いつもくちびるに、季節の風とラブソングを。
こんにちは、恋歌くちずさみ委員会です。

あまずっぱい企画は、とっても好評!
たーくさんの、おたよりがとどいています。
みなさんの、
たいせつなたいせつな思い出の「恋歌」、
どんどん紹介していきますね。
なのでどしどし、おたより(メール)くださーい!

魔法の鏡を持ってたら
ふたりの昔を映してみたい。
(投稿者・金木犀)
『魔法の鏡』
 荒井由実

 1974年(昭和49年)
 

My恋歌ポイント

 魔法の鏡を持ってたら
 あなたのくらし 映してみたい

私がはじめてお付き合いした人とは、遠距離恋愛でした。
出会ったのは、ひとつ年上の彼が大学の春休みで帰省中。
私は地元の大学の入学試験が終わって、
合格発表待ちをしているところ。

これから自分の人生がどうなるのか?
今まさに、未来への新しい扉が
開かれようとしていることに対する
不安と希望でいっぱいだった、そんな時に出会いました。
まさか自分が遠距離恋愛をすることになるなんて
彼と出会う前の私には、想像すらできませんでしたが。

それは、まるで突然やってきた春の嵐。
出来るものならやってごらん、遠距離恋愛
と、ばかりに。

彼が大学に戻る日が迫り
思いもかけなかった遠距離恋愛の序章が
既に始まっていたことに気が付きました。

お互い遠く離れての学生生活。
携帯もネットもない時代。
話したい時に話せるわけでもなく
会いたい時に会えるわけでもない。
絆は手紙。

彼が卒業するまでの3年間、何度思ったことでしょう
魔法の鏡がほしい・・・

    魔法の鏡を持ってたら
    あなたのくらし 映してみたい

卒業して彼が戻ってきて、就職。
その一年後に私も大学を卒業して就職しました。
離れていた時には、
あれほど一緒にいたいと願っていたのに
仕事が面白くて楽しくて、いつのまにか
彼のことは後回しになっていました。
でも、あの離れていた3年間があったせいでしょうか
かけがえのない存在であることは揺るぎませんでしたが。

彼が戻ってきて10年目、
私が海外に出ることになりました。

今、日本を離れて20年になります。
彼はその後しばらくして結婚。お子さんがひとり。
数年前、一時帰国した折に少しだけ会いました。
13年ぶりの再会。でも、少しも変わっていなかった。

20代のはじめ、あんなに欲しかった魔法の鏡。
誰でも、想う相手のくらしを映してみたいに違いない。
そう、信じて疑っていませんでした。

でも、今は少し違う心境の私がいます。

魔法の鏡を持ってたら
ふたりの昔を映してみたい。

彼の今のくらしは・・・映さなくていい。
見たところで、私にはどうしようもないのだから。

恋をすると隣町ですら遥か遠い国のようなのに
ほんとうの遠距離恋愛というのは
きっといかにして心の距離を縮めるかに
心をくだくものなのでしょうね。
いまはネットがあるから
Skypeが魔法の鏡のかわりになるかもしれないけれど
(金木犀)さんの頃は「絆は手紙」。
たぶん電話も黒電話、
学生の住むところは共用の呼び出し電話か
10円玉を入れるピンク色の公衆電話、
あるいは外に出て電話ボックスか
タバコ屋の前の赤電話。
帰省だって年に多くて2回。
そんな頃だったのではないかなあ。
そんなときにユーミンの唄った「魔法の鏡」‥‥。
恋する者は誰もが欲しいと思ったにちがいない。

この話は30年の年月を語っているのだけれど
こんなにあざやかにあの頃が描けるなんて、
(金木犀)さんはもしかして
魔法の鏡を持ってるんじゃない?
なんて思ったりもしました。
あえて見ないだけで、ね。

「会いたい気持ち」っていうのは、いいものだなぁ。
この投稿を読んで、
そんな、すごくふつうなことをポンと思いました。
好きな異性はもちろん、
友だちとか、親とか、兄弟とか、犬とかに‥‥
会いたい。
携帯があってもSkypeがあっても、
それじゃあいやで、ちゃんと会いたい。
顔が見たい触れあいたい一緒の時間を過ごしたい。
なんだか毎日の生活が
「会いたい」を基準に
いとなまれている気さえしてきました。
会いたいから会社に行って、会いたいから家に帰って、
会いたいからもろもろがんばって。

時間と距離をびゅんびゅん超えた、
(金木犀)さんのめくるめく物語。
「携帯もネットもない時代。」の
「絆は手紙。」という状況が、
せつなくつよく響きました。

魔法の鏡を持ってたら。
そうだなぁ、わたしも
あのころのふたり、あのころの自分を
映してみたいです。
そして、いまの自分の態度を改める‥‥さておき。

遠距離恋愛の3年、
その長さは想像もつきません。
『魔法の鏡』の歌では
最初で最後の本当の恋だから、という
リフレインがつづきますよね。
心の引き出しにしまうには
鏡の君は、大きな存在です。

しかし、ときどき
このコーナーにいただく投稿の
スパンが大きいことに驚かされます。
3年、え? 10年、うう? そして、20年!?
映画でもこんなにビュンビュン
ときが過ぎませんからね。
しかも、1回2回、3回と、
あれよあれよと次々飛びますから。
こりゃほぼ一生か、って思うくらい。
そう思うと、投稿をくださったみなさんの
人生そのものをワーッと読んでいる気がして
ほんとうに、心が震えるのです。

不思議なことだなあと思いつつ、
でも同時に、それが事実というものだなあと
しみじみ感じるのは、
「別れの場面」がまったく書かれていないことです。

想像するに、長いふたりの物語を振り返るとき、
それぞれの思い出深いシーンは
きっと、あるに決まってるんですけど、
時間のなかに溶けてしまっていて、
もう個々にフォーカスできなくなっているのかなと。

レンズのモードを切り替えて、
ひとつひとつに焦点を合わせていくと、
いろんな思いがあふれてくるから、
漠然と、終わった物語を眺める。

大人になると、そういうふうな
思い出し方ができるのかなと思いました。

素敵な投稿をありがとうございました。
「彼が大学に戻る日が迫り
 思いもかけなかった遠距離恋愛の序章が
 既に始まっていたことに気が付きました。」
という一文がとても好きです。

次回の恋歌は、土曜日の更新です。
みなさまからのメールもお待ちしています。

2012-02-29-WED

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