Drama
「小林薫『俺はシブイか?!』対談。

【その4・芝居をしたいなあ】

(※生中継ライブのごく一部をお送りしています)


糸井 テレビには、いつも、
一番ピークのひとたちが映っているから、
あとのひとたちは、ぜんぶ、
「いなくなった」と言われちゃうけど・・・。
小林 失礼な話ですよね。
糸井 でもほんとは「いる」んですよね。
小林 例えばほかのひとと
おんなじようにテレビに出ていたとしても、
小津さんの作品に欠かせない
田中春男さんのような重鎮のかたがいたら、
それは、本当に別格なんだとぼくは思うんです。

そういうかたに対しては、
俺も含めて共演者は頭を下げて尊敬しないと、
何かがおかしくなっちゃうんじゃないか?

でも、テレビは、ぞんざいにしているというか、
・・・いや、ぞんざいにはしてないんだけど。
こういうことって、伝わりにくいんだけど。
糸井 場があるから、
テレビの世界では、そうなるんですよ。

でもその田中春男さんも、
もし薫ちゃんが演劇で呼んだのなら、
その舞台では、
「どうぞよろしくお願いします!」
と言われますよね。
満足度はどっちが大きいかというと、
お互いに尊敬を払える場所で、
お客さんが喜ぶということですよね。
そういう場所があるのは、
すごくいいなあと思うんです。

舞台になら、
お客さんは外が雨降っていても、出かける。
俺、劇場に行って、
お客さんが傘たたんでいるのを観たときに、
「いいなあ」と思いましたもん。
足を運んで観にきてくれているから。

観にきたひとにとって、舞台は、
永遠に忘れられない時間になるかもしれない。
でも、テレビには
「忘れてもいい」という感じがあるじゃない?
その田中春男さんのお話でも、
テレビではない違う場に行ったら
ちゃんと大事にされている・・・
そういうことを、これからはできると思います。
薫ちゃんも、これからは「タ・マニネ」
(小林さんの劇団。今度も「悪戯」もおこなう)
を、一番の基地にしていけば、楽じゃない?
小林 でも、芝居をしていくのは、
たいへんなんですよね。
食えないと暮らせないから、
「うどん屋でもはじめようかなあ」
と考えたこともあります。
「どうしてもテレビに出ないといけない」
という方向になると、
逆にすごく貧しくなっちゃうと思うし。
糸井 テレビだけになると、
視聴率戦争に巻きこまれちゃうからね。

野田秀樹に久しぶりに会ったら、
「芝居やらないと食えないしな」
って、軽くぱーんと言うんだよ。
彼は、そうやってつくってきたから
言えるんだろうなと思って。
そうしたら、テレビに出る必要ないじゃない。
尻尾振らないでいられる。
小林 ・・・それは、別の問題が出てくるでしょうね。
「芝居をしたいなあ」と思って、
実際に自分でやってみたら、
どきどきしてすごくおもしろかったという
最初の原点が、あるじゃないですか。
これ、すごく大事だと思ってます。
だから、「食えている」「食えていない」
というのは、ぼくはどうでもいいことだと思う。
収入が欲しいだとか名誉欲だとか、
そういうのが演劇にあると、
何が大事なのかが、
変わってきちゃうかもしれない。

大事なのは、どきどきすることだと思うんだよ。
ぼくは、演劇なんてもともと、
食える食えないとかいう
世界じゃなくていいと思う。
「どきどきするから、やっているんだ」
と言われたほうが、ぼくは感動するな。

ぼくがNHKに行ったとすると、
「朝ドラか」
みたいに言われる雰囲気は、あるよ。
でもそれをやっているときに、
自分でおもしろがっていれば、それでいい。
おもしろがれることをするのが、
最低限だとぼくは思いますね。
糸井 でも、どきどきしてるのに食えてるというのが、
大事だとぼくは思う。

(つづく)

2000-05-15-MON

BACK
戻る