『P.S. I LOVE YOU』
 THE BEATLES

 
1962年(昭和37年)
 シングル「LOVE ME DO」B面収録曲

本当にささやかな、
短い無言の10文字。
 (みみききぽんた)

♪P.S. I LOVE YOU‥‥

中学の卒業アルバム。
表紙の裏の白い見開きのページに、
友達同士でメッセージを書き合いました。

「元気でね☆」とか、「高校でもよろしく!」とか、
そんなにたくさんじゃないけど
部活やクラスの友達からのメッセージ。

その中に、そんなに仲良くもなかった、
クラスが一緒だった
男子からのメッセージが残っていて、
それが「P.S. I LOVE YOU」でした。

卒業式のあと、
よそのクラスの友達にメッセージを書いてもらい、
だいぶ人の減った教室に戻ってきたら
男子が何人か残ってました。
その中に同じ陸上部だった男子のクラスメートがいて、
「俺たちも書いてやるよー」とか言われ、
お互いに割とどうでもいいメッセージ
(「だあー」とか)をふざけあって書いたとき、
その子も一緒にいたのです。

そのときどういう反応を返したのか、
周りの反応はどうだったのか、
意外とさらっと流したような気がするのですが
覚えてません。

勉強もスポーツもそこそこの、
悪い印象はない、でも強烈な思い出もない、
そういう本当に普通のクラスメート。
たぶん、よそのクラスに
付き合っている彼女もいたはず。

なんだったのかなあ。
ただの冗談なのか、
たまたま気取ったことをしたかっただけなのか、
ふざけて誰にでもそれを書いていたのか、
それとも15歳なんて多感な時期に、
何も思ってなかったらあんなこと書かないのか、
でも別に自分が彼に密かに好かれていたという気は
まるでしないし。

当時私はショートカットで口の悪い、
ボーイッシュな女子だったので
余計にわけが分かりませんでした。

でも、もしかしたら、私を好きな男子がいたのかも、
というささやかなうぬぼれが、その後の私をほんの少し
勇気づけてくれたのは間違いありません。

そのNくんとは高校も別々で、
通学の電車でも会うこともなく、
本当に一度も顔を合わせることがないまま、
大学生のときに事故で亡くなったという
連絡をもらいました。

私は地方の大学に行っていて、
お葬式にも参列しませんでした。

本当にささやかな、短い無言の10文字。

Nくんが亡くなって15年以上もたつのに、
この曲を聴いてふとこのことを思い出すと、
卒業式のあとの教室に残っていた彼らの姿や、
卒業アルバムに残っているあの文字の形、
Nくんが本当はどういう気持ちだったのか、
それに事故のときには
びっくりして痛かっただろうな、と、
まとまりのない想像が思い巡ります。

そのことを、世界中の誰も、
たぶん死んでしまったNくん自身も
知らないということが、
なんだかとても不思議な気分になるのです。

私も、私自身も知らないところで、
予想もつかない誰かが
思い出してくれることがあるのかなあと。

恋歌なのかそうじゃないのか、
もう知るすべはありませんが、
恋はしてなかったけど
私には恋歌の一種なのかなあと思います。

(みみききぽんた)

残っているその10文字は
ずっとそこに置かれたまま。
そこが入口となって
ふわっと広がる世界があることがすばらしいです。

N君、どうだったんでしょうね。
卒業アルバムにそんなことを書いたのも、
忘れちゃってたかなぁ???

でもね、たぶん好きだったんじゃないかな。
と思います。
なんでだろ?
そんな気が、するんですよねぇ。

彼が記したことばが
ビートルズの歌のことだったかどうかも
わからないですが、
それが(みみききぽんた)さんの
しずかな恋歌になっているというところが
とってもいいなぁ、と思いました。

はかないけれど、うそや夢ではない、
おぼろだけれど、ないわけではない、
そんな、特別な臼布で幾重にも
くるまれたような思い出ですね。

最初読んだときは、
素敵な思い出だとは思いましたけど、
卒業アルバムに書かれた「P.S. I LOVE YOU」には、
それほど込められた意味はないのかなと思いました。
中学生男子って、覚えたフレーズを
意味よりも「使いたくて」使いますし。

けど、何度か読み返しているうちに
「同じ陸上部だったクラスメート」
というフレーズがふと目にとまり、
どういうわけか、ぼくの頭のなかに、
放課後のグラウンドのイメージがひゅっと現れて、
「こりゃぁ、意味がないわけないよ」と思えました。

裏づけなんて、もちろんありません。
しかし、
「もしかしたら、
 私を好きな男子がいたのかも、
 というささやかなうぬぼれが、
 その後の私をほんの少し
 勇気づけてくれた」ように、
なんだか、このイメージに
勝手な自信だけはあるのです。

そういう、
「かたちはないけど
 どういうわけか信じられるもの」って、
私たちの毎日をしっかりと支えてますよね。

そりゃもちろん、ほんとに好きだったんだと思う。
「ショートカットで口の悪い、
 ボーイッシュな女子」を、
きっと彼はとっても気にしていたんだと思う。
そして、とってもセンスのいい伝えかただと思う。
「たぶん、よそのクラスに
 付き合っている彼女もいた」彼は、
(みみききぽんた)さんが、まさしく、
この投稿に書いているような気持ちになることを
ちゃんとわかっていて、
その10文字を書いたんだと思う。
もっと言うと、その10文字が
(みみききぽんた)さんを勇気づけるということまで
わかっていたのかもしれないです。
「そうあってほしい」というぼくの気持ちを乗せて、
そんなふうに思いました。

ところで「P.S. I LOVE YOU」って
「LOVE ME DO」のカップリングだったんだ!
ビートルズのデビューシングルですよね。
ぼくは大学に入ってからビートルズを
後追いで聞いたクチで、
「Rubber Soul」以降の楽曲にはまったもんだから、
初期ビートルズのことよくわからずにいまに至ります。
ボックスセットあるからちゃんと聞き直してみよう。

卒業式の後の、教室や校庭の景色は、
なぜか客観的な視点でぼくのなかにも残っています。
俯瞰なんです。
まるで映画のワンシーンみたいに。
いや、そんなに感動的でもなく
びっくりするような事件(告白とか)が
あったわけでもないのですけれど。
ただ友だちと笑い合っていた、
いつまでも終わらせたくない、あの淡い時間。
みなさんの記憶にもあるのではないでしょうか。

そのとき、(みみききぽんた)さんの場合は、
意外な男の子から
「P.S. I LOVE YOU」というメッセージを受け取った‥‥。
‥‥それは、うん、そうですね。
ふざけながらでもやっぱり、
そのフレーズ通りの意味が込めていたのではないかと
ぼくも確証のないままに思います。

でも真実は、どちらでもいいのかもしれません。
曖昧なこともひっくるめて、ふわりと淡い、彼の思い出。
りっぱな(というのも変ですが)、恋歌だと思います。

「自分が好かれている‥‥?」
このことを生まれて初めて知ったときの感覚を
いまでもはっきりと覚えています。
それは、(みみききぽんた)さんの投稿にある、
「ささやかなうぬぼれが、
 その後の私をほんの少し
 勇気づけてくれたのは間違いありません。」
という感覚とすごく近い所にあると思いました。

うぬぼれていたり、調子に乗っていたり、
ほどよくそういう状態にある人が好きです。
あかるいから。

春にふさわしい投稿、ありがとうございました。
次は水曜日の更新です。
まだまだたっぷり、紹介したい投稿が‥‥。
おたのしみに!

2013-04-06-SAT

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