- 糸井
- 状況劇場には、どのくらいいたの?
だいぶ、長かったでしょ。
- 小林
- 長いっていっても、9年弱ですけどね。
だから、まぁ、20代、ほぼ、みたいな感じ。
- 糸井
- 長いんじゃない、それは?
- 小林
- うーん、長さよりも、
20代だったことが大きいかなぁ。
なんか、20代って、学校とは違うものに、
いきなり放り込まれるじゃないですか。
甘えが通用しないところに、理不尽に。
- 糸井
- うん、うん。
- 小林
- ぼくは状況劇場っていう劇団だったけど、
会社勤めの人でも、そうだと思うんですよ。
なんかこう、好き嫌い言ってられないというか、
やらなきゃしょうがないようなことが、
つぎつぎに襲ってくる。
だから20代のころって、子どものころと同じで、
理不尽なものに出会って、
経験がどんどん蓄積される時期だと思うんです。
だから、非常に時間も長く感じるし。
- 糸井
- あぁ。
- 小林
- 子どもが成長するときと同じくらい、
蓄積される経験が多い時代なんじゃないかなぁ
と思いますね、20代って。
だから、ぼく、そういう意味では、
唐十郎さんとか、いい脚本に
20代に出会ったっていうのは、
自分の中ですごく大切なベースに
なっていると思います。
- 糸井
- そうだろうね。
その9年はすごいでしょ、おそらく。
つまり、経験の分量だけでも。
- 小林
- まぁ、ふつうじゃなかったですよね。
- 糸井
- どう、ふつうじゃなかった?
- 小林
- だから、たとえば地方に移動するにしても、
トラックの荷台に荷物といっしょに
何人も乗って九州まで行くとか。
- 糸井
- あーー。
- 小林
- 事故でも起こってたら、
もうそこで劇団解散みたいな世界ですよね。
いまなら、あり得ない。
- 糸井
- それは、つまり、移動費を節約するために。
- 小林
- そうです、そうです。
だから、いま、地方から来てる
小劇場の若い人たちと話すと、
価値観が違ってて、すごく驚くんですよ。
「キミたち、東京公演のときは、
どこに泊まってるの?」って訊くと、
「ウィークリーマンションです」とか言うから。
「えぇ? ウィークリーマンション?
ウィークリーマンション
なんかに泊まれるの?」って。
- 糸井
- はははは。
- 小林
- 「どうやって来たの?」って訊くと、
ふつうに「いや、新幹線です」って。
もう、すごく時代を感じたね。
なんていうの? ぼくらからすると、
「芝居してるんでしょ?
芝居で新幹線で移動していいわけ?」
っていうくらいの違和感があって。
- 糸井
- でも、薫ちゃんたちのときもさ、
ほんとうにそうやって節約する以外ない、
っていうんじゃなくて、
そうしたくてやってたところがあるでしょう?
- 小林
- ああ、それはそう。
どこかで選択してそうやってるんですよね。
- 糸井
- そうだと思う。
あの時代、そういうことをいちばん極端に
やってたのが状況劇場だったわけで。
- 小林
- なんかそうしたほうがおもしろいって、
絶対自分たちで選択してると思うから。
- 糸井
- そう思って選んでるんだよね。
あの、矢沢永吉がね、
夜汽車で広島から出てきたとき、
東京じゃなくて、東京のちょっと前の
横浜で降りるんだよ。
それも、理由を訊くと、やっぱり、
「横浜のほうがカッコいいと思った」
っていうことでさ。
- 小林
- うん、うん。
- 糸井
- 高校卒業したくらいの年齢で、
東京にいきなり行くんじゃなくてね、
手前の横浜で降りて、ベンチで寝てっていうのは、
ちょっと自分の小説の中で、
「この場面は後で語れるかもなぁ」
っていうような感覚があったんだと思うよ。
だから、ちゃんと選んでるんだよ。
- 小林
- それは、なんか、よくわかるし、
いい選択だと思うなぁ。
東京って、田舎から出てくると、
もういきなり勝負の場だから、
地方から来たら、翻弄されますよね。
- 糸井
- そのへんは、永ちゃんのセンスだよね。
- 小林
- そう。ぼくはセンスがないから、
いきなり状況劇場に行っちゃうんです。
だから、ずっと翻弄され続けるというか。
- 糸井
- 薫ちゃんの場合は、ほら、唐十郎さんという、
すごいボスにくっついたからね。
そのおもしろさに翻弄されるっていうのは、
自分ひとりで小さいボスやってることよりも、
圧倒的に経験が濃密だよね。
- 小林
- もう、すごかったですよ、
あの当時のおもしろさっていうのは。
だから、よく
「たいへんだったでしょう?」って言われるけど、
そのたいへんなところも含めて
当事者はたのしかったから。
もう、「どうだ!」っていう感じで。
- 糸井
- そのアイディアとか、発想力が、
やっぱり唐さんならではのものだったから。
- 小林
- そうですね。
だから、もしも、あのとき俺が、
立派な役者さんたちがいて、
理論も確立しててっていう劇団に入ってたら、
役者を続けられてなかったんじゃないかなぁ。
当時のあの、なんかもう理不尽な、
理屈はよくわかんないけど、
混濁したスープの中にブワッと放り込まれて、
もがきながら、なんかこうつかんだりとか、
そこを自分で泳げるようになって、
ようやくなにかできるようになったりとか。
もちろん、座長である唐さんが
手を差し伸べてくれた場面もあると思うんですよ。
そうしないと、劇団って、成り立たないから。
- 糸井
- そうですね。
- 小林
- そういうことがずっとぼくの中にあって、
だからこそ、続けてこられたかなと思います。
- 糸井
- いま、薫ちゃんくらいの年齢になるとさ、
自分が座長役をしなきゃならない、
っていうようなところがあるでしょ?
- 小林
- いや、ぼくの場合は、あくまでも役者だから。
- 糸井
- 役者のままでも、
リーダーの役割を求められたりしない?
- 小林
- ぼくがやっても言うこと聞かないでしょ、
若い人たちは。
- 糸井
- そう?
- 小林
- うん。たぶん、言うこと聞かないよ。
- 糸井
- でもね、こないだ、
ある大きい会社の社長さんが言ってたんだけど、
「社長だからって、会社の人たちみんなが
自分の言うこと聞くなんて、
そんなの幻想ですよね」って。
それは、俺くらいの社長でもわかるんだ。
ちゃんと社長をしてる人は、
「みんなが言うこと聞くわけがない」って
前提としてわかってると思うよ。
- 小林
- とか言いつつも、会社に帰ったら
めちゃくちゃ理不尽なこと言ってたり(笑)。
- 糸井
- あ、それはあるかもしれない(笑)。
だけど、理不尽なこと言っても、
空中分解させずに会社を続けられるっていうのは、
さっきの唐さんの話じゃないけど、
危ないときは手を差し伸べたり、
いろんなことがあるんだよ。
- 小林
- そうですね。
「唐さんはめちゃくちゃだ」って言うけど、
ぼくらにしたら、それについて行けたんだから。
- 糸井
- そうだね。
- 小林
- まぁ、ついていけなかった人はいますけどね。
理不尽なことも、たいへんなこともあったけど、
ぼくはついて行けたし、
ぼくよりずっと長く在籍した人もいる。
相性みたいなものもあると思うけど、
座長は、ぼくらをおもしろい目に遭わせてくれた。
そう感じてる人は多いと思う。
(つづきます)
2015-01-31-SAT