糸井 |
レコードは、ベストテンが必ず売れるけど、
50番目の曲にも、いいのがある。
大事にしている客が買うものは50番目だけど、
それはニュースにもならないよね。 |
小林 |
ありがたいことですね。 |
糸井 |
何が? |
小林 |
ぼく、50番目の役者ですから。 |
糸井 |
俺も、そうなんですよ。
でも、その50番目にだってお客さんがいて、
大事に見てくれているはずなのに、
ニュースとしては、1番のものしか見えない。
ネットだったら、自分がいいと思えれば、
「1番よりいいかもしれない」と言えるじゃない?
ぼくが夢中になってた綾戸千絵さんは、
前に、ライブハウスで手売りで売ってたんだよ。
それだけで3万枚売った。
世の中からしたら、
3万枚ってたいしたことがないかもしれない。
でも、手売りで3万枚は、すごいよね。
十分に、食っていけるんです。
それに綾戸さんは、歌がうまいから、
レコーディングでも仕掛けがいらないんですよ。
間違わないから、1回で録音できる。
ベストテンってなったら、
話が出てこないひとなんだけどね。 |
小林 |
何をやるかっていうのは、大きいと思います。
ぼくがやろうとしているのは、たぶん、
パン屋をもう一度つくるということなんです。
工場で生地を大量につくられたものを仕入れて
それを冷凍して焼いてつくっているパン屋が、
実は「手作り」というお店でも、すごく多いの。
ほんとうに手作りでやっているパン職人は、
お金とか手がかかるから、面倒がられる。
こないだ、ひとりの職人が、
大きなホテルから、リストラされたんです。
「もうパン屋なんてやりたくない」
という風になっちゃったんだって。
それでも、「やってみようよ」と、
説得したひとがいたんです。
だから、その職人さんは、
別の場所の中野でもう一度、
手作りパン屋をやりはじめた。
この時に職人さんを説得したひとって、
すごくぼくらに近いと思う。
ぼくは、いいひとと芝居やりたい。
だから、アングラだとか新劇だとかいう
垣根を超えた出会いで芝居をできれば、
けっこうおもしろくなると思うんですよ。
まったく役者じゃないひとも入れたり。
そうやって何かやりたいなと思います。 |
糸井 |
それ、俺もおんなじ。
ぼくもリストラされる番だと思ったんですよ。 |
小林 |
そんなことはないでしょう。 |
糸井 |
みんな「そんなことない」というけど、
でも実は、みんな「そう」なんですよ。
要らなくなっていく雰囲気があって。
作家だって、売れなくなってからのほうが
いいものを書いていたりしますよね。
なまじ売れちゃったひとが、
期待されているうちに書けなくなる時もあるし。 |
小林 |
作家は特にそうだね。
川端康成なんて、
最後までふわーっと書いてたよね。
真空飛んでるようなじいさん、いいね。
ふすまをパッて開けたら飛んでるみたいな。 |
糸井 |
さっきのパン屋さんも、中野でなら食えている。
それなりに仕事があってまわっているなら、
50番目でも、いいじゃないですか。
ぼくはそういうのに憧れるんですよ。
全国にひろげることは、できないけど。
(つづく) |