『遥かなる影』
 The Carpenters

 
1970年(昭和45年)

なんだろう、これ。
いままでの恋とは
なんだかちがいます。
       (なのはな)

Just like me
They long to be
Close to you

サークルの先輩である彼は、お料理が得意で、
着ている服はいつもすこし変わっていて、
ちょっと独特の雰囲気をもっています。
サークルの後みんなでご飯を食べに行くと
たまたまおなじテーブルにつくことが多くて、
わたしたちはよく話すようになりました。
話していくと、彼はとてもまじめで、
でもどこか人をほっとさせるような
あたたかさを持った人だとわかりました。
わたしが入部したのはすこしおそい
5月中旬だったのですが、
ほかのみんなが彼のことを信頼していて、
サークルの中で大切な存在だということも、
新入りのわたしにもだんだんとわかるようになりました。

ある日の帰り道、わたしたちはならんで歩いていました。
話しているときに自転車のハンドルを握る
彼の右手をみて突然、
にぎりたい、と思いました。
ふっと会話が途切れました。
黙っていてもわたしはなぜかうれしくて、
きもちはあったかくて。
なんだろう、これ。
そう思っているうちに彼はほかの女の子に話しかけられて、
その子のとなりに行きました。

もしかして恋ではないのかもしれない。
だって彼は魅力的です。
わたしは彼にあこがれているだけなのかもしれないし、
ほかの人と同じように
親愛の情をもっているだけなのかもしれない。
いままでのわたしは、好きな人がほかの子と話していると
ふてくされていたのに、
そんな気持ちもぜんぜん起こらない。
彼はやさしくしてくれるけれども、
わたしのことを恋愛対象としてではなく、
後輩として見ているだけだということはわかります。
この関係がなかなか恋愛に
発展することもないだろうということも。
でも悲しくならないし、
せつなくて胸がきゅっとなることも、ない。
ただこの曲のように、彼のことをすてきだな、
みんなも彼が大好きなんだな、と
素直に思うのです。

なんだろう、これ。
いままでの恋とはなんだかちがいます。
でも、できれば彼が
わたしをすきになってくれたらいいなあと思います。
だからわたしはわたしで、少しずつでも
彼にふさわしい女の子になれればと
思いながら生活しています。
頑張ってるわけでは、ないんですけどね。
そんないまの生活が、わたしは好きです。

(なのはな)

手を握りたくなって、
黙っていてもうれしくて、
でも悲しくならないし、
胸がきゅっとなることもない。

なんとも、不思議で素敵な体験。
そして、この関係は、おそらく現在進行形。

恋なのか、恋ではないのか曖昧な、
恋のイントロダクションのような時期。
それはとてもふわふわとして
気持ちのよいものだと思うのですが、
のちに、本格的に恋に落ちたり
(場合によってはお別れしたり)すると、
その曖昧なふわふわした時期の思い出は
忘れられてしまうのですね。

寝ている人は、かならず夢を見ている、
っていう話、聞いたことがあります?
「自分は夢を見ないんだ」っていう人は、
起きるときに忘れちゃってるだけなんですって。

恋の入口のふわふわした気持ちは
それにちょっと似ているような気がします。

(なのはな)さんはいま、
とてもここちよい時期にいるのですね。
ふわふわと、きもちがたゆたうように。
好きなことはたしかだけれど、恋と呼べるかはわからない。
なんとも名付けようのないふしぎな期間。
いいですねぇ。
一生に何度もあることではないだけに。
というか、そんな経験できる人がすくないかも。

カーペンターズの『遥かなる影』、
その訳詞をいま、はじめてじっくりと読みました。
そういう歌だったんだ‥‥。
いや、ほんとに投稿内容にぴったりでした。
美しい歌詞だなぁ‥‥。
そういう魅力の男性って、たまーにいるんでしょうねぇ。
すごく特殊な引力だと思いました。

私事ですが、はじめての洋楽コンサートはカーペンターズす。
(前にも書いたかも?)
1976年の宮城県スポーツセンター。
『遥かなる影』はそのとき生で聴いたし、
何度その曲のレコードに針を落としたかわかりません。
なのに、いまごろその歌詞の意味を知るとは‥‥。
ありがとうございます、(なのはな)さん。
ふわふわときれいできもちいい曲だなぁと思っていたんです。
ほんとにこんなに、ふわふわな内容だったんですね。
ああ‥‥カーペンターズをまとめ聴きしたい。

「Close to you」は好きな曲だなぁ。
歌詞がきれいなんですもの。
こんなふうに相手のことを
まぶしく思うなんて、すばらしい恋だなぁ、
なんて思っていましたよ。

そして、いただいた投稿も
すごくきれいな文章です。
自転車を押して帰る夜の道。
いいなぁいいなぁ。
がんばってるわけではなく、
ふさわしくなれればいいなと思ってる。
うん、いいな。

大好きな人とは、べつに
恋愛関係にならなくてもいいや、という気分も
ありますよね。
そして、恋心をいだいていたことも忘れて
彼氏ができたらもうすっかり
そちらに夢中になったりしてね。

友情は長くつづきます。
そういうつきあいも、
いいものだと思います。

ぽわわわわ〜〜んとした気持ちのまま、
さいごまで読みました。
いいな、いいな。こういうのもいいな。
恋はまるでフリーフォールみたいだった自分には
まったくなかった(好かれるほうも、好きになるほうも)
感じだから、なんだかちょっとうらやましいです。
(なのはな)さんはきっと、
いま、どんどんきれいに、
かわいらしくなってるんじゃないかな。
こんな文章を書くのだもの、きっとそうだと思う。

手を見て好きになるというのもいいな。
むかし編集者の先輩の女性が
高校生の時、階段を上る彼が
手すりをつかむ手に惚れちゃったと話してたのを
思い出しました。

ところですごいな山下さん、
カーペンターズ生で聞いたことがあるんだ!
世代の違いを感じちゃうなあ。
ということで次回の恋歌くちずさみ委員会は
土曜日の更新です!
もうすぐ出るCDと本の情報は
「恋歌くちずさみの広場」をどうぞ!

2012-10-24-WED

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