いつもくちびるに、季節の風とラブソングを。
こんにちは、恋歌くちずさみ委員会です。

あまずっぱい企画は、とっても好評!
たーくさんの、おたよりがとどいています。
みなさんの、
たいせつなたいせつな思い出の「恋歌」、
どんどん紹介していきますね。
なのでどしどし、おたより(メール)くださーい!

彼には妻も小さな子供もいました。
でも、すきですきですきで・・・。
(投稿者・緑)
『踊り子』
 村下孝蔵

 1983年(昭和58年)
 

My恋歌ポイント

 写真をばらまいたように心がみだれる

ほんとうにくるくると踊り続けていなければ、
不安で不安でしかたなかった。
立ち止まることはそのまま、
”終わる”ということでしたから・・・。

初めて勤めた職場で彼と出会いました。
医師と看護婦(当時はこの呼び名でした)の、
よくある関係でした。
他県から出張してきていた彼には、
妻も小さな子供もいました。
でも、それさえ見えなくなるくらい、
すきですきですきで・・・。

脳外科の超多忙な病棟で、重く膨大な仕事をこなしながら、
逆にその多忙さの陰にかくれて、
私は彼の宿舎に通いました。

いったいなにをあんなに求めていたんだろう?

直接、人の生死にかかわる現場。
目の前で息絶えていく人達を送る毎日。
命の重さ、はかなさに、
自分達の想いの切実さを、
都合よくかさねていたのかもしれません。

やがて関係は、同僚にも上司にも知れることとなり、
私は町はずれの病院に転勤になりました。
現実は厳しく冷たく(当然のことです)、
そしてとても単純で、
私ははじき出され、彼は守られました。
職場にとってより大切な、より未来のある、
そして失うものの大きすぎる彼でしたから・・・。

その後私は職場を転々とし、劇的な再会などもなく、
ザクッと切られたまま長い年月が過ぎました。
不思議なことに、当時は彼の姿しか見えなかったのに、
何年も経ってから
あの頃の風景や、
病院の消毒液のにおいや、
かかわった人達の表情などが、
鮮やかに思い出されたものでした。
でも、彼への気持ちはとても静かで、
まるで枠の中にはめ込まれたみたいに、
私のどこかに居場所だけがあって、
そこから動き出しもせず、
消えてなくなりもせず、
もうどんなふうにも波立つことはありませんでした。

あの頃、カラオケでよく流れていたこの歌。
あまりにも近すぎる歌はせつなさを通り越して、
笑ってしまいたくなるくらいでした。
あれ以来一度も耳にしなかったけれど、
ふと思いついて聴いてみました。
もう、あの頃の何ものにも
動かない自分を知っていましたから。

なのに、
音は生きていて、
イントロの出だし3音で、心臓をギュンッとつかまれ、
訳のわからない涙が、あとからあとから流れ出ました。

行き止まりの恋。
そのおぼつかなさを、
つまさき立ちで踊る踊り子になぞらえた、
こんなにもせつない唄だったんですね。
たったいま久しぶりに聴いて、
歌詞の意味をはじめて深く理解しました。

それにしても、(緑)さんのすばらしい文章。
ご自分の想いの強さや深さだけでなく、
『踊り子』という曲のすごさまでも
ぼくらにしっかりと届けてくださっています。

そして、この読後感。
余韻。
すばらしいです。
何度も書きましたが、ほんとうのことって、すごい。
事実はこんなに、静かにすごい。

「踊り子」は、ジャケットのイメージからか、
踊り子のような女の人と恋に落ちた歌だと
思っていました。
しかしこれは、ふたりの恋の状態、特に
男の人の心を歌っていたのだと
このたび知ることになりました。

彼への思いはとても静かで、
居場所だけがあって、
消えてなくなりもしない。

なんてことでしょう。
せつなくてとても怖い。
恋はとても怖い。
長い月日がいろんなことを癒してくれても
歌がすとんと、穴に落とす。

あとからあとからあふれ出す涙で終わる描写は
まるでなにかの映画のラストシーンのようです。

ただでさえ劇的で引き込まれる投稿ですが、
その舞台設定がまた味わい深い。
って、ほんとの話ですから、
「舞台設定」とかいっちゃいけないんですけど、
それにしても「脳外科医と看護婦」です。

現実の生活の荒々しいうねりと
そのときの恋愛というのは
しばしばリンクすることがあるものですが、
濃い、嵐のような、ひとときだったのでしょうね。

きちんと長い物語で読んでみたい気がしました。
ありがとうございました。

きっと──、といってもそれは
ただの想像、妄想のようなものですけれど、
お医者さまだった彼にとっても、
とてもとても大事な恋だったんじゃないかと、
ぼくは思いたいです。
立場的には守られたという彼も、
やはり、同じように、
思いをのこした恋だったのだと。

現実というものに阻まれた恋、
未来だとか、失うものの大きさだとか、
そういうものとは、
天秤はかりにかけられないのが恋だけど
いやおうなくかけられてしまうのが現実で、
勝ち負けでもなんでもないはずなのに、
そんなふうに結果を見てしまうひともいて。

(緑)さん、
このようなたいせつなエピソードを
送ってくださったこと、感謝します。
読ませていただけて、よかったです。
どうもありがとうございます。

次回の恋歌は、水曜日。
よい週末をおすごしください!

2012-02-25-SAT

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