糸井
たぶん、共演者の人たちと
演技のことについて
話し込んだりはしないんだね。
小林
いやぁ、そういうわけでもないけど、
でも、あんまりタッチしないかな。
糸井
タッチしないの?
小林
うん。いろんなスタンスの人が
いらっしゃるじゃないですか。
十人十色というか、すごく忙しい人もいるし、
話題になっている人もいるし、
他人を寄せ付けない人もいるかもしれない。
だから、基本的に、どんな人も、
邪魔したくないんですよね。
糸井
そういうスタンスなんだね。
じゃあ、後輩には、もしかしたら
「怖い」と思われてるかもね。
小林
あ、よく言われるんですよ、
「怖い人だと思ってました」って。
糸井
それは、俺でさえ言われるからね(笑)。
小林
それはね、イトイさん、
見透かされてるところもあるんだと思うよ。
「そういうふうな目線を
 どこかに持ってるんじゃない?」
っていう怖さを感じてるんですよ。
糸井
それじゃ、薫ちゃんもそうかもよ。
小林
はははは。
糸井
でも、「失礼します」って挨拶して、
なにかが終わった途端に帰るっていうだけで
怖いってなるんだよね。
小林
ああ(笑)。
糸井
こう、終わったあと、余韻を楽しんで、
「いやぁ、今日もよかったね」って、
のんびりしてると「優しい」って言われるけど、
終わって、「いや、よかった!」って言って、
「ありがとうございました」って挨拶して
スッと帰ると、どんなに礼儀正しくしてても
「怖い」になるんだよ。
小林
イトイさん、すぐ帰るもんね。
パパッと帰るもんね。
一同
(笑)
糸井
俺、それ、そんなに言われてるって
知らなかったの。
小林
ぼく、若い頃から、取り残された感あったもん。
バーとかで、ワーッて飲んでても、
イトイさん、「じゃ、ここで」って。
一同
(爆笑)
糸井
うちの乗組員が笑いすぎだ(笑)。
小林
「え?」って思うよね。
余韻っていうか、
「いま一緒に笑ってたじゃん!」って。
でも、「スターン!」っていなくなっちゃうの。
糸井
昔からそうだったっけ(笑)?
小林
昔からそうですよ。
糸井
本当?
俺は、「楽しかったなぁ」と思って帰ってる(笑)。
小林
ほんとう?
「面倒くさいのかな」とか思うよ。
糸井
そんなことないよ。
でも、そういう印象は、相手が決めることだから、
自分が決められないんだよなぁ。
小林
え? 自分で決めてるんじゃん。
だから、「じゃ」って、帰るとき。
糸井
帰るときは、だから、ほんとに、
ただ帰ってるだけなんですよ。
小林
そうですよ。
だけど、普通は、あんな遮断した感じで帰らない。
糸井
「遮断」(笑)。
一同
(笑)
小林
ある程度、なんか、そういう雰囲気を出してさ、
こう、なんとなく、
「あぁ、そろそろかな」みたいなこと言って。
なんか、盛り上がりながらも、「そうだね」って、
「いま何時? あ、そろそろかな」
みたいになるじゃない?
イトイさん、いきなりだもん。
乗組員たち
ワハハハハ!
糸井
笑いすぎだ(笑)。
小林
で、俺なんかはその場に残されて
「そうでしたね、ははは!」とかってやって、
パッと顔上げたら、イトイさん、もういない。
糸井
参ったな。
小林
「えぇ? そんな帰り方あるの?」みたいな。
そういうのって、ホワイト
(かつて四谷にあり、
 当時の「愉快な人たち」が集まっていたバー)
で何度も経験ありますよ。
糸井
そうみたいだねぇ。
あの、パーティーに関しては、俺、はっきりと、
長くいたくないんですよ、パーティーは。
小林
うん、うん。
糸井
だけど、友だちどうしの集まりについては、
十分に楽しくて、楽しんだあとで、
「さぁ、帰ろう」と思ってるはずなんです(笑)。
楽しそうにしてたのは覚えてるでしょ?
小林
うん、楽しそうにしてる。
だから、急に帰ると、びっくりするんだよ。
糸井
いや、だから(笑)。
小林
基本的にズルズルはいないタイプですよね。
糸井
うん。ズルズルはイヤなの。
小林
ぼくね、イヤといえばイヤなんだけど、
ズルズルいるタイプなんですよ。
糸井
(笑)
小林
ズルズルいて、帰るタイミングを失ってる。
糸井
それはみうらじゅんと同じだな。
みうらじゅんが、いつも言うんですよ。
「イトイさんは昔からスパッと帰るけど、
 自分はそれができなくてズルズルいるから
 どんどん帰られちゃって、
 最後はひとりになるんです」って(笑)。
小林
そうそう。こっちはタイミング失ってるし、
「じゃあ、もう1軒行こう」とか言われると、
多少疲れてても、そこで帰るのも悪い気がして、
「おぉ、行こう、行こう」って答えたりしてね。
で、顔だけ出すつもりの二次会からも
うまく帰れなかったりするんだ。
それをイトイさんは、見事にスパーン!
一同
(笑)
糸井
(乗組員たちに)どうですか?
──
いや、小林さんのおっしゃるとおりです(笑)。
小林
ねぇ。いや、あれは絶対直らないと思うよ。
直らないっていうか、直さなくていいんだけど。
──
でも、糸井があれをやってくれると
場がズルズルしないから、
助かることも多いんですよ、わりと。
糸井
まあ、でも、ごめんね(笑)。
とはいえ、昔からずっとこれでやってきてるから。
小林
いつくらいの時代から、そうなんですか?
もう幼稚園の頃から、「じゃ」って帰ってた?
一同
(笑)
糸井
‥‥極論で言えば、そうだと思う。
小林
あぁーー。
糸井
極論で言えば、子どものころから
「じゃ」だったと思う。
小林
じゃあ、お友だちとワーッて楽しんでて、
こう、いろんな遊びとかしてても‥‥。
糸井
つまんなくなってからも遊んでた
っていう覚えは、いつもない。
小林
もうピークのときに去っていくんだね。
糸井
いや、厳密にいえばピークは終わってる。
終わってるからこそ、「じゃ」と。
小林
ぼくらからするとね、ピークがあったら、
気持ちはそこから
なだらかに落ちていくものなんだよ。
一同
(笑)
糸井
はははははは。
小林
頂上を過ぎた瞬間、
イトイさん、もういないもんね。
だから、その、下り道のだらだらを
味わいたくないんでしょう?
糸井
あ、そうだね。
「さびしい」っていう気持ちは人一倍あるから。
だから、たとえば、なんかの連載や番組を
やめるときなんかも、
絶対に自分から言いますよね。
小林
あぁーー。
糸井
だから、番組とかをサッサとやめたあと、
「まだ続けられるのに」とか、
「お客さんいっぱいついてるし」とか、
文句言われることはけっこうありましたね。
小林
でも、イトイさんは
「やめる」って言ったらやめちゃうんだね。
なんか、役者でいえば、
勝新(勝新太郎)さんみたいな領域にいるね。
糸井
(笑)
小林
俺は、そこまでになれない。
もしそんなことしたら、
「あの人、いつやめるかわからない」
って感じで、呼ばれなくなっちゃう。
糸井
あ、そういう意味でいいうと、
ぼくは、基本的にあらゆる場所が
自分の本職じゃないんですよ。
テレビも、雑誌なんかの連載も。
だから、ボロが出る前に、
終わりにしておくことができるんじゃない?
小林
でもさ、たとえば10話あるドラマを
9話目で「やめよう」なんて言われたら、
たいへんなことだよ。
糸井
その場合は、10話はやればいいし、
ぼくも約束を変えて9話でやめようとは言わないよ。
10話でちょうどよく楽しかったのに、
「11話もつくってみたんですよ」ってなるから、
「よしたほうがいいんじゃない?」って言うんだ。
小林
あー、なるほどね。
糸井
そこ、無理に続けると、みんなにとって
あんまりいいことないっていうのはたしかなんです。
だから、友だちどうしでふざけてるときも、
微妙にみんな「そろそろやめたいな」って
感じてる時期ってあると思うんで。
小林
わかるけど、それは、周りの人よりも
いつも先走ってる可能性、ないですか?
糸井
ん‥‥ちょっと、あるかもね(笑)。


(つづきます)
2015-02-04-WED

映画 深夜食堂

2015年1月31日公開
映画『深夜食堂』公式ページ:
http://meshiya-movie.com/

繁華街にある小さな食堂を舞台にした
さまざまな心温まる物語、『深夜食堂』。
漫画からはじまり、テレビドラマとしても
たくさんのファンに愛されている
『深夜食堂』が映画になりました。
主演はもちろん、小林薫さん。
寡黙なマスターとお客さんたちの
素敵なストーリーをスクリーンでどうぞ。

監督:松岡錠司
原作:安倍夜郎
出演:小林薫、高岡早紀、柄本時生、
   多部未華子、余貴美子、ほか

©HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN