北野武×糸井重里 たけし、コノヤロー。 新作『アキレスと亀』をとっかかりに。

第2回 まぁ、いいか。

糸井 たしかに、簡単に
「テーマは夫婦愛です」って
言えない映画ですよねぇ。
たけし ああ、ウン。
糸井 あの、昼間働いてるかみさんが、
夜中もシャッターに絵を描く
手伝いをさせられるっていうときに、
「夜、描いて、昼間は働いて、
 わたしはいつ寝るの?」
って訊くシーンがあるでしょ。
たけし ああ、アレね。
オレが「‥‥いいんだよ」って答える。
もう、人でなしだよね。
糸井 そうそう(笑)。
でも、あのセリフはよかった。
たけし アレ、おもしろかった。
ふつう、あんなこと言わないよ。
オレね、あのとき、あのセリフ、
なぜか言っちゃったんだけど、
ホントは下向いて、黙ってるはずだったの。
糸井 え?
たけし モウシワケナイ、って感じで
下向いてるだけだったんだ、ホントは。
だけど、カメラがセッティングしてるあいだに
ちょっと(気持ちが役に)入っちゃってね、
本番がはじまっちゃったんでそのままいったら、
「‥‥いいんだよ」って答えちゃった。
「アレ、いけねェ、違うこと言ってる」ってサ。
糸井 すごいね(笑)。
たけし ぜんぜんセリフが合ってないわけ。
でも、それが意外にうけちゃってね。
糸井 いや、よかったよ、アレは。
たしかに受け答えとしては合ってないけど。
たけし 外国でもあそこ、大爆笑なんだ。
「なにコレ」って(笑)。
糸井 たけしさんの映画っていうのは、
そういうふうに現場で決まっていくことが
ずいぶん、多いんでしょ?
たけし ウーン、そーだね。
糸井 そうじゃないとあのおかしさとか、
変な勢いみたいなものは、
出ないのかもしれない。
たけし 大杉漣さんが、
子どもをひっぱたく場面があって、
あそこも、漣さんが気合い入り過ぎちゃって、
ずいぶん強く、はたいちゃってさ、
子役のお母さんの目が点になってたからね。
糸井 (笑)
たけし 「オイオイ、やり過ぎだ」って(笑)。
糸井 でもOK出しちゃってるんでしょう?
たけし ウン。やりすぎかなと思っても、
「マァ、いいか」っていう。
糸井 ほかの映画がどういうふうなのか、
ぼくは知らないんだけど、
その「マァ、いいか」っていうのは、
たけしさんの映画独特のもんなんですか。
たけし 「マァ、いいか」っての、多いね。
アバウトだから。ウン。
糸井 あきらかにそれは
北野映画の大きな特長だよね。
たけし だから、映画でもいろいろあって、
監督の頭の中で「こういう方向」って、
カッチリと構図や画ができてて、
プランが立ってる人は、
絶対「マァ、いいか」はダメなんだけど。
糸井 うん。「マァ、いいか」はダメですよね。
たけし オレは、漣さんが
思ったより強めに子ども引っぱたいて、
違う方向に映画が行きだしても、
いちおう、そっちに乗るのよ。
糸井 ああー、そうなんだ。
たけし 乗って、そのまま行っちゃうときもあるし、
ちょっと軌道修正、みたいなときもあるし。
糸井 おもしろいね、そういう話は。
たけし 乗らずに、いちいち直していくと、
その時間っていうか、映画が、
じゃんじゃん、じゃんじゃん、
ちっちゃくなっていくんで。
その、現場が変な乗り方したら、
それ使っちゃおうっていうのが、多くて。
糸井 はーー。
たけし 自分の頭の中にないことやられても、
「マァ、いいか」って、なるんだろうね。
糸井 つまり、現場にある種の偶然があったら、
それは、もらっちゃおうということですね。
たけし ウン。
それが、じつは本質的なモンだ、
っていう考え方もあるの。偶然ってのが。
だって、演技してるのは、必然だから。
糸井 うん、うん。
たけし アクションシーンなんかは、とくに。
こう、殴り合うシーンで、予定外に
パンチがガーンと入っちゃいました、
ホントに殴っちゃいました、ってことあるのね。
「いいんだよ、入って」って言うの。
パンチが入るような設定だったから、
パンチが入ったんだからさ。
それを、わざわざ入らないようにやるのは、
形がマズイかもわかんないっていうんで。
糸井 なるほどね。
たけし ほんとにアクションやって、
パンチが当たっちゃったら
いい形で殴った、ってことだろうって。
糸井 おもしろい。
(つづくぞ、コノヤロー)

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2008-09-22-MON


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