『旅の手帖』
 サニーデイ・サービス

 
1997年(平成9年))
 アルバム『サニーデイ・サービス』に収録曲

 K君とすれ違うときに
 パッとCDを受け取りました。
 (ひりこ)

いつかはきっと知らない場所で
君のこと思い出すだろう

高校二年のクラスは文系で男子は10人程度、
しかも結束力がハンパなく、
仲は悪くないものの男子も女子も
『友達と遊んでるのが楽しくてしかたない』から、
あまり男女の交流のないクラスでした。

そんな中にいた私は、
クラスの爽やかイケメンサッカー少年のK君に
恋とは言えないミーハーな憧れを抱いていました。

でも話すこともないし、
休み時間は男子でたむろしてるし、
ホント見てるだけ。

でも三年生になりレベル別に分かれる英語の授業で
なんとK君の隣になったのです。
しかも一番後ろの席。

一応英語が得意だった私は
授業中に彼に質問されて教えたり、とか
小テストの採点でプリント交換したり、とか
その時間だけは話す理由がありました。
そしてどういう経緯だったか覚えてないのですが、
この曲が入ったアルバムを貸すことになったのです。
貸したときはたぶん英語の授業の時に渡したのかな、
と思うのですが
特に『聞いた?』とか
『どうだった?』とか尋ねることも
意識しすぎて聞けずにいました。
そしてある日
教室でパッとK君と目があったのです。

私は歩きだし、
K君とすれ違うときに
パッとCDを受け取りました。

少しだけ2人の秘密みたいでどきどきしました。
K君はその後大学に進学し、
私も別の大学に進学しました。

二十歳になる頃、私には彼氏がいて
K君も高校の同級生の笑顔がかわいい女の子と
付き合って、と噂を聞いてた頃、
同窓会があり、少し大人になったK君と再会ました。
ただのボーダーも
スタイルが良いイケメンが着ると
こんなにも爽やかになるのか!
と、驚愕アンドときめき。
でも話題がなくて‥‥。
K君が気にはなるけど、
遠くの席で違う友達とずっと楽しく飲んでいた私。

結局一言も話さないままお開き。

しかしお店の前で集合写真撮ろう!
となって集まってたら
K君がふらっと仲間から離れて私の隣へ来て
「久しぶり、元気?」
と言ってそのまま私の隣に座ったのです。
なんとK君の横で集合写真。

状況が把握できない私は
そのときうまく笑えなかったなあ。
そして二次会には行かない私に
「じゃあね、ばいばい」
と言って仲間のところへ戻っていきました。

なんてゆーかそれは、変なんですよ。
場所は自由な集合写真とはいえ、
K君が仲良しの男子と離れて私の横ではいチーズ、は
明らかに変なんです。

周りの女子もそれを見逃すわけもなく、
「あんた、めっちゃ好きだったもんね!
 K君、ちゃんと気にしてくれてたんだね。
 かっこいー!」
と言ってました。

漫画みたいにそこから何かが始まって、
なんてことは当然ありませんが、
なんだかとてもくすぐったくてきゅんとしました。

単純に、好きで良かったなあって思ったりもしました。

今はK君と1、2年に1回
高校の集まりで顔を合わせます。

お互い結婚し、子供もいて、
特に会話をすることもないのだけど、
なんとなく目の隅の方にいるな、って思う存在です。


(ひりこ)
うわあ。文系男子としては
なんだか同じクラスにいるみたいな気分で
読んじゃいました。
えー、なにー、K、やるじゃーん。
CD渡したんだって? ひりこに?
マジかよーっ!
‥‥みたいな。

いましたよ、Kくんみたいな男子。
かなわないんです。なんだか。
べつに英語がトップじゃなくてもなんでも
「憎からず思われている」タイプ。
憎からずっていう表現は
昭和っぽすぎるかもしれないけど、
もう、ほら、このCDの渡しかたなんて、
ふんとにもー、にくいったらない。

おとなになって、
さぞや悪い男になっててほしいくらいなのに、
その後のKくんは、かっこよく、やさしいままで、
「好きで良かったなあ」
なんて、思われちゃったりしてるわけで。
ふんとにもー!!

Kくんもきっとひりこさんのこと、
時々、思い出しているんだろうな。
「旅の手帖」みたいに。
ああにくいにくい!

ある日、パッと目が合い、
歩き出して、すれ違うときに、
貸していたCDを受け取る。

なにしろ、この場面が、しびれます。
こういうことばでいいのかわかりませんけど、
スリリングです。

だって、十代の、
つき合っていないけれども
お互いに「憎からず」思っている男女が
ふたりきりで会うわけにもいかず、
クラスという冷やかし上手な集団のなかで
「ふたりだけのこと」を進行させるなんて、
『ゴッドファーザー』の
暗殺シーン並にスリリングですよ。

そして、そういうことが
たしかにあったなあとぼんやり思い出すのは、
恋がはじまるよりもちょっとまえにある、
「目が合う」感じです。
見てると見たり、見ると見てたりする、あの感じ。
それがモノクロームの毎日を
天然色に変えちゃうんですよねー。

ああ、うれしい投稿だった。
どうもありがとうございます。

『サニーデイ・サービス』、
貸したんですよね、K君に。
そりゃあもう、まちがいなく
K君は、そのアルバムを聴くたびに
(ひりこ)さんのことを思い出していたと思います。
『サニーデイ・サービス』アルバム全曲が
K君の「恋歌」になって
メモリーとして継続しちゃってたことだろうと
わたくしは、かくじつに、思います!

それがね、特にCDはね、
貸したほうが、わりに忘れちゃってんですね。
だからたまに、
「◯◯◯を聴くたびに君のことを思い出す」
とか言われて、ギョッとしたり。
そんなに人にCDを貸すもんじゃあ、ありませんね。
でも、借りた場合は憶えてる。
しつこくしつこく‥‥歌ってそんな機能があるのかな?
と思います。
だから「恋歌くちずさみ委員会」もあるんですよね。

(ひりこ)さんは
その、ドラマティックな返却シーンもあわせて、
貸した側で、憶えてた。
そんなキラキラした「親しみ」が
ずっとつづくのって、憎からず。
なんてさわやかなんだろう、と思います。

瞬間の、せつなの、きらめく緊張感。
たった3行で描ける、ほんの数秒の出来事。

 私は歩きだし、
 K君とすれ違うときに
 パッとCDを受け取りました。

でも、濃いんですよねぇ。
決意というか、覚悟というか、
その瞬間には「よし!」という思いが必要なわけで。
周囲にはクラスメイトがいて、
照れくさいし、からかわれるかもしれないし。
「でも、いま、行かなくちゃ! どう思われたっていい!」
この若い瞬発力に、もう‥‥
読んでいて、こちらまでドキドキ!
ときめいてしまうのです。

同窓会の出来事も、似ていますよね。
「明らかに変」と周囲から思われちゃう状況を
K君は「よし!」と決意して、
自分からつくったわけですから。

周りの友だちがあたたかなのも、いいなぁ。
驚きと好奇心で目をまん丸にしながらも、
「よかったねー」の気持ちがあるんですよね、きっと。

かわいくて、さわやかな投稿をありがとうございました。
自分のことを思い返してみれば、
心ときめく思い出のほとんどは
「瞬間」なのかもしれないと思いました。

今回は、このあたりで。
みなさまの投稿、こころよりお待ちしています。

 

2012-07-11-WED

最新のページへ
感想をおくる ツイートする ほぼ日ホームへ
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN