『雷が鳴る前に』
 槇原敬之

 
1992年(平成4年)
 (アルバム「君は僕の宝物」収録曲)

 おつきあいに全然慣れず、
 毎回「初期化」状態でした。
  (「いつも元気!」)
そっちも雨が降ってるの?
ホラまた今 空光った

学生の頃、初めて彼氏ができました。
想いを素直に伝えてくれるあの人と違って、
私は自分の気持ちを
あの人にうまく伝えきれませんでした。

週末に会っても、いつも夕方別れてから、
「今日はごめん」って電話をかけていました。
毎回。

その頃まだ携帯がなく、
どきどきしながらあの人の自宅にかけて、
代わってもらっていましたが、
その日はちょうど帰った頃、
私の自宅近くでは雨が降り出していました。
あの人が雨に降られなかったかどうか気になって、
電話を公衆電話からかけたこと、
今でも覚えています。

一緒にいるとどきどきして、恥ずかしくて、
顔もちゃんと見られない。
緊張でおなかが痛くなって、会いたいと思っても
会いたいと素直に言えなくて。
全然慣れなくて、会うたびにそんな感じで、
毎回「初期化」状態でした。

でもそんな状態を、
きちんとあの人に伝えることもできませんでした。
別れることになっても、
ただ「分かった」としか言えず。
その後どうしても会いたくて、
でも会えなくて、いないと分かっていても、
もしかしたらいるかもしれないと思ってしまい、
余計に苦しくなっていた時もありました。

1年前、全く別の人と結婚しましたが、
今でもあの人に似た後姿を見かけると、
どきっとしてしまいます。
あの人が使っていた電車を見かけると、
思い出してしまいます。
もしかして、と思ってしまいます。

もう会うことはないと思ってはいるのですが、
もしいつか会えたら、
その時こそは、学生の頃困らせていたことを
謝りたいです。
今、あの人がどうしているのか分かりませんが、
きっと元気にしていると信じています。

(「いつも元気!」)

この歌を聞くたび、いつも
リュックを背負ってスニーカーを履いた彼が
雨に降られている姿を思い浮かべてしまいます。
そんなふうな彼氏、自分にはいなかったのに(笑)。
すごく、ういういしくてかわいい歌詞ですよね。
雷に乗せるように、公衆電話から
自分の思いを告げる歌。

なんだかずっとその人に慣れずに
そのまま消えてしまうような、
「困らせただけだった」
という想い出、あります。
そういう恋も、なんだかいいですよねぇ、と思います。
でもけっこう
お互いさまだったような気もする。
向こうもこっちも、ずっと緊張して、
言いたいことが言えない。
あのときにしかできなかった恋なのか、
それとも結局、
自分の気持ちなんてずっと伝え切れていないのか、
それは不明です‥‥。

はじまったばかりの恋に、
どんどん鼓動がはやくなっていく感じ、
ちょっとしたことに願(がん)を掛けたり、
ずっと好きな人のことばかり考えている感じ、
「雷が鳴る前に」は名曲だと思います!

歌の主人公は
「これから想いを全部言う」って
決意しているわけだけれど、
ほんとに言えたかどうかは、また別。
(「いつも元気!」)さんが
とうとう言えなかったみたいに
この男の子も、言えなかったのかも。
人はきっと「言えばいいのに」って
かんたんにアドバイスしてくれたりするけど、
そういうものじゃ、ないですよね。
言わなくたって、うまくいくときもあるしね。

ところで「雷が鳴る前に」は
矢野顕子さんバージョンも、とってもいいですよ。
ぜひ聴いてみてくださいねー!

個人的なことを言うと、
ぼくはいつも「ふだん会う人」と
「ふだん会うこと」の延長、
あるいは加速として「好き」があったので、
この「会うとどうしていいかわからない」
というのが、じつはよくわからないのです。

でも、いただいた投稿の
「毎回『初期化』状態。」というのを読んで
ああ、そういう感じなのだなと
すごく腑に落ちる印象がありました。

そうかぁ、それは、わからないよなぁ。
いろいろ積み重ねていっても
毎回、根本のところにもどってしまうんだもの。

そういう、「困ったなぁ」という
かたちの「好き」もあるのですね。

わかります。ありました、そういうこと。
会うたびに何かがちぐはぐして、
何とかしようとがんばるんだけど
どうにもこうにも良い雰囲気ひとつつくれず‥‥。
帰宅して、大きなためいき。
たっぷりと反省会。
『あのときああすればよかった』
『なんであんなことを言っちゃったんだろう』
忘れませんよね、そういう想いって。
でも、そういう恋だったからこそ、
いいものだなと思えるようになりました。

それはそうと、「公衆電話」という単語は、
ものすごく強くぼくの琴線に触れてきます。
公衆電話‥‥それは、あまずっぱさの象徴です。
(「いつも元気!」)さんが、
彼を心配して電話ボックスの中にいる様子が、
勝手にありありとぼくの目に浮かびました。
十円玉を握りしめてね。
重たい受話器で耳が痛くなったりしてね。
もうすぐ切れますよを知らせる
「プー」という音さえもせつなくてね。

すみません、完全に話がそれました。

こんな具合で思いつくまま、
いただいた投稿の感想を書き合うわれわれですが、
これからもどうぞよろしくお願いします。
そしてよろしければ、あなたの恋の思い出も。
忘れられない一曲を添えてお送りください。

 

2012-08-11-SAT

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