『人生は上々だ』
 ユニコーン

 
1989年(平成元年)
 *アルバム『服部』収録

ほんとに歌みたいに老後まで
一緒でいれたら、
なんて本気で思ってた
(ヒナギク)

二人でそろって面接して同期入社
デスク並べて お仕事

東北の片田舎でのお話です。

高校1年生の時、
同じクラスのラグビー部の男の子を大好きになりました。
好きがこじれてとにかくかまってほしくて
つきまとってたら、
ついには嫌われて無視されるようになってしまいました。
彼は人気者だったので
無視はなんとなくクラス中に広まり、
孤独な日々を余儀なくされましたが
「彼が悪いんじゃない。
 きっと嫌われた自分が悪いのだ」
と思い込んでいました。

高校3年生になって、彼はラグビー部の主将になり、
成績もよかったのであっという間に推薦入学で
上京することが決まりました。
片や私は成績が悪くて大学を現役で入ることは諦め、
でも上京することだけは決めていました。
周りは受験戦争真っ只中。
誰も遊んでくれなくなった彼は、
なぜか2年半もの無視をとりやめ
「いっしょに帰ろう」と声をかけてくれたのでした。
もうこの時の感激たるや。
こじれてこじれて神様のように思っていた彼から
お許しが出た事で、
「あぁ! 成長できてよかった!
 彼を好きになってよかった!」
と本気で思いました。

上京して、彼は大学生・私は1年遅れて
別の大学に入ったのでしたが、
地元の友達が少なかったせいか、
ずっと一緒に遊んでいました。
同じサークルに入り、四六時中部屋に入りびたり、
よく一緒のベットで寝たりしていました。

やがて彼は競馬と麻雀で多額の借金をこさえ、
それが元で就職活動に大失敗しました。
かたや私は大学を途中で辞めたものの、
元来根が真面目だったためか
3つのアルバイト先全てから
「ぜひ正社員に」と声がかかるほどになっていました。

ある日、彼は私に
「俺のことも会社に紹介してほしい。
 ひとつぐらい譲ってほしい」と懇願し、
ソファーベットの上でぎゅっと強く抱いてくれました。
結果、二人で揃って面接した彼と私は
同じ会社に同期入社し、
デスクを並べて仕事をするようになりました。
しかも、なんと会社の勧めで
寮に同居することになりました。

一緒に生活をするようになって、
彼の金銭面のだらしなさを思い知り、
そもそも自分には全く気持ちが無いことも
今更はっきり分かり、
だんだん気持ちが離れていきました。
しかも会社が入社5年で倒産し、
それっきりで離ればなれになり、
今ではもうどこで何をしているのか
さっぱりわかりません。

彼の前で一度だけユニコーンの「人生は上々だ」を
カラオケで歌ったことがあります。
「俺らみたいだね。でも気持ち悪い」と言われて、
笑う彼と一緒に笑えなかった。
ほんとに歌みたいに老後まで一緒でいれたら、
なんて本気で思ってたから、笑えませんでした。

お気づきかと思いますが、高校は男子校でした。
キスすらしなかった、12年に及ぶ長い初恋でした。

(ヒナギク)

いやはやまいりました。
ユニコーンの「人生は上々だ」に
ぴったりの恋の話があるとは、
まさか思いもよらなんだ。
このトボケたジャケットにも
救われるような気が抜けるような。

たまたま隣どうしに居合わせたふたつの人生が、
けっしてまじわることなく、
ひとつはタフで明るい方向に、
ひとつは意外な脆さで、闇に向かって進んでいく。
喜劇なんだか悲劇なんだかわからない、
その、ないまぜになった感じ、
(ヒナギク)さんの、やけにクールな筆致で
堪能させていただきました。
ふはぁー(ため息)。
いま、その彼も、
どこかの空の下でたくましく生きてるといいですね。
また会いた‥‥くは、ないかもしれないけど。

ヒナギクさん、大島弓子さんの漫画、
『パスカルの群れ』はお読みですか。
もし未読であれば、ぜひ。

ユニコーンの「人生は上々だ」。
この曲が持つ意味はわかっているつもりでしたので、
投稿の最初の数行で
おふたりの性別については推測ができました。
「デスクを並べて仕事をするようになりました。」
って、すごいなぁ。
ほんとに歌詞と同じ。

「好きな人からいっしょに帰ろうと言われる」とか、
「競馬と麻雀で多額の借金をこさえる」とか、
「ぜひ正社員にと言われる」とか、
「会社が入社5年で倒産する」とか、
もう、なんていうんでしょう、
事実から事実へととびうつる部分を読むたんびに
ちょっとクラッとするんです。
まるで「人生ゲーム」をしているような気分。
3コマ進んだら、
「ギャンブルで大損、5000$支払う」みたいな。
もちろん現実の場合、
コマからコマに移動するあいだには
様々な出来事があるのでしょうけれど
そのあたりを省略して語ってくださる投稿には、
いつだって圧倒される迫力があります。
ほんとうに起きちゃうことって、
ボードゲームくらいの
理不尽や唐突さがあるのかもしれませんね。
‥‥や、それ以上なのかも。
何度も書いてますけれど、事実ってすごい。

「そもそも自分には全く気持ちが無いことも
 今更はっきり分かり」
のあたりで、すごく男らしい人だなぁと思い、
わかるわかる、と読み進めたのですが、
最後の2行を読んでから
もういちど最初に戻って読みました。

ふしぎな無視から一転の「いっしょに帰ろう」。
会社の勧めで寮ぐらし。
ソファーベッドで「紹介してくれ」と懇願した彼。
12年間思い続けた一方と
自分のことできっといっぱいいっぱいだった他方。
恋の味わいとそれぞれの人生の歩みが
波のようにすばらしくあふれる投稿でした。

12年間、ふたりとも変わった変わった。
でも根っこはあんがい同じだったのかもしれない。
人生はどこでどうなるかわからないけど、
私も笑いたほどいつらいこともありますけども、
まぁ、うん、上々です。

いやぁ、こんなおもしろい話さぁ、
こういうおかしなコーナーがなければ
絶対に知りようがなかったですよね。
送ってくださって、というか、
読ませてくださって、ありがとうございます、
という気持ちです。

全体的にかいつまんで語られている
ふたりの日々の描写のなかで、
「ソファーベッド」というディテールが目を引き、
それが特別な思い出なのだろうなあと感じました。

うーん、このコーナー、ほんと、
どこかがドラマ化しないかなぁ。
絶対、おもしろいと思うんだよなぁ。
だって、実話なんだもん。歌もついてるし。

非凡な恋の思い出、
あるいは平凡な恋の思い出、
そして、ただの感想などなど、
お待ちしています。

2012-12-12-WED

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