『秋の気配』
 オフコース

 
1977年(昭和52年)

好きで好きで
とっても一緒にいたかったけれど
(夏の終わり)

あの歌だけは 他の誰にも
歌わないでね ただそれだけ
ニューヨークの夏のなかば、
メープルの木のてっぺんが
ほんの少し紅葉してくる頃、
毎年決まってこの歌と、
初めて付き合った人を思い出します。

彼と私は同じ学校の留学生。
彼が、初めて実った恋。
学校の寮に住む私と、アパートに住む彼。
週末の度に通っては、
窓から見える夕焼けを背に彼の弾くギターと、
歌を聴くのが何より好きでした。

やがて私はアメリカ人の友達と勉強に追われ、
彼は行き詰まりアメリカでの生活に
疲れきっていきました。
4年を2年の短大の資格に切り替え、
夏のクラスを最後に私たちの恋愛も遠距離に。

それから2年間、私は年に2回東京に帰り、
地方に住む彼と会おうと努力しました。
でも彼は、毎回、
「今は忙しい、次に帰ってきたときに会おう、
 いつか東京に出るから」と言うだけで、
2年間の遠距離で会えたのは1回だけ、
電話も滅多にしませんでした。

私はこんなに好きで、会いたくてたまらないのに、
彼は私そんなに好きじゃないんだろうかという不安と、
私のことを好きでいてくれる
アメリカ人の友人との間に挟まれ、
とうとう2年後の夏の終わり、
今回会えなければ別れを告げようと決心。

電話した彼の返事はやっぱり
「いつか東京に出るから」でした。
好きで好きでとっても一緒にいたかったけれど、
私から別れを告げました。
別れるのはいやだ、
と言ってくれる淡い期待もありました。
でも彼は、「寂しくなるな」と言っただけ。

彼の愛情を信じられなくなった私は、
身を切る思いで電話を切り、
たくさんたくさん泣きました。

14年の時がたち、つい最近facebookで彼と再会。
彼は約束通り東京に出て、夢を叶えていました。
私はニューヨークで結婚し、家庭を持っていました。

あの時信じて待っていたら。
別の人生が頭をよぎりました。
でもそれは後悔や彼とよりを戻したいのではなく、
昔の恋を懐かしむ、
淡く切ない気持ちからくるものでした。

この部分を聴くたびに、
綺麗な夕焼けをバックにギターを弾く彼と、
あの歌が浮かんでくるのです。

かれがほかの誰かに
あの歌をうたっていてもいなくても、
それはもうどうでもいいことなのだけれど。

(夏の終わり)

ふーーー。
読んでいて、こちらまで切なさが
伝わってくるような投稿でした。
もう、14年も前の話だというのに、
このひりひりするような感覚はなんでしょう。

「昔の恋を懐かしむ、
 淡く切ない気持ち」でいるとはいえ、
そのときのモードに入るとき、
ぜんぶの感覚がよみがえってくるのでしょうね。

このときのオフコースはふたり組。
「こんなことは 今までなかった
 僕があなたから 離れてゆく」という
例の、魔法のようなフレーズが
とても印象的な曲です。

メールに追伸として書かれた一文によれば、
投稿中にある「あの歌」というのは
ここで恋歌として挙げられている
『秋の気配』ではなく、
別の曲なのだそうですが、
彼とfacebookで再会したその日に、
この「恋歌くちずさみ委員会」で
その曲が取りあげられていたそうです。

facebookで彼と再会ということは、
もうすっかり珍しい事件ではなくなっているのですね。
「なんとfacebookで彼と再会!」
ではなく、さらっとそのことが書かれているのも
ちょっと印象的な投稿でした。
果たして、あなたのfacebookの「友達」の中にも、
むかしの恋人がいたりするのでしょうか?

さておき、
歌詞のようにきれいな投稿をありがとうございました。
とくに、はじまりの5行と終わりの3行。
うつくしい情景と余韻。
淡く切ない、彼のギターが聞こえてくるような‥‥。

このコンテンツをはじめてから、
ギターを弾きたくなる機会があきらかに増えています。
弾けないギターがどんどん弾きたくなっています。
家に安物のフォークギターがあるんですが、
それをしょっちゅう手にとるようになりました。
ああ‥‥もっと上手に弾けたなら‥‥
思いのすべてを歌にして
きみに伝えることだろう‥‥というのはまた別の恋歌。

ニューヨークに住んだこともなければ
ニューヨークの秋も知らないけれど、
秋が、ほんとうに美しいのだと、
ながく住んでいた同僚に聞きました。
きっときれいなんだろうなあ。
そんなイメージのなかで
ふたりの恋のものがたりが
とても純化されたものとして
まるで良質なラブストーリーを読むみたいに
すうっとしみこんできました。

歩く速度が違うって、
こういうことなのでしょうね。
早足なものは待つしかなく、
のんびり歩くものは、
大事な人を待たせてしまう。
とりかえしがつかなくなっても、
それにきづかずに。

余談ですが、ニューヨークを舞台にした
恋の映画のなかで、ぼくが好きなのは
香港映画の『秋天的童話』
(邦題:誰かがあなたを愛してる)です。
機会があったらぜひ!

オフコースの歌で個人的に印象深いのは、
自分が相手から離れていく局面が
歌詞になっていることなんです。

「ふられる」とは、少し違う。
どちらかというと「あきらめる」なのかな?
がんばってもだめだから
離れていくよ、という心境。

ペースが合わなかったり
おたがいの時期がずれたりすることは
たくさんあると思います。
あのとき、もう少し待ってたらどうだったろう、
と思うことはあったとしても、
待てなかったし、
それ以上がんばれなかったんですもん、
結局その人とは「なかった」んでしょうね。

思い出が深く、共有していた時間が長いほど、
別れの局面のことは、信じられないものです。
「これ、夢のなかかな?」
「こういうことで人は別れていくのか」
なんて、人ごとみたいに思ったりして。

ニューヨークの秋の気配、
ふたりに流れた特別な時間。
うつくしい景色を深呼吸みたいに味わいました。
ありがとうございました。

そろそろクリスマスですねー。
みなさまの恋歌、投稿をお待ちしています。

2012-12-05-WED

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