いつもくちびるに、季節の風とラブソングを。
こんにちは、恋歌くちずさみ委員会です。

あまずっぱい企画は、とっても好評!
たーくさんの、おたよりがとどいています。
みなさんの、
たいせつなたいせつな思い出の「恋歌」、
どんどん紹介していきますね。
なのでどしどし、おたより(メール)くださーい!

『大きな玉ねぎの下で』では
ペンフレンドは来なかったけど
(投稿者・いまテレビの仕事41歳)

『大きな玉ねぎの下で
 〜はるかなる想い』
 歌/爆風スランプ

 1989年(平成元年)

My恋歌ポイント

 あの大きな玉ねぎの下で
 初めて君と会える

小学校一年二年と同じクラスだったSちゃんは、
活発な女の子でした。
なぜか三、四年生も違うクラスなのによく遊びました。
男子が四年生にもなって女の子と遊ぶのはかっこ悪い、
という男子特有の文化に逆らって、
二人でテレビの話をするのが好きでした。
でも、僕は五年生の春、大阪に転校することになったのです。
回りは全員大阪弁の次の正月。
標準語の懐かしい字で、Sちゃんからの年賀状が来たのです。
汚い字の男子友達に混じった、唯一の女の子からの年賀状。

それから二人の文通がはじまります。
中身はたわいもない、テレビの話や友達のこと。
たった便箋一枚に、どれだけ下書きしたことでしょう。
女の子の使う封筒や便箋は、それはそれはかわいくて、
俺が文房具屋さんで一日悩んだ便箋は、
無骨でかっこわるくて。
中学高校と男子校に進んだので、
俺にとって唯一「外界」との接触がその手紙でした。
でも変な自意識なのか、女の子を楽しませる自信がないのか、
手紙を書く事が出来なくなりました。
写真を一度も交換しなかったのも、
自分に自信がなかったからです。
浪人した頃、この歌が流れました。
受験で東京まで行けば、
彼女に会えるのではないかと気付きました。
勇気を出して、冬に葉書を書きました。
二人の分かる場所といえば小学校くらいしか思いつかず、
校門前で待ってると。

受験前日。
『大きな玉ねぎの下で』ではペンフレンドは来なかったけど、
果たして、彼女は来たのです。
9年ぶりに会った彼女は、面影はあったけど、
でも、なんというか、好みの感じになってなかったのです。
今思うと、可愛い子役が成長したら普通、
みたいな感情でしょうか。
19で童貞の俺は、過剰な期待を恋愛に抱いてた
(テレビの中のおニャン子が女子高生の基準だった)から。
彼女と喫茶店で、全く上手くしゃべれませんでした。
男がリードしなきゃというプレッシャーと、
大阪なんだから笑わせなきゃというプレッシャーと、
あまりにも昔好きすぎて緊張してたのと。
翌日の大学は滑り、僕は関西の大学に進学。
なんだか分からなくなってしまった僕は、
好きでもない男に手紙なんか出さなきゃよかったのに、
とひどい葉書を書いてそれっきり。

今は東京で働いてます。
しばらく帰ってない実家の机の引き出しには
あの頃の手紙があるから、住所は分かるはずだけど、
さすがに訪ねようとは思ってません
(お互いもういい歳だし)。
でも彼女にちゃんと会って、
上手くしゃべれなかったくせに、
ひどい言葉を書いた事をあやまりたいという気持ちを、
ずっとうっすら持っています。

あれからいくつかの恋をして、
やっと女子の事も考えることが出来る余裕もできました。
あの時、校門に向かう俺の中では
『大きな玉ねぎの下で』が流れてたけど、
Sちゃんはどんな気持ちで校門まで来たのかなって。
この曲をたまにカラオケで歌うたびに、
その頃の、上滑りだけして、全く足りない、でも真剣な、
そんな気持ちを思い出します。

僕の初恋です。

くちずさみ歌としては比較的新しめのこの歌。
久々に聴き返してみて、
ちょっと違和感があるなと思ったら、
アルバムの中の一曲をリメイクして
シングルカットしていたんですね。
ぼくが憶えていたのはアルバムバージョンでした。

ドラマティックな歌詞が印象的な一曲ですが、
投稿の内容も負けず劣らずの展開。
ああ、そして、
つくられたお話と大きく違うのは、
「なんだかよくわからない」理由で
ひどいことをしてしまったり、
ふたりの仲がそれっきりになってしまったり。
いえ、9年振りに小学校の校門の前で
再会できたことだけでも、
そうとうドラマだと思うのですが‥‥。

思い出のなかの不器用な振る舞いが、
ひとつひとつ、切なくて、
ちょっと泣きそうになります。

しかし、すごいエピソードが
つぎからつぎへと届くこのコーナー。
こうなると、ちょっと期待しちゃうのは、
ここを読んだ読者からの、
「‥‥それ、私です」という展開。

たとえばさ、これを読んだSさんから
「それ、私です」的なメールが届いたりしたら
おもしろいと思わない?

そしてその初恋の彼女からしてみると
ぜんぜん違う解釈だったりしたりしてね。
だっておニャン子クラブが
女子高生の基準だったっていう
(いまテレビの仕事41歳)さんと同じように
当時の彼女が男子に期待してたのは
少年隊とか光GENJIとかチェッカーズかも
しんないじゃない〜〜。

それにしても「大阪なんだから
笑わせなきゃというプレッシャー」ってすごい!
大阪で思春期をすごすってそういうことなのか!

きました、文通ネタ。
リアルで切ない投稿です。
このドラマは、
小学1年生からはじまっているのが
すごいところですよね。
「たった便箋一枚に、
 どれだけ下書きしたことでしょう。」
っていうのは、実に深くうなずける文面。

ハードルを勝手に上げて冷めちゃったり、
妙なプレッシャーで背伸びしたり、
勢いで発した言葉で相手を傷つけたり‥‥。
そういう経験って、多かれ少なかれ
誰にでもあるような気がします。

「ひとはみな、過去の恋愛において
 あやまりたいことがある」
っていうのは‥‥ちがいますかね?
わかったような物言いになってたら
ごめんなさい。
自分自身に思い当たるふしがあるので。

ああ、ほんとにこの投稿、
Sさんが読んでたらいいのに。
Sさーーん、読んでたらメールをーー。

ええ話です‥‥でも‥‥。

好みの感じになってなかった、と‥‥?

好きでもない男に
手紙なんか出さなきゃよかったのに、と‥‥?

それきり?

ガーーーーーー。
早く連絡を取って、連絡を!!

あ、スガノの目が三角に‥‥。

まあ、そういう声が
女性側からあるだろうなあというのも、
たしかにわかりますけどね。

そういうわけのわからん
ひどい行為をしてしまうのって
このコーナーに寄せられる投稿では
ほら、お馴染みじゃないですか。

若き日の恋とは相手はもちろん
当人すら吹き飛ばすほどの無軌道なり。

そうだよね、そうだよ、
おたがいに、大人になりながら恋をするんだ。

しかし‥‥小学一年生から現在に至るまで
なんてロングスパンの
恋愛ストーリーなのでしょう。
すごいなぁ。

小学生のふたりの会話、
転校、戸惑い、文通期間に変化した
男の子の繊細な気持ち、
Sちゃんにはもしかしたら
想像もできなかったことかもしれません。

こんなに正直で長い
気持ちのストーリーを読めるのは、
うん、ほんとうにすごいこと。
Sさーん、
(いまテレビの仕事41歳)さんが
こんなこと言ってますよー。
こっそり「恋歌くちずさみ委員会」まで
連絡くださいねー!

2011-12-29-THU

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