『いとしのエリー』
 サザンオールスターズ

 
1979年(昭和54年)

 思わず故郷の
 関西弁が出てしまう程
 「あかんわー」でした。
(海)
俺にしてみりゃ これで最後のLady
エリー My love so sweet

高校生の時、告白されて
付き合いはじめた人がいました。

彼は私の中では「とても素敵で良い人」で、
好きかといわれたら好きだったし、
格好良くて
スポーツも学問も良くできる人だったから、
憧れてもいました。

そんな素敵な人に告白されて、浮かれていました。
彼に恋してる? と聞かれたら、
そのときは「恋している」と答えたと思います。

そんな時に、同じクラスの人と
カラオケに行くことになりました。
彼と私は同じクラスだったので一緒に参加。
今までどんな歌が好きかという話を
した事がなかったので、
彼はどんな歌を歌うのかなあ、という興味と、
趣味が一緒だったら良いなあという不安が半々で
カラオケに参加しました。

その彼が最初に歌ったのが、
サザンオールスターズの
「いとしのエリー」だったんです。

この歌のイントロが始まったとたん、
クラスメイトは
(皆私達がお付き合いを始めたのを知っていたので)
私に向かってにこにこしだして、
普段はシャイであまり感情を表す事のない彼は、
ちょっと顔を赤らめて、
でも私の方をまっすぐ見て、歌い始めたんです。

その瞬間,彼には本当に、本当に、本当に!
申し訳ないのだけれど、私の頭の中で
ぐるぐる廻ったのは
「あー、あかんわー、これはあかんわー」
という気持ちでした。
思わず故郷の関西弁が出てしまう程でした。

この海の熱い男系の曲は、
当時の私には重たく感じられて‥‥
私の彼に対する感情と、
彼の私に対する一生懸命な気持ちの温度差を
くっきりと突きつけられたようで、
ああもうごめん、駄目だ、と逃げ出したくなりました。

彼とのお付き合いを始めたのも、
後から考えてみたら「お付き合い」という事に
興味があったからだと思います。
今になって思えば、憧れと友情と恋の違いを
良く分かっていませんでした。

目の前には一生懸命に
「いとしのエリー」を歌っている彼、
周りには私と彼の始まったばかりのお付き合いを
ひやかしながらも応援しようとしてくれている
クラスメイト。

軽はずみにお付き合いを始めてしまった
自分への後悔と、
彼に対する申し訳ない気持ちと、
クラスメイトに対するいたたまれない気持ちとで、
彼が「いとしのエリー」を歌い終えるまでの数分間は
言葉では言い表せないくらい居心地が悪かったです。

いまだに、「いとしのエリー」は
最後まで聴く事ができません。
最初のイントロで、あのカラオケでの思い出が
がーーっと蘇ってきてしまうんです。
そして、ほんまにごめん、と
彼に謝りたい気持ちで今でもいっぱいになります。
(海)

投稿につづけて
(海)さんはこんなコメントを
書いてくださっていました。

「もちろん彼とのお付き合いは
 あっという間に終わってしまったのですが、
 その後大学で文字通り
 『恋に落ちる』経験をしてから
 彼が私に向けてくれていた気持ちの
 真剣さと切なさを理解して深く反省しました」

うん、うん。

男の人の、このまじめさ、
そして、周囲の善意のにこにこな見守り。
おそろしいひとコマです。
「安奈」の回にも書きましたが、
この手のものに、女子は弱いですね。
彼のためにも、そっと封印
しておきましょう。

で、この話をぐるっと逆にして
男子側からみると、
例の現象になるわけですよ。
すなわち、
「なんでフラれたかわからない」。

十代の恋において、
しばしば女子は突然に別れを切り出して
女子には、本能的なもの、なんとなく的なもの、
ぜんぶふくめて理由はしっかりあるんだけど、
男子からすると
「なんでフラれたかわからない」
になるんだよなあ。

彼女にとって、軽いトラウマになった
『いとしのエリー』は、
彼にとっては、「まだ問題なくつき合えてたころ」の
甘い思い出の曲なのかもしれませんね。

そう!
ぼくも、ぐるっと逆の立場のことを思いました。
それはきっと、自分が男だからでしょう。
それはきっと、
「なんでフラれたかわからない」
を自分も経験しているからでしょう。

全身全霊の、渾身の、
「いとしのエリー」。
これがまさか、
「あー、あかんわー、これはあかんわー」
と思われていたとは‥‥ねえ。

無理な話でしょうけれど、
この彼からの投稿が読みたいです。
それはきっと、
(海)さんのすこし冷静な文面とは違って、
女心のミステリーを描いた、
せつなくやるせない投稿になるのでしょう。

一句。

 カラオケで 想い込めすぎ 要注意

「あー、あかんわー、これはあかんわー」

‥‥そりゃそうだ! 派の武井です。
ていうか、男子、そういうこと、
しちゃうんだよねー。
恋のかけひきにおいては
女子に「一日之長」があってさ、
たぶん女子はうるんだ瞳でじっと見つめながら
「慟哭」とか「まちぶせ」は歌わないと思うな。

そしてこれは男女問わずだけど
「とても素敵で良いひと」に告白されたとき、
フリーだったらぽわわーんとなって、
「ハイ」って言っちゃいそうですよね。
でもつきあっていくうちに
「なんか、ちがうなー」ってなる。
そういうこともある!!!
ていうか、あった!
そして案の定ダメだった!
よのなかには、それを乗り越えて
じんわりした愛情をそだてながら
生活をともにしてゆく、という、
お見合い結婚の最良のパターン、
みたいな人生もあるわけだけれど。

ふと思い出したのが、弊社の仕事論です。
「依頼された案件は、
 それがこちらから依頼したい物件かどうか、
 ぜひお願いしたいことかどうかに置き換える」
というやつです。
探してみたら、この対談のなかで、
同じことを恋愛軸で語っている
ふたりがいましたよ。

ともあれ(海)さん、
そんなに強く気にしすぎなくっても、
男子はだいじょうぶだと思いますよ!
最後まで聴くことのできない曲、
それはほんとうにせつない恋歌の、
ある、ひとつのかたちだと思います。
(海)さん、ありがとうございました。

次回は水曜日更新です。よい週末を!

 

2012-09-08-SAT

最新のページへ
感想をおくる ツイートする ほぼ日ホームへ
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN