糸井 |
「そんな話をしてもしょうがない」
という気もするのですが、敢えて言えば、
韓国も、フランスも、グローバルから
自国の映画を保護する法律を作るよりも、
勝つ映画を作るほうがいいと思うんですね。
つまり、「昔からあるものはいいんだ」と
主張するのは、すごく難しい戦いになるというか。
保護貿易は、大変だと思うんです。
作る立場として、鈴木さんはどう思いますか?
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鈴木 |
たとえば、
ディズニーのアニメーションが、
フランスのような国で
受け入れられるのかというと、
最近のディズニー映画は、フランスでも、
十分に受け入れられるようになったんです。
以前は、「フランスだけはそうじゃない」と
言われていたんですけどね、
現実は、そういうことが起きています。
フランスでは、日本のアニメーションも
人気がありますが、国会で
締め出されることがありましたね。 |
高畑 |
今は、フランスの法律が
どうなっているかというと、
パーセンテージを決めているんですね。
放送するアニメのうちの
この程度は、フランス製で、と……。
以前は、日本のアニメが、すごい
パーセンテージを占めていたんですが、
国内製、EU製、それ以外、と
パーセンテージが決められているから、
だから、日本のアニメーションの市場は
失われているかもしれないですね。 |
糸井 |
「パーセンテージ」って、
いかにも、フランスですよね。 |
高畑 |
ところが、フランスでは、
非常にマイナーに見える映画でも、
映画館でちゃんとやっていますよ。
日本みたいに、
同じような映画ばかりが
やっているというよりは、
単館ががんばっている印象があります。
それから、去年、おもしろいなぁ、
と思ったことは、外国映画であっても、
フランス国内で賞を受賞すると、
配給会社に対して、助成金が出るんですよ。
ああいう制度は、すばらしいです。
自国を守るだけじゃなくて、
いい映画だったら、自国の中で
評価したなら、見せようじゃないかと。
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糸井 |
フランスのように、
税金の使い道として、
文化を、水やガスと同じように
ちゃんと考えられるところまで行くのは、
大負けした歴史とか、
そういうのが、要るんですかね? |
大貫 |
フランスでは、
音楽でも援助が出ますよね。
ミュージシャンが、
「何時間、音楽活動をした」と提出すると、
国からお金を、もらえるんですよね。
それがいいかどうか、わからないですけど。 |
糸井 |
「援助したからグズになった」
という言い方もあるだろうし、
「そういうのがあるからこそ、
こぼれているものが成り立てる」
とも言えるし、わからないですね。 |
大貫 |
難しいね。 |
鈴木 |
ええ。 |
糸井 |
落語は、
保護されているも同然ですが、
やっぱり、つまんなくなって
競争力がなくなってきていますよね。
でも、放っておいたら、
ほんとになくなってしまうというか。 |
鈴木 |
韓国の人が来た時に、
こないだちょっと話をしたんだけど、
盧泰愚の時代に、特に
映像に対して予算を補助しましたよね。
財閥に話をしてお金を出させた。
ぼくが気になっていたのは、
「国がしゃしゃり出ると、
作り手は、嫌になるんじゃないか」
ということでした。そこを聞いてみたんです。
そうしたら、
「ひとつの映画に
どれだけの助成金が払われたかは、
シークレット扱いにされる」
ということだそうです。
それを聞いて、なるほどと思ったんですけどね。
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糸井 |
高畑さんは、どうですか?
アニメだって、ほんとはめちゃくちゃ、
お金も時間もかかりますよね。 |
高畑 |
何らかのかたちで、
助成金みたいなものは、
合っているんじゃないか、アニメは
そういう側面を持っているのではないか、
と思うんですけどね。
実は、この世界では、歴史的に、
非常にすばらしいアニメーションを
作りだしてきたのは、
ソ連であったりとか、チェコであったり、
いわゆる資本主義国の中では、
カナダだったりするんですよね。
カナダは、アメリカの隣だから
保護政策を取ってきたわけです。
しかも、そういったところの
アニメーションが政治的かというと
そういうことはないわけで、やはり、
そういう力はもらったほうがいいんじゃないか、
という気はしますよね。
ぜんぶそれでやれ、ってことじゃないんですけど。 |
鈴木 |
映画ってことで言うと、
ぼくもあるレポートで読んだんですが、
世界の中で、映画に国が助成していないのは
日本だけなんだそうですよ。
すでに、日本以外では、
助成するかたちに、なっている、と。
ぼくらの場合、
東京都がアニメーション関係の
イベントをするようなところで、
逆に参加する費用を取られているんですよね。
商業主義で映画を作るのも
おもしろいとは思うんですけど、一方で、
パトロンがいてお金を出すというのが
おもしろい、という話もあるし……。 |
大貫 |
昔は、音楽でも絵でも、
パトロンがいて、その人のために
作っていたわけじゃないですか。
実は、パトロンのために作ろうという行為が、
非常に個人的なために、
ものすごくいいものができたんだとも
思うんですね。
今は、誰のために作っているのか
わからないから、グッとこないというか。 |
鈴木 |
それ、すごくわかります。 |
高畑 |
いまの話、ものすごくおもしろいですね。 |
大貫 |
捧げたい対象が、あるかないかでは
作る側としては、
大きな違いがあると思うんです。
でも、パトロンがいなくても、結局そういう
作りかたをしている、とは思いますが。 |
糸井 |
ただ、パトロンがいた時代でも、
パトロンが他の人たちに自慢できないと、
作らせる意味がないから、
自慢できるということは、
美の共通概念や、共通性にも
関わることだとは、思うんですけどね。
一見、一対一の関係だけど、結果的には、
時代の要請が、作品に影を落とす……。
今も、ほんとは同じなんだと思うんですよ。
ただ、今、
企業が映画にお金を出すことって、
日本では、簡単に言うと、
株主総会を超えられないんですよ。
でも、ほんとは、人気のない会社ってダメだから、
会社を存続させるためには、映画への投資も、
一年ごとの事業計画の構造とは別のところで、
考えられて、いいことだと思うんですけどね。
夢は、実は投資の対象になるんだから。
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