大学2年の秋から3年の夏にかけて、
サークルの先輩とお付き合いをしました。
彼は本気で音楽活動を目指していたギタリストでした。
私は入学以来ずっと好きな男性がいたのですが、
でもその人にとって私は恋愛の対象ではなく、
常に「いい友達」止まり。
女の人と歩く姿を見てはがっかりしたり、
たまに親切にされては、
せつない思いを積み重ねていました。
そんなとき、学祭のイベントを機に、
先輩であるギタリストの彼と
あっさり恋に落ちてしまったのです。
全然タイプじゃなかったはずなのに。
ぐいぐい自分に迫ってくる感じと、
彼の音楽に心がとらわれてしまったのかな。
3つ年上の彼は、
自分よりずっと大人で頼もしく見えました。
音楽の話をするときの彼のきらきら感。
雪国の冬だったけど、寒い部屋に二人でいることも、
雪の中を寄り添って歩くことも楽しかった。
でも、東京での音楽活動を目指していた彼でした。
春には卒業して、夏までには環境を調えて
上京することはすでに決まっていました。
期限付きの恋であることは暗黙の了解でした。
あっという間に夏はやってきて、
二人の将来の約束も何もなく、
次の日上京するという彼と、
晴れた夏の日の夕方にお別れしました。
あまりにあっけなくあっさりと、
蝉の声と夕焼けの中、途中まで送ってくれた彼と
いつものようにさよならしました。
自分とはまったく違う世界に
行こうとしている彼の未来には、
私の未来は重ならないと、
最初からわかっていたのかもしれません。
最後のあたりは、妙にものわかりのいい彼女を
演じていたのかもしれません。
彼はきちんと別れを告げたし、
私はそれを自分の意志で受け止めたし、
けっして一方的に
独りぼっちにされたつもりはなかったのだけど、
何年かして、この歌を聞いたとき、涙があふれました。
私はやっぱり彼のことを
無意識のうちに待っていたのだろうか、と
歌の世界に自分の思いをかぶせては、
決してないはずの彼の訪れを期待したりして。
何年たっても彼が私に連絡をくれることは、
ありませんでした。
そして私は音楽とあまり縁のない、
文学青年と結婚しました。
あれから25年以上の年月。
私には「突然の贈りもの」は届きはしませんでしたが、
あの夏に選んだ人生がここにあります。
ときどきセンチメンタルにはなるけど、
じゅうぶん元気で、幸せです。
あの日お別れしたギタリストのあなたも
幸せでいてほしいです。 |