娯楽映画の運命。
真夏の深夜の『キリクと魔女』座談会より。

8月8日の「『キリクと魔女』を深夜に観る会」座談会は、
高畑勲さん、大貫妙子さん、鈴木敏夫さん、糸井重里と、
参加者が4人とも「なんでもあり」な面々だったせいか、
かなり盛りあがりました。その様子を、まるごとおとどけ!

アニメ映画は、歴史的にパトロンなしではありえなかった?
ハリウッド映画でも、芸術映画でもない「娯楽映画」とは?
『キリクと魔女』から見える映画界を、おたのしみください。

大貫妙子さん・高畑勲さん・鈴木敏夫さん・糸井重里
第6回 パトロンってなんだろう?

(※会話は二転三転して、最終的には、
  韓国やフランスのように、国によって
  映画産業が支援されているかたちはどうか?
  という話題になりました。興味深かったので、
  最終回に、その部分をまとめておとどけです)


糸井 「そんな話をしてもしょうがない」
という気もするのですが、敢えて言えば、
韓国も、フランスも、グローバルから
自国の映画を保護する法律を作るよりも、
勝つ映画を作るほうがいいと思うんですね。

つまり、「昔からあるものはいいんだ」と
主張するのは、すごく難しい戦いになる
というか。
保護貿易は、大変だと思うんです。
作る立場として、鈴木さんはどう思いますか?

鈴木 たとえば、
ディズニーのアニメーションが、
フランスのような国で
受け入れられるのかというと、
最近のディズニー映画は、フランスでも、
十分に受け入れられるようになったんです。
以前は、「フランスだけはそうじゃない」と
言われていたんですけどね、
現実は、そういうことが起きています。

フランスでは、日本のアニメーションも
人気がありますが、国会で
締め出されることがありましたね。
高畑 今は、フランスの法律が
どうなっているかというと、
パーセンテージを決めているんですね。
放送するアニメのうちの
この程度は、フランス製で、と……。

以前は、日本のアニメが、すごい
パーセンテージを占めていたんですが、
国内製、EU製、それ以外、と
パーセンテージが決められているから、
だから、日本のアニメーションの市場は
失われているかもしれないですね。
糸井 「パーセンテージ」って、
いかにも、フランスですよね。
高畑 ところが、フランスでは、
非常にマイナーに見える映画でも、
映画館でちゃんとやっていますよ。

日本みたいに、
同じような映画ばかりが
やっているというよりは、
単館ががんばっている印象があります。
それから、去年、おもしろいなぁ、
と思ったことは、外国映画であっても、
フランス国内で賞を受賞すると、
配給会社に対して、助成金が出るんですよ。
ああいう制度は、すばらしいです。

自国を守るだけじゃなくて、
いい映画だったら、自国の中で
評価したなら、見せようじゃないかと。

糸井 フランスのように、
税金の使い道として、
文化を、水やガスと同じように
ちゃんと考えられるところまで行くのは、
大負けした歴史とか、
そういうのが、要るんですかね?
大貫 フランスでは、
音楽でも援助が出ますよね。
ミュージシャンが、
「何時間、音楽活動をした」と提出すると、
国からお金を、もらえるんですよね。
それがいいかどうか、わからないですけど。
糸井 「援助したからグズになった」
という言い方もあるだろうし、
「そういうのがあるからこそ、
 こぼれているものが成り立てる」
とも言えるし、わからないですね。
大貫 難しいね。
鈴木 ええ。
糸井 落語は、
保護されているも同然ですが、
やっぱり、つまんなくなって
競争力がなくなってきていますよね。
でも、放っておいたら、
ほんとになくなってしまうというか。
鈴木 韓国の人が来た時に、
こないだちょっと話をしたんだけど、
盧泰愚の時代に、特に
映像に対して予算を補助しましたよね。
財閥に話をしてお金を出させた。
ぼくが気になっていたのは、
「国がしゃしゃり出ると、
 作り手は、嫌になるんじゃないか」
ということでした。そこを聞いてみたんです。

そうしたら、
「ひとつの映画に
 どれだけの助成金が払われたかは、
 シークレット扱いにされる」

ということだそうです。
それを聞いて、なるほどと思ったんですけどね。

糸井 高畑さんは、どうですか?
アニメだって、ほんとはめちゃくちゃ、
お金も時間もかかりますよね。
高畑 何らかのかたちで、
助成金みたいなものは、
合っているんじゃないか、アニメは
そういう側面を持っているのではないか、
と思うんですけどね。

実は、この世界では、歴史的に、
非常にすばらしいアニメーションを
作りだしてきたのは、
ソ連であったりとか、チェコであったり、
いわゆる資本主義国の中では、
カナダだったりするんですよね。
カナダは、アメリカの隣だから
保護政策を取ってきたわけです。

しかも、そういったところの
アニメーションが政治的かというと
そういうことはないわけで、やはり、
そういう力はもらったほうがいいんじゃないか、
という気はしますよね。
ぜんぶそれでやれ、ってことじゃないんですけど。
鈴木 映画ってことで言うと、
ぼくもあるレポートで読んだんですが、
世界の中で、映画に国が助成していないのは
日本だけなんだそうですよ。
すでに、日本以外では、
助成するかたちに、なっている、と。

ぼくらの場合、
東京都がアニメーション関係の
イベントをするようなところで、
逆に参加する費用を取られているんですよね。

商業主義で映画を作るのも
おもしろいとは思うんですけど、一方で、
パトロンがいてお金を出すというのが
おもしろい、という話もあるし……。
大貫 昔は、音楽でも絵でも、
パトロンがいて、その人のために
作っていたわけじゃないですか。
実は、パトロンのために作ろうという行為が、
非常に個人的なために、
ものすごくいいものができたんだとも
思うんですね。
今は、誰のために作っているのか
わからないから、グッとこないというか。
鈴木 それ、すごくわかります。
高畑 いまの話、ものすごくおもしろいですね。
大貫 捧げたい対象が、あるかないかでは
作る側としては、
大きな違いがあると思うんです。

でも、パトロンがいなくても、結局そういう
作りかたをしている、とは思いますが。
糸井 ただ、パトロンがいた時代でも、
パトロンが他の人たちに自慢できないと、
作らせる意味がないから、
自慢できるということは、
美の共通概念や、共通性にも
関わることだとは、思うんですけどね。
一見、一対一の関係だけど、結果的には、
時代の要請が、作品に影を落とす……。
今も、ほんとは同じなんだと思うんですよ。

ただ、今、
企業が映画にお金を出すことって、
日本では、簡単に言うと、
株主総会を超えられないんですよ。
でも、ほんとは、人気のない会社ってダメだから、
会社を存続させるためには、映画への投資も、
一年ごとの事業計画の構造とは別のところで、
考えられて、いいことだと思うんですけどね。
夢は、実は投資の対象になるんだから。


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2003-08-28-THU

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