北野武×糸井重里 たけし、コノヤロー。 新作『アキレスと亀』をとっかかりに。

第3回 笑いはシリアスなときに忍び寄る

糸井 いまさらこんなことを言うのもなんだけど、
ずいぶんまえにたけしさんから
「映画つくってるんだよ」って聞いたとき、
おれは、お笑いの映画を
つくってるもんだとばっかり思ってたんだよ。
たけし ハハハハ。
糸井 ところができあがったのが
バイオレンスの映画
『その男、凶暴につき』)でしょ。
「この人は、なに考えてるんだ」と思ったよ。
たけし (笑)
糸井 いまごろ、あらためてそんなことを
言う人もいないだろうけどさ(笑)。
でも、たけしさんの映画って、
笑いからも離れてないですよね。
たけし ウン。
糸井 すっごいシリアスなふりしてるけど、
笑っちゃうようにつくってるっていうか。
たけし お笑いって、すごい、暴力的だから。
シリアスなときに、
必ずお笑いの影が忍び寄るじゃない。
糸井 ああ、忍び寄る、忍び寄る。
たけし シリアスなことを描こうとすればするほど、
悪魔のように忍び寄ってくるんで、
それを排除しないようにしてるの。
入ってきたものはしょうがない、って。
糸井 なるほどね。
あれは、「入ってきちゃう」んだ。
たけし ウン。入ってきちゃう。
糸井 そう言われるとよくわかる。
たけし だから、今回の映画がまさにそうだけど、
アート、芸術なんて、最たるもので、
昔のアクションペインティングとかさ。
ほら、糸井さんとオレらって同じ世代だから、
横尾(忠則)さんが出てきたり、
新宿でいろんな動きがあったりっての
知ってるじゃない。
なんか、モヒカンのおじさんがいたりとか。
糸井 篠原有司男だね。
たけし ね。ああいうの見てて、いちばん笑ったのは、
壁にキャンバスつけて、ペンキ投げたり、
体ごとぶち当たったりなんかして、
そこでキャンバスに残ったものが
アートだなんて言ってたんだけど、
じゃんじゃん、じゃんじゃん、
ペンキぶつけてるもんだから滑るじゃない。
で、走ってるときに滑って、
こんなんなって転んで顔面強打して、
鼻血、出ちゃってるんだ。
もう、見てるほうは、
おかしくてしょうがないんだけど、
そいつは、痛いのがまんしてやってるわけ。
そうすると、やってる人にとっては、
ものすごい、シリアスなアートなんだけど、
こっちは、もう、
「こんなおもしろいお笑い見たことない」
って、全然ちがうことを思ってる。
糸井 真剣になればなるほど、
お笑いが忍び寄っちゃうんだよね。
たけし 同時に出ちゃうから。
そうすると、樋口さんとオレの夫婦も、
一所懸命、アートをやればやるほど、
必ずお笑いが入ってくる。
それはもう、そのまま描いちゃったの。
糸井 やっぱり、映画観てて、おもしろいのはさ、
たけしさんの見方が、両方入ってるでしょ。
それをバカにしてるたけしさんと、
そういう表現はあるんだよなっていう
たけしさんと、ふたりいるじゃないですか。
たけし ハハハハハ、ウン。
糸井 わざと、両方出しながらつくってるでしょ。
そこが、なんていうか、悩ましいんですよね。
たけし ハハハハハ。
糸井 お客は、どっちにつこうかと思うんだよ。
中年になっても延々、絵を描く主人公を
がんばれって観ることもできるし、
なにやってるんだって思う気持ちもあるし。
たけし ウン、そう、そう。
どっち選んでもいい、っていうかね。
糸井 そうですよね。
たけし その人の状態によって
どっち選ぶか違ったりするしね。
同じ人でも、昼間選ぶのと夜選ぶのでは
違うかもわかんない。
糸井 ああ、そうだね。
たけし だから、この映画のタイトルは
『アキレスと亀』っていうんだけど、
どうにでも、言いくるめられるっていう。
何が正しいとか全然関係ないから、
入っていけば入っていくほど、
ぐるぐるぐるぐる回りだしちゃって、
わけわかんなくなる、
というような映画にしようと思って。
糸井 最初から、そこをわかんなくする
っていう目的なんですね。
たけし 結論がないんだよ。
結論らしきものは出てくるけど、
果たしてそうかな、っていうような。
マァ、芸術論って、たいてい
そういう方向に行っちゃうじゃないですか。
糸井 うん。
(つづくぞ、コノヤロー)

前へ 最新のページへ 次へ

2008-09-23-TUE


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN