くせのある奴だな、と思った。
ものすごく聡明で、時々人を莫迦にしてるように見えて。
苦手なタイプだと思ってた。そんな大学時代の同級生。
不器用で、まっすぐな人だと、後から気づいた。
私がそのことに気づいたと知った瞬間、
おそらくほぼ同時に、2人、恋に落ちた。
当時私は先輩と4年越しで付き合っていて、
結婚すると誰もに思われていて、
自分達も何となくそんな気でいた。
でも、彼と魅かれあうのをとめられなかった。
学祭の準備で、ある団体の取材に行った時、
桜の季節に2人でドライブした。
クラシックもジャズもポップスも、
ものすごく詳しくて、格好つけてた彼が
ぽつりと好きだと言ったこの歌。
本当はこんな女性を
ずっと待ち続けていたのかもしれない。
私は本当に莫迦で。
先輩よりもずっとずっと好きだったのに、
それまで積み上げた物を失うのがこわかった。
彼とは友達のまま卒業した。
卒業後、彼は地元に残り、私は東京に戻った。
先輩とは、7年付き合って、結局別れた。
年賀状を出しても、暑中見舞いを装っても、
ついに彼からの返事はなくて。
そして、卒後10年以上過ぎたある日、
突然の彼の訃報。
仕事場で倒れて、そのまま逝ってしまった。
突然死。早すぎる死を、皆が悼んだ。
ふと思い出す。
「自分は一緒にいる人を不幸にする。
だから自分とは一緒に生きない方がいい。」
ご両親も知らなかったようだけれど。
実は彼は自分の病気を知っていたのではないかと思う。
こうなることを、あの時、多分彼は知っていた。
今は、確信している。
それでも、千の剣を受ける女性を、
彼は探し求めていたのだ。
独身のまま、彼は去った。
今は年に数回、彼のご両親に、
季節の手紙を出している。
できることは、本当に、少なくて。
いつか墓前に立つことができたらと思っている。 |