いつもくちびるに、季節の風とラブソングを。
こんにちは、恋歌くちずさみ委員会です。

あまずっぱい企画は、とっても好評!
たーくさんの、おたよりがとどいています。
みなさんの、
たいせつなたいせつな思い出の「恋歌」、
どんどん紹介していきますね。
なのでどしどし、おたより(メール)くださーい!

私は本当に莫迦で。
先輩よりもずっとずっと好きだったのに。
(投稿者・JP)

『胸の振子』
 歌/薬師丸ひろ子

 1987年(昭和62年)
 

My恋歌ポイント

 千の剣だって 私は受けるから
 ずっと あなた そばで 生きてほしいの

くせのある奴だな、と思った。
ものすごく聡明で、時々人を莫迦にしてるように見えて。
苦手なタイプだと思ってた。そんな大学時代の同級生。
不器用で、まっすぐな人だと、後から気づいた。
私がそのことに気づいたと知った瞬間、
おそらくほぼ同時に、2人、恋に落ちた。

当時私は先輩と4年越しで付き合っていて、
結婚すると誰もに思われていて、
自分達も何となくそんな気でいた。
でも、彼と魅かれあうのをとめられなかった。
学祭の準備で、ある団体の取材に行った時、
桜の季節に2人でドライブした。
クラシックもジャズもポップスも、
ものすごく詳しくて、格好つけてた彼が
ぽつりと好きだと言ったこの歌。
本当はこんな女性を
ずっと待ち続けていたのかもしれない。

私は本当に莫迦で。
先輩よりもずっとずっと好きだったのに、
それまで積み上げた物を失うのがこわかった。
彼とは友達のまま卒業した。

卒業後、彼は地元に残り、私は東京に戻った。
先輩とは、7年付き合って、結局別れた。
年賀状を出しても、暑中見舞いを装っても、
ついに彼からの返事はなくて。
そして、卒後10年以上過ぎたある日、
突然の彼の訃報。
仕事場で倒れて、そのまま逝ってしまった。
突然死。早すぎる死を、皆が悼んだ。
ふと思い出す。
「自分は一緒にいる人を不幸にする。
 だから自分とは一緒に生きない方がいい。」
ご両親も知らなかったようだけれど。
実は彼は自分の病気を知っていたのではないかと思う。
こうなることを、あの時、多分彼は知っていた。
今は、確信している。
それでも、千の剣を受ける女性を、
彼は探し求めていたのだ。

独身のまま、彼は去った。
今は年に数回、彼のご両親に、
季節の手紙を出している。
できることは、本当に、少なくて。
いつか墓前に立つことができたらと思っている。

一行目がすごい!

「くせのある奴だな、と思った。」

って!
もうそれだけで、
どれだけ(JP)さんが
彼のことを好きだったのか、
好きになっちゃったのか、わかる。
そして

「私がそのことに気づいたと知った瞬間、
 おそらくほぼ同時に、2人、恋に落ちた。」

って! 山田詠美かーっ!
‥‥はぁはぁ。

いや、ほんとうにすごい話です。
きっと、彼の遺したものって、
とても大きいものだったんですよね。
それにたいして、遺されたものが
できることは、ほんとうに少ない。
ああ、ほんとうに、そのとおりです。
亡くなったあとに彼の両親に
手紙を書きつづけている(JP)さんは、
ぼくは、とてもすてきだと思います。

ところでこの曲は薬師丸さんと
のちに結婚することになる
(そして、離婚することになる)
「玉置浩二」さんの作曲なんですね。
それも、すごい。

この方は、ふだんから
文章を書かれているのではないかと思います。
あるいは、文章を編むように、
考えを重ねていく方なのか‥‥。

踏み固められた土の道のように、
何度も何度も思いをたしかめた痕跡があり、
それが、読む側の気持ちを落ち着かせます。
受け止めようによっては、
たいへんヘビィで悲しい物語なのに。

恋に落ちるその瞬間には
明らかに意義がありますけど、
落ちた恋を何度もたしかめるというのも
また別な、すばらしい意義が
あるような気がします。

ところで、この歌は知らなかった。
薬師丸さんの歌は、独特で、いいですよね。

先のふたりも述べていますが、
まるで純文学のようにきれいな文章。
それでいて
文章のテクニックだけが前面に出てこないのは、
これがやはり本当の話で
(JP)さんの後悔や切ない想いが
いまも続いているからなのでしょう。

自分の話でごめんなさい。
仲のよかった友だちや
好きだった異性に先立たれた経験はぼくにもあります。
(JP)さんがおっしゃるように、
できることは、本当に、少なくて。

ときどき思い出すことをしています。
眠る前のほんの数分、
電車に長く乗るとき、
ひとりでのんびりできる時間がとれたとき、
その人たちの笑顔やエピソードを思い出します。
悲しくはなく、ゆたかな時間です。

私もこの歌を知らなかったので
聴きつつ、歌詞を追ってみました。
彼はほんとうに
自分のからだのことを
知っていたのかもしれないですね。

作詞したのは、伊達歩さん‥‥ということは
伊集院静さんなのでしょうか。

歌をしみこませて、
もういちど(JP)さんの投稿を読んで。

くせのある奴だった彼が
まっすぐさに気づかれた瞬間、恋に落ちた。
そこからいっしょにすごした学生時代、
どんなに連絡があっても出さなかった返事。
ぜんぶのエピソードに
彼の生き方の実直さがあらわれている気がしました。

そしてこのコーナー、
薬師丸ひろ子さんの登場回数が
意外と多いことに気づく私でした。

恋歌くちずさみ委員会、
冬休み毎日更新は明日まで。
明日の歌も、おたのしみに!

2012-01-08-SUN

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