娯楽映画の運命。
真夏の深夜の『キリクと魔女』座談会より。

第5回 大きい音楽ってなんだろう?

糸井 このあいだ、NHKで、大貫さんが、
アフリカのハイエナについて力説するのを
見ていたんだけど、あれはよかったなぁ。
ぜひ、今日も語ってほしいくらいです。
高畑 ぼくも、動物番組とかで、
そのへんの事情をよく見てるんですけど、
ぜひ、それは聞いてみたいです。
糸井 あの話、してよ!
大貫 いやぁ……。
糸井 大貫さんが自分で思っている以上に、
すごくおもしろいよ。
大貫 うーん。
ハイエナは、ほんとに忌み嫌われていて、
どうしていつも悪者になっているのかと
思っているんですけど。
糸井 「ゴミを漁って笑ってる」みたいな
イメージで、語られてますよね。
鈴木 無茶苦茶ですよね、あれは。
大貫 そもそも、どうして動物を
悪いやつといいやつにするのかというのが
ありますけど。
それはそれとして。

ライオンは確かに、
人間ぐらいしか天敵がいないから、
ふだんも、足をこんなに開いて、
お腹を出して寝てますけど、
ハイエナのために、ぜひ言いたいのは、
「自分で狩りをしないで
 落っこちているものだけを
 食べているような生きもの」
ではぜんぜんない!ということです。

どちらかと言うと、ライオンが、
ハイエナの倒したものを横取りするというのが、
半分ぐらいはあります。

それで、ライオンもうまく生きていける。
ハイエナがいるから、
ライオンも生きていられるんですね。

ハイエナは、写真家や研究者の間で、
ほんとうに人気が高いんです。
ものすごく変わった動物なんです。
言えないようなこともいっぱいあるけど。
糸井 それ、何?
あとで教えてね(笑)。
大貫 たとえば、
オスとメスを見分ける場合、
体の部分では、ある1カ所ですよね。
ところがハイエナの場合
メスにも見た目は、同じものが付いている。

子どもを生んだ時、乳房が大きくなって、
それでメスだとわかるんですけど。
でも、メスの方が体が大きいので、
それもひとつの目安ですが。



それから、とにかく
においの動物で、
においをおたがいに嗅ぎまくるのは、
ほんとにすごい。
とにかくおもしろいんです。


どうして、
ハイエナに興味を持ったかというと、
その前に、ライオンをずっと
観察していたんですけれど、
ライオンとハイエナはとにかく仲が悪いんです。
ハイエナのことをきちんと見ないと、
ライオンのことはわからないので、
次の仕事の時は
ハイエナをぜひ観察させてほしいと、たのみました。
そしたら、ハマってしまって。
糸井 (笑)いいなぁ、この話。
高畑 音楽家としては、
ハイエナって、声悪いですよね。
大貫 声、いいですよ。
ものすごく色っぽいです。
エッチに近いですね、ハイエナの声は。
声の表現の種類がとにかく多いんです。
少なくとも、30種類以上の声がある。
それが、色っぽく感じるんですよね。
糸井 (笑)そうなんですか?
大貫 ライオンよりも、ずっと色っぽいです。
夜のアフリカは真っ暗じゃないですか。
その夜に、ハイエナの
「キッキッキ!」というような声が
遠くから聞こえてくると、
なんか、ゾッとして、いい感じです。
糸井 (笑)
大貫 だから、じっと、聞いてるんです。
闇の中の声を、耳をとぎすませて。
他にないんですから、たのしみが(笑)。


狩りをすると、ハイエナは、とにかく、
興奮して、キーキーうるさいんですよ。
あまりによろこびすぎて、
その声でライオンが来ちゃうの。
糸井 (笑)ハイエナって大きい?
大貫 大きいですよ。
オスは体長110センチくらい。
メスは120センチ。
メスのほうが大きくて強い。
メスが実権を握っているんです。
いちばん強いメスから生まれた子どもが、
群れの中ではいちばん位が高いので、
成獣のオスよりも、その子どものほうが、
ちっちゃくても地位は上なんです。
糸井 それだけ詳しいのは、すごいなぁ。
ハイエナだけでも、こんなにあるんだよ。
これは、大貫さんに、
音楽、頼みたくなるじゃないですか。



やっぱり、大貫さんに頼んでよかった。
このハイエナの向こうに
広がる景色だとか、光だとか、
それを見た人と見てない人には、
すごい差があると思うよ。
大貫 今回のイメージソングは
いろいろ制約もあったので、
さらに時間があれば、
もっとできたと思うけれども
いまこれを
アフリカに持っていって聴いても、
少なくとも違和感のあるものではない、

っていう風に思っています。

アフリカには、いっぱい、
いろいろな音楽を持っていったんです。
CD、かけてみるの。
……合わないのが、あるんですね。
糸井 ある、ある!
大貫 東京だったら、すごくいいのに、
アフリカの平原では、
見事に合わない曲が、あります。
すごくダサく聴こえたり、とか。
やっぱり、音楽の内包しているものが
大きいものじゃないとダメみたいですね。


それがなんか、アフリカで聴いて
「いいな」と思える作品の共通項じゃないかなぁ。

ちょっと、しゃべりすぎちゃった。
『キリク』の話を、してください(笑)。

(つづきます!)

2003-08-25-MON

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