糸井 |
いまさらこんなことを言うのもなんだけど、
ずいぶんまえにたけしさんから
「映画つくってるんだよ」って聞いたとき、
おれは、お笑いの映画を
つくってるもんだとばっかり思ってたんだよ。 |
たけし |
ハハハハ。 |
糸井 |
ところができあがったのが
バイオレンスの映画
(『その男、凶暴につき』)でしょ。
「この人は、なに考えてるんだ」と思ったよ。 |
たけし |
(笑) |
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糸井 |
いまごろ、あらためてそんなことを
言う人もいないだろうけどさ(笑)。
でも、たけしさんの映画って、
笑いからも離れてないですよね。 |
たけし |
ウン。 |
糸井 |
すっごいシリアスなふりしてるけど、
笑っちゃうようにつくってるっていうか。 |
たけし |
お笑いって、すごい、暴力的だから。
シリアスなときに、
必ずお笑いの影が忍び寄るじゃない。 |
糸井 |
ああ、忍び寄る、忍び寄る。 |
たけし |
シリアスなことを描こうとすればするほど、
悪魔のように忍び寄ってくるんで、
それを排除しないようにしてるの。
入ってきたものはしょうがない、って。 |
糸井 |
なるほどね。
あれは、「入ってきちゃう」んだ。 |
たけし |
ウン。入ってきちゃう。 |
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糸井 |
そう言われるとよくわかる。 |
たけし |
だから、今回の映画がまさにそうだけど、
アート、芸術なんて、最たるもので、
昔のアクションペインティングとかさ。
ほら、糸井さんとオレらって同じ世代だから、
横尾(忠則)さんが出てきたり、
新宿でいろんな動きがあったりっての
知ってるじゃない。
なんか、モヒカンのおじさんがいたりとか。 |
糸井 |
篠原有司男だね。 |
たけし |
ね。ああいうの見てて、いちばん笑ったのは、
壁にキャンバスつけて、ペンキ投げたり、
体ごとぶち当たったりなんかして、
そこでキャンバスに残ったものが
アートだなんて言ってたんだけど、
じゃんじゃん、じゃんじゃん、
ペンキぶつけてるもんだから滑るじゃない。
で、走ってるときに滑って、
こんなんなって転んで顔面強打して、
鼻血、出ちゃってるんだ。
もう、見てるほうは、
おかしくてしょうがないんだけど、
そいつは、痛いのがまんしてやってるわけ。
そうすると、やってる人にとっては、
ものすごい、シリアスなアートなんだけど、
こっちは、もう、
「こんなおもしろいお笑い見たことない」
って、全然ちがうことを思ってる。 |
糸井 |
真剣になればなるほど、
お笑いが忍び寄っちゃうんだよね。 |
たけし |
同時に出ちゃうから。
そうすると、樋口さんとオレの夫婦も、
一所懸命、アートをやればやるほど、
必ずお笑いが入ってくる。
それはもう、そのまま描いちゃったの。 |
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糸井 |
やっぱり、映画観てて、おもしろいのはさ、
たけしさんの見方が、両方入ってるでしょ。
それをバカにしてるたけしさんと、
そういう表現はあるんだよなっていう
たけしさんと、ふたりいるじゃないですか。 |
たけし |
ハハハハハ、ウン。 |
糸井 |
わざと、両方出しながらつくってるでしょ。
そこが、なんていうか、悩ましいんですよね。 |
たけし |
ハハハハハ。 |
糸井 |
お客は、どっちにつこうかと思うんだよ。
中年になっても延々、絵を描く主人公を
がんばれって観ることもできるし、
なにやってるんだって思う気持ちもあるし。 |
たけし |
ウン、そう、そう。
どっち選んでもいい、っていうかね。 |
糸井 |
そうですよね。 |
たけし |
その人の状態によって
どっち選ぶか違ったりするしね。
同じ人でも、昼間選ぶのと夜選ぶのでは
違うかもわかんない。 |
糸井 |
ああ、そうだね。 |
たけし |
だから、この映画のタイトルは
『アキレスと亀』っていうんだけど、
どうにでも、言いくるめられるっていう。
何が正しいとか全然関係ないから、
入っていけば入っていくほど、
ぐるぐるぐるぐる回りだしちゃって、
わけわかんなくなる、
というような映画にしようと思って。 |
糸井 |
最初から、そこをわかんなくする
っていう目的なんですね。 |
たけし |
結論がないんだよ。
結論らしきものは出てくるけど、
果たしてそうかな、っていうような。
マァ、芸術論って、たいてい
そういう方向に行っちゃうじゃないですか。 |
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糸井 |
うん。 |
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(つづくぞ、コノヤロー) |