『東京』
 くるり

 
1998年(平成10年)

遠距離恋愛中、
携帯電話の
彼の着信音を
この曲にしていました。
  (投稿者・タマコ)

君がいるかな 君と上手く話せるかな
まぁいいか
でもすごくつらくなるんだろうな


高校生の頃、初めての彼ができました。
私が好きな人が私のことを好き、という初めての体験に、
足が浮き上がりそうな程甘くて幸せな日々でした。

同級生の彼と仲良くなったきっかけは
私が買ったくるりのCDで、
それを貸したお礼に他の歌手のCDを借りたり、
漫画や本を貸したり借りたりを繰り返しているうちに、
いつの間にか好きになっていました。
私が好きなものの基盤みたいなところには
今でもこの人がいるような気がします。

私と彼は一度も喧嘩をしたこともなく、
このまま付き合って結婚するんだろうなあと、
お互い口には出さないけれど、そう思っていました。

受験の時期を迎え、私は隣県の大学に、
彼は東京の大学に行くと決まった時、
漠然とした不安はありましたが、
きっと大丈夫だろうと信じて疑わなかったです。

遠距離恋愛中、
私は携帯電話の彼の着信音をこの曲にしていました。
東京にいるんだから、という軽い気持ちだったのですが、
だんだんとこの曲の歌詞のように、
彼とうまく話せなくなっていることに気付き始めました。
 
お互いのいる環境が違いすぎて、
共通の話題が無くなっていきました。
彼は彼で楽しいことがたくさんあって、
私も新しい環境でたくさん楽しいことがありました。
次第に連絡はこなくなり、
数ヶ月が経って私たちは別れました。
 
お互い好きなまま、
でもどうしても溝を埋められませんでした。
友達でいよう、と彼が言い、
何度か連絡がありましたが、やはりすごく辛くなるだけで、
そのうち何もなくなりました。

その後私は就職で東京に行くことになり、
一度だけ彼と会いました。
もしかしたら、と淡い期待がありましたが、
彼と私の道はもうすっかり分かれてしまっていて、
二度と交わることはないのだ、
ということを再認識しただけでした。

その後別の人と出会いがあり、
とんとん拍子に話が進んで結婚しました。
彼のことを頭から追い出してくれた唯一の人です。
東京で幸せに暮らしながら、
時々忘れてしまったことに想いを馳せます。
もう会うことも電話で話すことも二度とないでしょうけれど、
彼も時々「ちょっと思い出してみようかな」
くらいの温度で思い出してくれたらいいな、と思います。

(タマコ)

大学時代にくるりの『東京』を携帯の着信音に。
若い世代からの投稿ですね、ありがとうございます。

「昔はよかった」とか「恋愛のかたちも変わった」と
よく口にするわれわれ40代ですが、
そうですよね、
今は今の、恋の悩みがとうぜんあるわけで。
東京に彼が行ってしまう状況は、
『木綿のハンカチーフ』を思い出しました。
離ればなれという意味では、『なごり雪』も。
物理的な距離ができることは、
時代に関係なく、恋人たちの大問題です。

くるり、ぼくも大好きです。
岸田繁さんが役者で出演している映画、
『色即ぜねれいしょん』は、
みなさんご覧になりましたか?
監督は田口トモロヲさん、
原作は、われらのみうらじゅんさんです。

この映画の世界は、まさしく「恋歌」。
モヤモヤ、ドキドキ、
なさけないほど一生懸命な、あまずっぱい青春物語。
家庭教師役を演じる岸田繁さんが、
ほんとにもう、すんばらしいんです。
ご覧になっていない恋歌ファンのあなた、
ぜひゴールデンウィークにDVDで!

心境をなぞるように
読んでしまいました。

足が浮き上がりそうなくらいだった日々から
道がすっかり分かれてしまったんだな、
というところへ行き着いてしまう。
読み手の私が「ああああ」と
思っているところに
彼のことを頭から追い出してくれた唯一の人が
あらわれる。
ああ、ほんとうに、よかったね、よかった!

そして最後の、
「ちょっと思い出してみようかな」
くらいの温度で思い出してくれたら、
の結び。
あまくせつなく、あたたかい。
もう、このお話をかかえて
今日は私は寝ます。
おやすみなさい。

環境ってひとを変えますよね。
あのこも、変わるし、
あいつも、変わるし、
きみだって、変わるし、
ぼくも、変わったんだよなー。
なにかの拍子にふと立ち止まるとき、
そんなことを痛感します。
変わりたくなかったような、
しかたがないような、
いや、それでよかったんだというふうにも。
こういう気持ちに
「歌」って寄り添いますよねえ‥‥。

と、なんだかとっても基本的なところに
立ち戻っちゃいました。

この「恋歌くちずさみ委員会」では、
どうしても古い歌を
取りあげることが多いのですが。

若い人たちのなかでも、
「ザ・ベストテンが全盛期の頃に
 デビューしていたら、
 きっとみんながくちずさんだだろうなあ」
と思えるような人がいて、
ぼくにとって、くるりは、
まさにその一番手なのです。

よい歌が多いのはもちろん、
例の「魔法のフレーズ」が
しょっちゅう出てくるんですよね。

かといって、昔の作詞家とも
シンガーソングライターとも違う、
現代的な恋のフレーズ。
『東京』でいうと
「飲み物を買いに行く」あたり。
「まぁいいか」が入るあたり。

尼崎の魚だった彼らが
東京に出てきて、
変わる自分への不安と
変わっていく自分からの惜別を
「あいかわらず」と「上手く話せるかな」という
フレーズを行き来させて
君への手紙のように書いたこの歌は、
山下さんがいうように
いまの『なごり雪』であり、
『木綿のハンカチーフ』である気がします。

そういえば、くるりは
松任谷由実さんとか小田和正さんとか、
「恋歌」の常連ミュージシャンと
やり取りがありますね。
そのあたりも、「恋歌系」なのかも?

ゴールデンウィーク恋歌スペシャル。
明日もつづきますよー。

 

2012-05-04-FRI

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