私がはじめてお付き合いした人とは、遠距離恋愛でした。
出会ったのは、ひとつ年上の彼が大学の春休みで帰省中。
私は地元の大学の入学試験が終わって、
合格発表待ちをしているところ。
これから自分の人生がどうなるのか?
今まさに、未来への新しい扉が
開かれようとしていることに対する
不安と希望でいっぱいだった、そんな時に出会いました。
まさか自分が遠距離恋愛をすることになるなんて
彼と出会う前の私には、想像すらできませんでしたが。
それは、まるで突然やってきた春の嵐。
出来るものならやってごらん、遠距離恋愛
と、ばかりに。
彼が大学に戻る日が迫り
思いもかけなかった遠距離恋愛の序章が
既に始まっていたことに気が付きました。
お互い遠く離れての学生生活。
携帯もネットもない時代。
話したい時に話せるわけでもなく
会いたい時に会えるわけでもない。
絆は手紙。
彼が卒業するまでの3年間、何度思ったことでしょう
魔法の鏡がほしい・・・
魔法の鏡を持ってたら
あなたのくらし 映してみたい
卒業して彼が戻ってきて、就職。
その一年後に私も大学を卒業して就職しました。
離れていた時には、
あれほど一緒にいたいと願っていたのに
仕事が面白くて楽しくて、いつのまにか
彼のことは後回しになっていました。
でも、あの離れていた3年間があったせいでしょうか
かけがえのない存在であることは揺るぎませんでしたが。
彼が戻ってきて10年目、
私が海外に出ることになりました。
今、日本を離れて20年になります。
彼はその後しばらくして結婚。お子さんがひとり。
数年前、一時帰国した折に少しだけ会いました。
13年ぶりの再会。でも、少しも変わっていなかった。
20代のはじめ、あんなに欲しかった魔法の鏡。
誰でも、想う相手のくらしを映してみたいに違いない。
そう、信じて疑っていませんでした。
でも、今は少し違う心境の私がいます。
魔法の鏡を持ってたら
ふたりの昔を映してみたい。
彼の今のくらしは・・・映さなくていい。
見たところで、私にはどうしようもないのだから。 |