北野武×糸井重里 たけし、コノヤロー。 新作『アキレスと亀』をとっかかりに。

第5回 アタマっから撮り直しだね。

糸井 その、たけしさんの視点っていうか、
お客さんへの意識っていうのは
おもしろいですねぇ。
そこは漫才をやってたころから
ずっと変わってないわけですね。
たけし ウン。だから、なんていうんだろ、
客いじりって、
マァ、あんまりやっちゃいけないんだけど、
お客ってすごい変なところがあって、
「オマエなんかいらねェんだよ」って言うと、
笑うときあるじゃない。
「今日の客は、せこい客だな」って
悪口言えば言うほど笑う、みたいな。
糸井 うん、うん。
たけし それは、
笑わせる自信があるから言えるんだけど。
たんに「なんだ、コノヤロー」に
なっちゃマズイわけで。
糸井 ああ、つまり、お客さんとの関係性ですね。
たけし そうそう。
だから、映画もそうで、
観てる人と映画の状態がよけりゃ、
どっちに行ってもうまくいくんだけど、
失敗すると、つーっと離れる。
糸井 それは、やっぱり、
いったん両者が外れると、
外れっぱなしになるんですか?
たけし なる。なるなる。
戻しようがなくなるときがある。
糸井 それは、つくってる自分だけの力じゃ
なんともなんないんですか。
たけし なんともならないネェ。
なんだろうねェ、アレ。
糸井 はーーー、そういうもんなんだ。
だってさ、映画って、何ヵ月も、
へたしたら何年もかけて、
じっくりとつくってるわけだから、
途中で、おかしくなりそうだと思ったら、
「ちょっとこうしておこうかな」って
やればできそうな気がするんですけども。
たけし ウーン‥‥。
糸井 できない?
たけし アタマっから撮り直しだね。
やるんだったらね。
糸井 はーー。
たけし 映画撮ってて、途中まできて、
「オイ、マズイぞ、変な方向行ってる」
って思って、
「こっちこっちこっち」って直すとさ、
観てるほうにも、その
「マズイマズイ、こっちこっち」がわかるから。
糸井 ああ、なるほどね。
たけし だから、そういう目で観てると、
「あ、直しやがった」
っていう映画は、あるのね。
糸井 バレちゃうんだね。
たけし ウン。バレちゃう。
だから、オレは、わりかし、
変な方向行っても、
そのまま行っちゃおうっていう。
修正すると、逆にヤバいなってとこもある。
糸井 つまり、こういう作品もあります、
って考え方をするわけだ。
たけし ウン。
直したいっていや、
微妙に直したかったりもするんだけど、
「もーいいや」っていうのが、ある。
(つづくぞ、コノヤロー)

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2008-09-25-THU


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