驚いて‥‥

でも、音楽をつくるために
何度も見ていくうちに、
いろいろなテーマが隠されていることに
気づきました。
「隠し絵」って、ごぞんじですか?
「騙し絵」って言うのかな?
よく見ると、
いろんな動物が隠れてるような絵、ありますよね。
『キリクと魔女』も、見方によって
いろいろ隠されていることがわかってきたんです。

この映画でいちばん好きなのは、
答えは自分で経験して、自分で探す
っていうこと。
ものごとに対する答えっていうのは
ひとつではないハズなんです。
でも最近は、やるまえに、答えが見えてるから
って言って、行動を起こさない人も多い。
ひとの作ったマニュアルではなく、
自分のオリジナルなマニュアルを
持つべきだと思いますね。
── 後半の展開が早いことで、
不親切に思う人もいるかもしれないですね。
現代の日本のアニメや
ハリウッド映画に慣れすぎていると
「えーっ?」って思うかもしれないです。
たしかに観る人が自分で想像を膨らませて
「答えを自分で探す」ところが
楽しい映画だなって思います。
大貫 ヨーロッパの映画って、
結論のないものが多いですよね。
もう死んじゃってそのままとか。
ぜんぜん救われなかったりとか。
放っぽらかしみたいなのが。
あるいは、淡々と何も起こらない。
そうすると、見終わって、「何故?」って考える。
自分に置き換えてみたりして考える。
それって、緒を引くんです。

そう考えると、ハリウッド映画って、
何らかの答えが用意されているものが
多いですよね。
いい奴と悪い奴がわかりやすい。
現実の世の中には
「悪いやつ」と「いいやつ」だけが
存在するわけじゃないじゃないのにね。
── CD「裸のキリク」についても
ぜひ聞かせてください。
映画からイメージをして
曲作りをするということは
今までもありましたか。
大貫 フランス映画の「ポンヌフの恋人」で
日本用のイメージソングを書いたことがあります。
そのときは、
自分のアルバムの為に、
NYで録音してきた曲を聞いて
配給会社の方が、その曲を使いたいって
言ってくださったんですけれど。
その時点では、まだ歌詞をのせていなかったので
映画に沿って歌詞をあらたに書きました。
「哀しみの足音」というタイトルの曲ですが。
今回の、ゼロからつくるというのとは
ちょっとちがうかな。
── 今回の場合はどのようにイメージを
膨らませていかれたんですか?
大貫 「アフリカの大地の空気の情報」を、
音と言葉のなかに込めたいな、
という気持ちで、つくりました。

わたし、アフリカには
のべで1年ぐらい住んでいたんで。
90年代は2ヶ月を5年間続けていて、
80年代から行っている時間を
全部たすと、のべ1年ぐらい
滞在してたことになります。
もしわたしがアフリカを知らなかったら
やっぱり・・・「借りてきたイメージ」に
頼ったかもしれません。
テレビで見て知ってるアフリカとか、
写真で見て知ってるアフリカとか。
でも、そういうイメージって、
ほんっとに一部分を
切り取ったものでしかないんで。
いちばん大事な情報は残念ながら
温度とか、匂いの中にあるんで。

わたしのいたアフリカは
野生動物の棲むエリアでしたから、
そこにおいていちばん大事なのは、
風や、雨のやってくる匂いや、温度。
おそろしく寒い朝晩と灼熱の日中。
おびただしいダニとか(笑)
おそろしいほどの星の数とか、
闇の中で光る野生動物の目の色とか
はる〜か彼方の動物の声とか、
あるいは何にも聞こえないことであるとか、
アフリカの時間の流れ方とか。



「キリク」の住む村は
どこにあるのかわからないけれど
きっと、あのアフリカの空気は
変わらないだろうと・・・
「キリク」がどういう人物かということは
もう映画で描かれていますよね。
ですから、それを歌う必要はなくって、
わたしの知っている、アフリカの
「失われている情報」を
音と言葉の中に、なるべく入れたいな、
というイメージで作ってみました。

