いつもくちびるに、季節の風とラブソングを。
こんにちは、恋歌くちずさみ委員会です。

あまずっぱい企画は、とっても好評!
たーくさんの、おたよりがとどいています。
みなさんの、
たいせつなたいせつな思い出の「恋歌」、
どんどん紹介していきますね。
なのでどしどし、おたより(メール)くださーい!

あの人なりの理想を夢見ていただけなんだ、
そう、この曲の歌詞のように。
(投稿者・ゆらり)

『オリビアを聴きながら』
 歌/杏里

 1978年(昭和53年)
 

My恋歌ポイント

 愛は消えたのよ 二度とかけてこないで
 疲れ果てたあなた 私の幻を愛したの

高校生の私がはじめてつきあった男の子は
生徒会長で、目立つタイプの
いわゆる「モテる」人でした。

同じ大学付属系列の男子校と女子校で、
私も女子校の生徒会にいたことから
普通になかよくなりました。
でも、友達だと思っていました。

当時の彼は、別の学校に
取り巻きがいるほどだったし、
ガールフレンドはたくさんいるって噂だったから。

そんな彼が、別に美人でもなく目立ちもしない私と
つきあいたいって、本気だって、
彼の親友経由で伝わってきたときも
「そんなの嘘だろう」
「そうやって女の子を口説いてるのか(笑)」
と、本気にしてませんでした。

そうしたら、今度は
「好きな子ができたからって、
 ガールフレンドを全部切ったらしい」
という噂が。

そして、本人に告白されました。

うぶな私が、このシチュエーションで
恋に恋する状態になってしまったのは
しかたないですよね?
それからしばらくは、本当にバラ色でした。
何せ相手は百戦錬磨(多分)、
行ったことのないようなお店にエスコートしてくれたり、
さりげないプレゼントもくれました。

この人のこと、私、好きになったんだ‥‥と思い、
ついうれしくなってはじめてしまいました。
何って?
そうです、手編みのセーター。

内緒でがんばって編んで、
もう少しで仕上がるというとき、
彼に知られてしまいました。

そうしたら。

なんと、彼は逃げてしまったのです。

いまならなんとなく理解できます。
手編みのセーターっていろんな意味で
重ーい、ですよね。

こちらが逃げるうちは追ってくるけれど
追われると逃げたくなる、
そんな恋の駆け引きなんて、当時の私は知りません。

毎日のようにかかってきていた電話が
ピタリと止まりました。
具合でも悪いのかと心配して、勇気を出して電話しても
体調が悪いから出られないと、
お母さんに取り次いでもらえませんでした。
携帯電話なんてないころです。
お互いの家に電話して、
家族に取り次いでもらっていたのです。

何日かが過ぎ、はっきりと
「フラれる予感」を感じ取った私は、
突拍子もないことをしました。
やんわりと取り次ぎを断ろうとしていた彼のお母さんに
「具合が悪くても、
 こちらの用件は5分で済みますから
 彼を電話口に出してください!!」
と、言い放ち、
しぶしぶ出てきた(と思われる)彼に向かって
「もう、メンドクサイことをするのはやめて、
 これからは会うのをやめましょう。
 それだけだから。じゃあね」
と、電話を叩き切ってしまいました。

その夜はいっぱい泣いて、
毛糸を全部ほどきました。

でも、私はフラれたんじゃない、
もうやめようって、自分で言ったんだ、
あの人は、自分の周りにいないタイプだった私に
あの人なりの理想を夢見ていただけなんだ、
そう、きっと
「私の幻を愛したの」だ、と思っていました。
この曲の歌詞のように。

カウンターパンチが効いたのか、
彼はその後、私の家に何度か電話をかけてきました。
けれど、私は絶対に電話に出ませんでした。
そうして、この恋は終わりました。

杏里のこの歌を聴くと、
ふたりとも幼かったなあ‥‥と
ほろ苦い気持ちとともに、思い出します。

ああ、来ました、
前回の「思わせぶりな態度」問題につづき、
今回も永遠の恋の課題、
「幻を愛する」現象です。
これについて話すのはね、もう、
ひと晩じゃ足りないくらいですよね。

「なぜか会うと幻滅する」ことや
「君は天使、と誤解されて困る」こと、
いろいろございましてね。

恋はみんな、幻に対する
永遠の片想いなんだよ。
と、岡本太郎さんも言ってた(本の中で)。

自分が相手を好きなことは
相手に関係ないんだよ。
と、ゲーテも言ってた
(と、吉本隆明さんに聞きました)。

そして、この偉大なご投稿には
もうひとつ恋の命題が含まれていたのです。

「逃げるうちは追ってくるけれど
 追うと逃げる」
です。

これもね、ひと晩とはいえないけどね、
3時間くらいは、話せますよ。
だれか、話し相手してくださいよ。
弱ったよ。
まとまりのない「一投目」の原稿で
ごめんなさいよ。

ああ、すごいのを出してきたね。
語り尽くせないね。

ていうか、まず、この投稿、すごいね。
前半の超ドリーミーな
少女漫画風展開から、
後半のスーパーリアルな
スピルバーグデビュー作『激突!』風展開。

ぼくも去年、少しだけ
編み物をやってみたのでわかりますが、
完成直前のセーターをほどくというのは、
あなた、たいへんなことですよ。

それはともかく、
惚れた一方はそこに幻を見て、
逃げれば追い、追えば逃げる問題ね。
あーーー、語り尽くせないね。

ときどき糸井さんが
悩んでいる若い人に対して、
「まずは失恋とかして、
 不条理というものの
 すごみを知りなさい」
みたいなことを言うんだけど、
とにかく、若いときの
やむにやまれぬ恋愛というのは、
未熟な私たちに、
たいへんたいへんビッグなものを
教えてくれますよね。

まさに、好むと好まざるにかかわらず、さ。

なんでしょうか、この、
最近の投稿のクオリティの高さは。
今回の投稿も、これ、名作。
恋の「不変」を一気に描いた傑作ですよ。

親を介しての電話でのかけひき。
もはや、くちずさみ世代では
スタンダードナンバーのようなエピソードです。

そしてとりわけ、そう、「幻問題」。
永遠のテーマだわ、これ。
委員会で合宿しないとだめだわ、ほんと。
このくらいのテーマになると。

そして、
「逃げるうちは追ってくるけれど
 追うと逃げる」問題。
これもまた、大テーマ。
どうすりゃいいんだ? これは。
『モテキ』原作者の久保ミツロウさんも、
「好きな人はいちばん苦手なんですよ」
と言ってました。

追いかけはじめた時点で、もう負けてるんですよねぇ。
それがわかっててもやってしまう。
いちばん好きな人には好かれずに、
3番目くらいに好きな人から好かれて、
じゃあそれで手を打とうかと思うと、
2番目に好きな人がなんかこっち見てたりして、
ものごとがどんどんややこしくなる。
‥‥って、これ、きりないわ!
合宿、合宿! くちずさみ合宿!

ちなみに、編みもの関係のエピソードをひとつ。
去年、永田さんといっしょに、
編みものの練習で「目薬ケース」を編みました。
練習とはいえ真剣に編むために、
「完成したらお互いに交換する」ことにしました。
人にあげる前提で編むと、より真剣になると思って。
いま‥‥目の前の、机の上にちょこんと、
「彼がくれた手編みの目薬ケース」があります。
これはこれで、それなりに、なんか重たい。
いわんや手編みのセーターをや。

しまった! 出張しているあいだに
みんなが(夜中に一気に)コメント書いちゃって、
こんなヘヴィな回の
しんがりをつとめることに!

「幻問題」ですね。

自分のことで言うと、
(脈がない相手に)惚れたら負けでした。
(好きじゃないのに)惚れられたら
(しかも、うっかりつきあっちゃったら)
まずまちがいなく破滅でした。
ほんとは好きじゃないのに
「好かれた」ことがうれしくて
ついつきあっちゃう。
自分でわかんないんだよね、
好きになった気がしたりするから。
前者は「片思い」で静かにくすぶるか、
はっきり振られるかならまだしも、
うっかり相手が「好かれてうれしい」
モード(逆の立場ね)になっちゃったりして
つきあいはじめたら、
これまたとんでもない展開になるわけで。

そんなんばっかですよ。

いったいどうしたらいいんだと思っていたときに
出会ったのが橋本治さんの『恋愛論』で、
そこには「惚れさせたら勝ち」と
書いてありました。

そ、そうかっ!
好きになったら、自分から行かず、
惚れさせたらいいんだ!
なーんだ簡単!
‥‥なわけもなく、
当然ながら方程式通りに行かないのが恋です。
「磁力の強い渦」みたいなものに
どろどろ巻き込まれていくんです。
ちょっとおとなになっていくと、
別の要素もたっぷり入ってきて、
もっとわけがわからなくなってね。
ああ。

‥‥話を投稿に戻しましょう。
(ゆらり)さんは、
「自分から振った」ことにして
気持ちを整理しようと思ったんですね。
でもほんとは振られたってこと、
よーくわかってて、
しかも、さらに意地を張って、
大人だったら、次にかかってきた電話で
さっと仲直りできたのかもしれないのに、
電話に出ないっていうことが貫けた、
ってことはすなわち、
(ゆらり)さんにとっても
「あの恋は幻だった」ということ。
お互い様だったんですよねきっと。

ほんと、きりなく話せそうなので
このへんで、終わりましょう。
また次回! 土曜日の更新で!

2011-11-02-WED

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