糸井 |
たしかに、簡単に
「テーマは夫婦愛です」って
言えない映画ですよねぇ。 |
たけし |
ああ、ウン。 |
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糸井 |
あの、昼間働いてるかみさんが、
夜中もシャッターに絵を描く
手伝いをさせられるっていうときに、
「夜、描いて、昼間は働いて、
わたしはいつ寝るの?」
って訊くシーンがあるでしょ。 |
たけし |
ああ、アレね。
オレが「‥‥いいんだよ」って答える。
もう、人でなしだよね。 |
糸井 |
そうそう(笑)。
でも、あのセリフはよかった。 |
たけし |
アレ、おもしろかった。
ふつう、あんなこと言わないよ。
オレね、あのとき、あのセリフ、
なぜか言っちゃったんだけど、
ホントは下向いて、黙ってるはずだったの。 |
糸井 |
え? |
たけし |
モウシワケナイ、って感じで
下向いてるだけだったんだ、ホントは。
だけど、カメラがセッティングしてるあいだに
ちょっと(気持ちが役に)入っちゃってね、
本番がはじまっちゃったんでそのままいったら、
「‥‥いいんだよ」って答えちゃった。
「アレ、いけねェ、違うこと言ってる」ってサ。 |
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糸井 |
すごいね(笑)。 |
たけし |
ぜんぜんセリフが合ってないわけ。
でも、それが意外にうけちゃってね。 |
糸井 |
いや、よかったよ、アレは。
たしかに受け答えとしては合ってないけど。 |
たけし |
外国でもあそこ、大爆笑なんだ。
「なにコレ」って(笑)。 |
糸井 |
たけしさんの映画っていうのは、
そういうふうに現場で決まっていくことが
ずいぶん、多いんでしょ? |
たけし |
ウーン、そーだね。 |
糸井 |
そうじゃないとあのおかしさとか、
変な勢いみたいなものは、
出ないのかもしれない。 |
たけし |
大杉漣さんが、
子どもをひっぱたく場面があって、
あそこも、漣さんが気合い入り過ぎちゃって、
ずいぶん強く、はたいちゃってさ、
子役のお母さんの目が点になってたからね。 |
糸井 |
(笑) |
たけし |
「オイオイ、やり過ぎだ」って(笑)。 |
糸井 |
でもOK出しちゃってるんでしょう? |
たけし |
ウン。やりすぎかなと思っても、
「マァ、いいか」っていう。 |
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糸井 |
ほかの映画がどういうふうなのか、
ぼくは知らないんだけど、
その「マァ、いいか」っていうのは、
たけしさんの映画独特のもんなんですか。 |
たけし |
「マァ、いいか」っての、多いね。
アバウトだから。ウン。 |
糸井 |
あきらかにそれは
北野映画の大きな特長だよね。 |
たけし |
だから、映画でもいろいろあって、
監督の頭の中で「こういう方向」って、
カッチリと構図や画ができてて、
プランが立ってる人は、
絶対「マァ、いいか」はダメなんだけど。 |
糸井 |
うん。「マァ、いいか」はダメですよね。 |
たけし |
オレは、漣さんが
思ったより強めに子ども引っぱたいて、
違う方向に映画が行きだしても、
いちおう、そっちに乗るのよ。 |
糸井 |
ああー、そうなんだ。 |
たけし |
乗って、そのまま行っちゃうときもあるし、
ちょっと軌道修正、みたいなときもあるし。 |
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糸井 |
おもしろいね、そういう話は。 |
たけし |
乗らずに、いちいち直していくと、
その時間っていうか、映画が、
じゃんじゃん、じゃんじゃん、
ちっちゃくなっていくんで。
その、現場が変な乗り方したら、
それ使っちゃおうっていうのが、多くて。 |
糸井 |
はーー。 |
たけし |
自分の頭の中にないことやられても、
「マァ、いいか」って、なるんだろうね。 |
糸井 |
つまり、現場にある種の偶然があったら、
それは、もらっちゃおうということですね。 |
たけし |
ウン。
それが、じつは本質的なモンだ、
っていう考え方もあるの。偶然ってのが。
だって、演技してるのは、必然だから。 |
糸井 |
うん、うん。 |
たけし |
アクションシーンなんかは、とくに。
こう、殴り合うシーンで、予定外に
パンチがガーンと入っちゃいました、
ホントに殴っちゃいました、ってことあるのね。
「いいんだよ、入って」って言うの。
パンチが入るような設定だったから、
パンチが入ったんだからさ。
それを、わざわざ入らないようにやるのは、
形がマズイかもわかんないっていうんで。 |
糸井 |
なるほどね。 |
たけし |
ほんとにアクションやって、
パンチが当たっちゃったら
いい形で殴った、ってことだろうって。 |
糸井 |
おもしろい。 |
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(つづくぞ、コノヤロー) |