『CAN'T HELP FALLING IN LOVE』
 ELVIS PRESLEY

 
1961年(昭和36年)

 わざと素っ気ない
 ふりをしたけど
 素直に笑えばよかった。
 (プリシラ)
Take my hand,
take my whole life too

18歳で初めての彼氏ができました。
7つ年上の彼は「運命の人」だと思ってました。
でも、超未熟だった私は、
感じていたいろんな事を、
年下だからとバカにされるのが嫌で、
賢いフリをして精一杯大人ぶっていて、
ケンカも出来ない程、気持ちを抑えていました。
わざと、素っ気ない態度をとったりして。
(ありがち…)

そんな私でも彼はずっと好きでいてくれました。
10年間も。
何度も結婚しようって言ってくれたのに、
なぜか素直にうなずけなくて。
「君と結婚したら、僕はすごく幸せになれる」
それが、最高のプロポーズだとは
その時は気付かなくて。

彼もそのご両親も大好きだったのに、
私自身もいずれは結婚すると思ってたのに、
「結婚するか別れるか決めて」
と言われた時に、
口からするりと「別れる」って出たのが、
今でもわからない。

その後も微妙な友達関係は2年ほど続き、
その間も、彼がヴォーカルのライブを
観に行ってました。
その時、彼がエルヴィスよろしく、
唄いながら客席を回り、
「Take my hand, take my whole life too 」
と手を差し出して
女の子をひとり選ぶというコーナーで、
私に手を差し出してきた時の
少し汗ばんだ手と、
複雑な目の輝きが忘れられない。
突然の事で、対応に困った私は、
またそっけない態度でその手を握り返したけど、
もっと素直ににっこりしていれば良かった。
そして、彼の人生も受けとれば良かった。

それから半年程して彼から届いた手紙には、
恋人が出来て近々結婚するつもりだと書かれていて、
それは現実になった。
あんなに愛してくれていた人を
幸せに出来なかった事、
彼は忘れているだろうけど、
今も、ずっと胸の奥に刺さっています。

(プリシラ)

ワォ、エルヴィス!
この歌、ほんとうにかっこいい。
しびれちゃいます。
彼、この歌をバンドで唄ってたんですか。
しかもその、手を握るコーナー、すごいですね。
クラクラしますね。
Take my whole life tooって、
そら、惚れてまうわ!

でも、彼、ステキすぎたんですね。
7歳年上で、大人で、いい人で、
自分を好きでいてくれて。
その状況にどうしていいかわからなくなり
フリーズしてしまった若い心。
それもよくわかるなぁ。

彼にしたら「???」ということだったのでしょう。
別れてからも歌の中で思いを告げたり
最後まで
「恋人が出来て近々結婚するつもりだ」
と、ちゃんと言ってきたのですし。

こういった、女の人の
「自分でもよくわかんないまま終わる感じ」
(でもじつは胸の奥に刺さってる)
と、男の人の
「わー、この想いを持ったまま
 どうさまよえばいいんだろう」
という時間って、あるよなぁ‥‥。

「年下だからとバカにされるのが嫌で、
 賢いフリをして精一杯大人ぶっていて、
 ケンカも出来ない程、気持ちを抑えてい」た、
そんな7歳下の(プリシラ)さんのことが、
彼は好きだったわけだよねえ。
そこを、かわいいなあ、って思ってたんじゃないかなあ。
(プリシラ)さんがもし素直で反抗的でもなく、
彼の言葉やしぐさに素っ気ない態度はとらず、
いつもにっこりしていたら、
彼は恋に落ちなかったかもしれない。
御本人は「超未熟だった」って書かれてるけど、
若かったからではなく、未熟だったからでもなく、
そういう組み合わせとして、
彼は関係をつづけたかったんじゃないかなあ。
「そのままでいいんだよ」って
彼は(プリシラ)さんに
言いたかったのかもしれない。

彼も粘った。
つめたくされてもはっきり別れを告げられて
さらに2年後に彼が準備したライブの「その時」。
それが最後の賭けだったのかもねえ。
これで、受け入れてもらえなかったら、
さすがにもう、この子を追うのはやめようと、
そう思っていたのかもしれない。

(プリシラ)さん、
「彼は忘れているだろうけど」ってあったけど、
そんなことはないと思う。
ぜったいに忘れていないと思う。
もちろん「好き」なままで、
おぼえていると思います。

「あんなに愛してくれていた人を
 幸せに出来なかった」というのは、
またしても魔法のフレーズですね。
「愛した人を幸せにできなかった」のではなく
「愛してくれた人を幸せにできなかった」
という後悔‥‥いや、後悔という
はっきりしたものともちょっと違う、
「胸の奥に刺さってる感じ」。
きっと、幸せな結婚をした彼の胸の奥にも、
なにかが刺さったままなんじゃないでしょうか。

ところでエルビスのこの歌はほんとうにかっこいい。
常々ぼくは日本には
エルビスがいないなあ、と思ってます。
ロックンローラーも歌姫も
アイドルもカリスマもそれなりにいて、
欧米のスターを日本のそれに
多少無理にでもあてはめると誰かいるのに、
エルビスだけは、なくなった坂本九さんとか
尾崎紀世彦さんあたりから、
ぱたっと誰にも受け継がれていないような。

ちなみにハンドルネームの「プリシラ」は
エルビスの奥さんの名前ですね。

「いろいろあったけど、今はおだやかに暮らしています」
恋歌くちずさみ委員会には、
そんな一文で締めくくられる投稿が
わりと数多く届けられます。
その意味でいうと、
「今も、ずっと胸の奥に刺さっています。」
で終わる(プリシラ)さんの投稿は、
すこしばかりめずらしいケースなのかもしれません。
でも、
それを「後悔」と言ってしまうのは、悲しい。
後悔することはつまり、
あのキラキラしたステージや
彼の一所懸命なプロポーズまでを、
まるごと否定してしまうことになるから。
深く刺さる辛さはあるけれど、
それでも、
彼とのことは、
やっぱり大事な思い出なのではないでしょうか。

そしてそう、
彼は決して忘れていないと、ぼくも思います。
12年も好きでい続けたのですから。
すごいです。すてきな男性です。

プレスリーまで登場して、
ますますこの場所の幅が広がってきました。
あなたにとって忘れられない一曲であれば、
それが「恋歌」。
思い出を添えてお送りください。

 

2012-10-06-SAT

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