『はなれ ばなれ』
 クラムボン

 
1999年(平成11年)

そのとき、
すっと背中が冷たくなって、
彼への思いが冷めたのが
わかりました。
       (ケンパ)

高いところへのぼろう
とびっきり 高い高いところへ
そうすれば ふたりのこれからも
みえるかもしれないね

大学に入った年、
同級生の男の子と初めての恋愛をしました。
お互い、初めての彼氏彼女で、
ドキドキしながらゆっくりと距離を縮めて、
気がついたらとっぷりと2人だけの世界。
2日会えないだけで、酸欠になりそうで、
一週間会えないなんて頭がどうかなりそうなほど、
夢中でした。

しかし、彼には夢があって、そのために大学1年の終わりに
もう一度他大学を受験し、見事合格。
知らせを受け、一応「おめでとう」と言ったものの、
大好きな人が遠くへ行ってしまうなんて
辛すぎて人生で一番泣きました。
ティッシュ1箱分くらい涙と鼻水を拭いたんじゃないかな。
そしてその翌日、彼と2人でまた抱き合って号泣した後、
遠距離恋愛を頑張ろうと誓い合いました。

遠距離恋愛が始まり、月に2回、
新幹線に2時間半乗って会いに行っていましたが、
幼い者同士の恋愛には、徐々にズレが生じてきます。

あるとき、
「大学卒業後、彼のいる街で就職するとして、
 それまで2年半で交通費はいくらかかるか」
を計算してみました。
100万円ちょっとだったと思います。
そのとき、すっと背中が冷たくなって、
彼への思いが冷めたのがわかりました。

いかんせん、初めての彼氏だったので
「気持ちが冷める」経験も初めて。
自分で自分にびっくり、
というか「お金で!?」とドン引き。

「そんなはずはない」「私は彼が好きなはず」
ともやもやしていたとき、コンポから流れたのがこの曲。

恋愛の歌詞に共感したのも、これが初体験でした。
何回も何十回も聞いていたのに、
恋愛ソングだとすら、気づいていなかったんですね。

結局、その数か月後、私が近くの別の人にふらついて、
初めての恋は終わりましたが、
「好き」の絶対値で、
あの熱病のようだった恋を超えることはないので、
ときどき思い出しては青春を噛みしめています。
(ケンパ)

あらためてすごいなぁ、
ふしぎだなぁ、
(失礼ですが)おもしろいなぁ、
と思うのは、またしてもこれが事実であることです。
お金が理由で気持ちが冷めた。
あんなに好きだったはずなのに、
事実として、そうなった。
それはきっと仕方ないことだったのでしょう。
(ケンパ)さんの動物的な感覚が、
「2年半で交通費100万円」に反応した。
熱病のように夢中になった恋だったからこそ、
その部分に強く反応したのだと思います。
「この人と生きたい」「生活したい」と真剣に願うとき、
「お金」はとても重要な条件になりますから。

クラムボン、すばらしいです。
唯一無二。
ぼくも、何回も何十回も聴いている曲です。

すごいなー。そのきっかけ!
ほんと、冷めるきっかけって
どこからやって来るかわからない。
恋がやってくるのと同じで、あまりに唐突で
びっくりしちゃいますよね。

計算しなければ大丈夫だったのか、
計算してもずっと小額だったら大丈夫だったのか、
あるいは学生ながらにお金があって
さほど懐が痛まない額だったら平気だったのか‥‥
なんて考えてもしかたないんですけど。
もしかして
「いつか冷めることになっていたその恋の、
 たまたま、それがきっかけだった」
だけなのかもしれないですしね。

ぼくもあります。一気に冷めたこと。
それは相手の「間違いメール」で発覚。
あるとき、オレ宛てじゃないじゃーん、
というラブラブメールを着信。
相手の名前からして違ってた。
「武井君のことを考えると夜も眠れません」
のはずが
「山下君のことを考えると夜も眠れません」
みたいになってた!
がびーん!!
ほんと、(ケンパ)さんと同じで、
あんなに好きだったはずなのに、
すこーんと、一気に冷めました。
そうめんを氷で冷やすより早かった。急速冷却。
あ、こういうふうに冷めるんだ?
と、これまた冷静に思ったのを覚えてます。
恋の蓄熱性は低いんですね。
いっしょけんめい燃料くべないと、持たない。
愛に変わればかなり持つと思うんだけどね。
風邪の発熱もそんなふうに冷めるといいのにね。

「あの熱病のようだった恋を超えることはない」

‥‥これもわかる!
でも、次がやってきたら
それはそれで面倒という気が、
46にもなると思っちゃいます。来ないでくれ。

「交通費100万円」問題。
メールを回し読んでいるときに、
メンバーのあいだでも話題になりました。

そういう、未来のお金の勘定としては、
「子どもを大学卒業まで育てる場合、
 ひとりあたり、これくらいかかる」
みたいなことが言われますよね。
でも、それで、子どもを育てることが
冷めたり薄まったり
気持ちが離れたりするかというと、
それはちょっと違うと思うんですよね。

それはそれ、というふうに、
事実だとしても、違う次元で受け止められる。
たいへんだなぁ、とは思うけど、
スッと引いたりはしないと思うんです。

たぶん、書かれているように、
気持ちのズレのほうが先にあって、
「交通費」はそれを裏づけるような
ことだったんじゃないでしょうか。

クラムボンぼくもよく聴きます。
もってるぜんぶの曲を
フルでシャッフルして聴いてるときに、
ひょいっとクラムボンの曲が出てくると
うれしいですよね。

計算したらあかん!
あかんてー!

結婚したらふたりの親の
面倒を見なくてはいけない、
子どもができたら仕事はどうするの、
こういう職業についたらこういうところがつらい、
あなたの老後はこれだけお金が要ります、
理系を選択したら台数でつまずく、
こんなことで将来どうするの、
海に近づくな山に近づくな、
考えたらなにもできなくなります‥‥でも。
やっちゃうんですよねぇ。
ひぇい、100万!
リアルに引く‥‥。
ダメダメ、ぶるぶるぶるぶる‥‥。

人生だましだまし、
少しずつローンで払っていかないと
毎日のたのしみや希望を
見失ってしまいますね。
それでも、深刻で大きな問題を怖がらず
前に置いていっぽいっぽ、やっていきます。
だめになるときはだめになる。
やる気があれば別の方向でなんとかなる。
しかし‥‥じっさい、100万と言われたら
しゅるるるる〜ってなるなぁ。

遠距離恋愛で、すでにズレが
生じていたんですものね。しかたない。
恋はいろんなものを見せてくれます。

来週の水曜に、また、恋歌を。
次はどんな恋なのでしょうか。
みなさまの投稿、こころよりお待ちしています!

2012-10-27-SAT

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