ところで、
わたしに依頼してくださったのは、やっぱり
「アフリカ」で「フランス」というつながりなの?
── 糸井が『キリクと魔女』を観て、
思いついたんですね。
「大貫さんに歌ってもらったらいいんじゃないか、
 でも他の人だったら、ないよね」
って言ってました。
イメージソング作りたくて誰か、というよりは、
大貫さんでイメージソング、
それ以外の選択肢は、もしダメだったらやめよう
っていう話だったんです。
大貫 それは!ありがとうございます。
光栄です。
── 映画から大貫さんへと
なにかがつながったんでしょうね。
糸井はフランス映画が
ほんとは嫌いみたいなんですよ。
でもこの映画はずいぶん違うって
思ったみたいですね。
大貫 そうですね。この映画はちょっと違う。
わたしは、その糸井さんが嫌いだという
フランス映画、好きなんです。
理屈っぽい。超理屈っぽい。
理屈っぽい人はニガテだけど、映画はべつ(笑)
── 男と女が出てきて、ぐじゃぐじゃする、
というような‥‥(笑)。
大貫 ああ、そう!
ぐちゃぐちゃぐちゃ
ぐちゃぐちゃぐちゃしてる。
そのぐちゃぐちゃさが可笑しくて!
フランス人の男の人も
なかなかめんどうです、
そんなにたくさんは知りませんが(笑)
フランスって、女性、強いですよね。
お母さんが強いんだろうと思うんですよね。
── ラテンの国ですね。
大貫 『キリクと魔女』のキリクは
弱虫じゃないですよね。
実は、わたしにとってこの映画で
キリクよりも強い存在を感じたのは
キリクの「母親」なんです。
動じない、母親の存在です。
今、いちばんなくなりつつある
母親像であることは確かですよね。
── 何があっても騒ぐことなく、
たんたんとキリクを見守っていて、
強い母ですよね。
大貫 そう。でも、すごい愛ですよね。
自分の子どもだからできることですよ。
だから、この映画ではキリクも大事なんだけど、
母親を見ていただきたいです。
音楽‥‥気に入ってもらえたのかな?
── すごく。すごく。
大貫 ああ、良かった‥‥(笑)。
最初、アフリカで録音しようかと・・・・
わたしが以前滞在していたのは
東アフリカだったんですけど、
アフリカで音楽をつくろうと思うと
西アフリカかな・・・。
だから、そこまで行こうかな!?
なんて思っちゃったんです、一瞬。
── 急なお仕事の依頼でしたから、
ご自身のアルバムをつくられるようには
環境をととのえることは
できなかったかもしれないですね。
大貫 時間的な制約から、
海外はやめました。
── 今回アレンジは大貫さんと高野寛さんですね。
音のこと、聞かせてくださいますか。
大貫 基本的にリズムトラックは、
打ち込みを使っています。
それに本物のパーカッションを
ミックスしてあります。
たとえばジャンベであるとか、
カリンバであるとか【註】

 【註】
 ジャンベ‥‥アフリカのリズム楽器。
 くり貫いた木にヤギの皮を長い紐で貼る。
 ひざにはさんで手で叩いて音を出す。
 カリンバ‥‥アフリカのメロディ/リズム楽器。
 共鳴する箱や板に、細いヘラ状の鉄の舌を並べ、
 親指ではじいて弾く。


じつは、最初、生の音だけで
ぜんぶの録音をしてみたんです。
でも、やっぱりね‥‥微妙に、
なんていうのかな、
本物になりすぎちゃったりとか。
けっこう、楽器特有の倍音とかが多いので、
重ねていくとすっきり聞こえなかったりとか。
いろいろあって、打ち込みの上に、
生の楽器を重ねる、という方法をとりました。



本物を使えばいいってものでもなくて。
なるべく多くの人がイメージしている
キリクの空気というものを
サウンドで作り上げることが、
目的であるわけですから。
いろいろミックスしたところに、
丁度いいツボみたいなものがあるんですね。
アニメもある意味では
バーチャルですものね。
── そうですね、ほんものをそのまま
映したわけではないですね。
大貫さんは、このレコーディング中、
『キリクと魔女』のビデオを
ずっと流されていたんですよね。
大貫 ずーっと流してました。
常に目のはしにビデオの映像を入れつつ、
そこから離れないようにしていました。
「どのシーンにこの音楽をのっけても、
 違和感がないように」っていうことを
考えながら。

映画音楽ではなく、
あくまでイメージソングなので。
サントラのユッスンの音楽が、とてもいいので。
わたしのはオマケみたいなものですが
オマケもついてるとついてないじゃ、
嬉しさも違いますよね(笑)
── 映画には大貫さんの歌は出てきません。
でも、あとで、映画の世界と、大貫さんのこの歌、
「ひとつ」のものになって頭に残っています。
ミッシェル・オスロ監督【註】
大貫さんの歌を聴いて絶賛されてお手紙を
くださったんですってね。


 【註】『キリクと魔女』の監督。
 原作、脚本も手がけている。
大貫 そう、お手紙をいただきました!
あっ!!まだお返事書いていなかった(笑)。
オスロ監督は、とても褒めてくださったけれど、
パーカッションが大きいんじゃないかなって
書いてあったよね。
確かにちょっと大きく聞こえるかもしれない。
でも引っ込めちゃうと、
またちょっと、ビート感がなくなるんです。
そこ、微妙なんです。いつも悩む・・・
── コンビニエンスストア【註】でかかると考えると、
あのぐらい強いほうが、
お店の中で聴いた人が「おっ!」
と思うんじゃないのかなって思いました。


 【註】『裸のキリク』は
 コンビニのローソンで流れています。
大貫 そういうことも考えました。
歌詞で「キリク」を連発することもね(笑)。
もう、呪文のように、
とにかく「キリク」「キリク」「キリク」!!!
耳に焼き付けてもらおうと思って。
「キリク」って音の響きもきれいですよね。
言霊があるような‥‥
「キリク」「キリク」って耳から入ってきて、
なんだろう? って。
頭の中で鳴ってくれるといいなと思って。
コンビニで流れることをイメージしながら。
じつはわたし、ほっとんど
コンビニ行かないんですけどね(笑)。
たまに行くと、音楽が必ず流れてますよね、
けっこううるさいなって思う時もある。
あれって有線なんですか?
どこも同じじゃなくても
いいんじゃないですかね・・・
コンビニ行かないひとがいう
意見ではないですけど(笑)
なんか、感じのいいコンビニの音楽って、
あってもいいんじゃないかと思うんだけれど。
── そういうのがあってもいいですよね。
このコンビニは入ると気持ちいいとか。
大貫 そう、そう。
『裸のキリク』はどうかな。
── ぜひ「ほぼ日」の読者のみなさんに
聴いてみてほしいです。
どうもありがとうございました。

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2003-08-05-TUE

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