糸井
大事なことはさ、
むちゃくちゃなことをやっていた状況劇場を
たくさんの人たちが観に来たということで。
小林
そうそう。ぼくらも、いちおう劇団だから、
自分たちがおもしろいと思うことをやってても
お客が来ないっていうのであれば、
話が変わってくると思うんだけど、
たくさん観に来てましたからね。
糸井
ぎゅうぎゅう詰めの桟敷でさ、
下が土で、なんか、
ビニールシートみたいなものを敷いてね。
小林
だから、お客さんは、
ゴツゴツしてて足が痛いわけでしょ?
まぁ、俺は客席に座って観たことがないから
よくわかんないんだけど。
糸井
ひどい(笑)。
小林
覚えてるのは、
村松(友視)さんが観に来たとき、
「詰めろ、詰めろ」って言われて、
足が変な方向へ向いた途端に
身動きが取れなくなって、
「もう、観てる間中、足4の字固め
 かけられてたみたいだった」って。
糸井
そんなにしてまで観てるのに、
おもしろくなかったらたいへんだから、
おもしろいと思いたいっていう気持ちが
ものすごく強かったのかもしれない。
小林
一種のマインドコントロールで(笑)。
一同
(笑)
糸井
いまごろ正直なことを言うとね、
俺、いつも、状況劇場を観に行くと、
気持ち悪くなってたの。
小林
へぇ。
糸井
なぜかっていうと、
価値感がぜんぜん違う世界だから、
「それがいいんだーっ!」っていうのが
押し寄せてくるんだよね。
小林
ふーーん。
糸井
まぁ、あのお芝居って、
かんたんにわかるわけないじゃない。
やってる人は、同じことばでやり取りしてるから
わかってるかもしれないけど。
観ているほうからすると、
スッと理解できるものじゃない。
それは状況劇場に限らず、ほかの「アングラ」も、
当時の映画もそうだったと思うけど。
でも、「気持ちが悪い」とか「わぁ!」とか、
感情はたしかに動くんだよ。
それで、なにしろ脳が疲れるんだよね。
小林
まぁ、たしかに理解とかっていうのは、
ちょっとむずかしいところですね。
ぼくらも、全員がぜんぶを
わかっていたかというと‥‥。
当時、座長は大学ノートに細かい字で
びっしり書いて台本をつくっていくんだけど、
それをガリ版で刷り直して、
みんなで読み合わせをしたときに、
座長が「どうだった?」って訊いてくるんです。
で、そのときにね、みんな言ったことと
同じことを言っちゃうと怒られちゃう。
糸井
(笑)
小林
俺なんかはまだ下っ端だったから、
ずいぶん後なんだよ、感想を言うのが。
だから、どんどんことばがなくなっていくの。
それで、しかたなく「泣けました」とか
言ってたけど、よくわかってないよね。
糸井
ああ、そうなんだ。
小林
でもね、読み合わせが終わると、
「ぜひこれの続きを読みたい」とか、
「これは立って芝居したいですね」とか、
そういう気持ちになるんですよ。
糸井
ああ、それはもう、ロジックじゃないよね。
ものづくりそのものっていうか、
ワークショップみたいなものというか、
ある種、訓練というか。
小林
訓練(笑)。
まぁ、当時の状況劇場は、少なくとも
民主的な組織じゃなかったかもしれない。
プライベートな時間を過ごしていても、
召集がかかったら即座に駆けつけなきゃ行けなくて、
遅れると「なにやってた?」って言われるような。
糸井
はははは。
小林
たとえば劇団の稽古が終わって、
芝居だけじゃもちろん食っていけないから、
チラシをまくバイトしてたんですよ。
で、稽古が終わると、飲み会がはじまるから、
だいたいの人は飲みに行ってる。
で、俺がチラシをまいてると、
劇団員が俺を呼びに来るんですよ。
「座長が怒ってる」って。
こっちは働いてるんだけど、座長からすると、
「あいつ、なにを考えてるんだ。
 この貴重な時間に
 いたくないのか?」みたいな。
糸井
飲み会という大事な場にいないなんて
なにごとだ、と(笑)。
小林
そうなんです。
それで、2時間くらい働いてたのに、
途中でやめて飲み会に行って、
もちろん途中で放棄してるから
チラシまきのギャラももらえなくて、
行ったら行ったで
「みんなで飲んでるときになにしてるんだ」
って怒られて、
「自分のことばかり考えて、
 すみませんでした」みたいな(笑)。
一同
(笑)
糸井
いまだから笑えるけど、
そのときは必死だよね、たぶん、どっちも。
小林
うん。だから、違う言い方をすると、
ほんとにみんなで一丸になってたというか、
そういう時代でもあったのかな。
いまは、劇団のなかにも、
そこまで求心力のあるキャラクターはいなくなって、
他の劇団の公演に出てもいいし、
テレビなんかに出るようになったあと
劇場に自由に戻れたりとか、
かなりゆるくなってますよね。
糸井
どっちがいいとかじゃなく、ね。
小林
そう、そう。
自由さがあるからこそ、
うまく回ってる劇団なんかは
いろんな才能がどんどん出てきてるから。
でも、あの時代の状況劇場と唐さんには、
そのやり方は絶対できないな。
そんなことが許されたら、
唐さんじゃなくなっちゃう。
糸井
そうか、そうか。
小林
だから、才能とかね、天才って、
ああいうものなんじゃないかとも思うんです。
あの「偏り」や、あの「パワー」がないと、
あの、唐さん独特の世界は
維持できないんじゃないかな。
糸井
しかも、思えば、あのころの唐さんって、
20代じゃないですか。
小林
そうですよ!
糸井
信じられないよね。
小林
信じられないですよ。
ぼくが入ったときでも、
唐さん、29とか30くらいですから。
糸井
はーー(笑)。
小林
でも、座長然としてましたよ、もう。
糸井
考えられないよね。
坂本龍馬とか、幕末の志士たちが
すごく若かったのと同じような驚きがあるなぁ。
だから、その、なんていうんだろう、
いわば、命がけっていうか(笑)。
小林
うーん。
糸井
全力ってすごいね、やっぱりね。
小林
だから、よく、
ものすごい人物が世に出たときに
「時代が生みだした」っていう
言い方があるけど、まさに唐さんって、
「時代が生みだした」ところが
あるような気がするんです。
糸井
うん、うん。
小林
当時、同じ劇団の内側から唐さんを見ていると、
「この人、どこまで行くんだろう」
って感じるところがありましたね。
糸井
カッコいいなぁ(笑)。
小林
「この人、もしかしたら、
 本当にもう演劇界だけじゃなく、
 文壇とか、ぜんぶ含めて席巻して、
 トップを走っていくのかな」みたいな。
はっきりした根拠はないんだけど、
そう感じさせるものがありましたね。
糸井
世間一般の価値観と関係なく、
そう思わせる人だったんだね。
この要素があるからどうだっていうんじゃなく、
「すごいからすごい」みたいな。


(つづきます)
2015-02-01-SUN

映画 深夜食堂

2015年1月31日公開
映画『深夜食堂』公式ページ:
http://meshiya-movie.com/

繁華街にある小さな食堂を舞台にした
さまざまな心温まる物語、『深夜食堂』。
漫画からはじまり、テレビドラマとしても
たくさんのファンに愛されている
『深夜食堂』が映画になりました。
主演はもちろん、小林薫さん。
寡黙なマスターとお客さんたちの
素敵なストーリーをスクリーンでどうぞ。

監督:松岡錠司
原作:安倍夜郎
出演:小林薫、高岡早紀、柄本時生、
   多部未華子、余貴美子、ほか

©HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN