糸井 |
テレビには、いつも、
一番ピークのひとたちが映っているから、
あとのひとたちは、ぜんぶ、
「いなくなった」と言われちゃうけど・・・。 |
小林 |
失礼な話ですよね。 |
糸井 |
でもほんとは「いる」んですよね。 |
小林 |
例えばほかのひとと
おんなじようにテレビに出ていたとしても、
小津さんの作品に欠かせない
田中春男さんのような重鎮のかたがいたら、
それは、本当に別格なんだとぼくは思うんです。
そういうかたに対しては、
俺も含めて共演者は頭を下げて尊敬しないと、
何かがおかしくなっちゃうんじゃないか?
でも、テレビは、ぞんざいにしているというか、
・・・いや、ぞんざいにはしてないんだけど。
こういうことって、伝わりにくいんだけど。 |
糸井 |
場があるから、
テレビの世界では、そうなるんですよ。
でもその田中春男さんも、
もし薫ちゃんが演劇で呼んだのなら、
その舞台では、
「どうぞよろしくお願いします!」
と言われますよね。
満足度はどっちが大きいかというと、
お互いに尊敬を払える場所で、
お客さんが喜ぶということですよね。
そういう場所があるのは、
すごくいいなあと思うんです。
舞台になら、
お客さんは外が雨降っていても、出かける。
俺、劇場に行って、
お客さんが傘たたんでいるのを観たときに、
「いいなあ」と思いましたもん。
足を運んで観にきてくれているから。
観にきたひとにとって、舞台は、
永遠に忘れられない時間になるかもしれない。
でも、テレビには
「忘れてもいい」という感じがあるじゃない?
その田中春男さんのお話でも、
テレビではない違う場に行ったら
ちゃんと大事にされている・・・
そういうことを、これからはできると思います。
薫ちゃんも、これからは「タ・マニネ」
(小林さんの劇団。今度も「悪戯」もおこなう)
を、一番の基地にしていけば、楽じゃない? |
小林 |
でも、芝居をしていくのは、
たいへんなんですよね。
食えないと暮らせないから、
「うどん屋でもはじめようかなあ」
と考えたこともあります。
「どうしてもテレビに出ないといけない」
という方向になると、
逆にすごく貧しくなっちゃうと思うし。 |
糸井 |
テレビだけになると、
視聴率戦争に巻きこまれちゃうからね。
野田秀樹に久しぶりに会ったら、
「芝居やらないと食えないしな」
って、軽くぱーんと言うんだよ。
彼は、そうやってつくってきたから
言えるんだろうなと思って。
そうしたら、テレビに出る必要ないじゃない。
尻尾振らないでいられる。 |
小林 |
・・・それは、別の問題が出てくるでしょうね。
「芝居をしたいなあ」と思って、
実際に自分でやってみたら、
どきどきしてすごくおもしろかったという
最初の原点が、あるじゃないですか。
これ、すごく大事だと思ってます。
だから、「食えている」「食えていない」
というのは、ぼくはどうでもいいことだと思う。
収入が欲しいだとか名誉欲だとか、
そういうのが演劇にあると、
何が大事なのかが、
変わってきちゃうかもしれない。
大事なのは、どきどきすることだと思うんだよ。
ぼくは、演劇なんてもともと、
食える食えないとかいう
世界じゃなくていいと思う。
「どきどきするから、やっているんだ」
と言われたほうが、ぼくは感動するな。
ぼくがNHKに行ったとすると、
「朝ドラか」
みたいに言われる雰囲気は、あるよ。
でもそれをやっているときに、
自分でおもしろがっていれば、それでいい。
おもしろがれることをするのが、
最低限だとぼくは思いますね。 |
糸井 |
でも、どきどきしてるのに食えてるというのが、
大事だとぼくは思う。
(つづく) |