『夜空ノムコウ』
 SMAP

 
1998年(平成10年)

わたしは未来のことなんて
考えたくなかった。
 (ユズテル)

夜空の向こうには
明日がもう待っている

中学2年生の時、とっても仲の良い男の子がいました。
わたしは自分に自信がなくて、
友達としてじゃなく特別に見てほしいと
願うことすら悪いことに思えて、
必死に恋心を拒否していました。
彼のことばかり考えては思い出し笑いを噛み殺し、
ふと我に返っては、好きじゃない、好きじゃない、
好きじゃない‥‥と慌てて唱えていた
坂道ばかりの通学路。
二人で示し合わせて立候補した新聞委員、
夕陽の差す委員会室に二人きりで黒板に落書きしたこと。
わたしの背の届かないところを楽々消した
彼の背の高さに、心臓が口から飛び出るかと思うほど
ドキドキしたこと。今でもふと、鮮明に思い出します。

冬。
進路、という言葉が、学年にじわじわと染みてきました。
わたしは未来のことなんて考えたくなかった。
今の楽しいこの瞬間を永遠に繰り返していきたかった。
そんな中、街で流れ始めたのが夜空ノムコウでした。
夜空の向こうにはもう明日が待っている。
望んでもいないのに明日が来る。
わたしの密やかでささやかな夜が明けてしまう。
恋も未来も、どんなに拒否しても襲ってくるんだ‥‥。
毛布を被って膝を抱えた深夜、
ラジオから流れるこの曲を聴いて、
わたしはそう覚悟しました。

‥‥学年最後のイベントはスキー合宿でした。
なんと、バレンタインデー。
覚悟はしたけど、どうあがいても
手作りなんて出来なかったわたしは、
色とりどりのアルミに包まれた
小さなハートのチョコをたくさん袋に入れて
持っていきました。
青も緑も黄色もピンクもたくさんあるのに、
赤だけはたった1つしか入っていなくて、
わたしはこの赤いのは彼にあげようと決めました。
「バレンタインだから、チョコでも恵んでやるか!」
わざとらしくバスの中で宣言して、
すぐ後ろに座っていた彼を振り返りました。
「ははーお恵みをー」
おどけた彼に、チョコの袋を見せて。
「いろんな色があるから好きなのとりなよ。
 ‥‥でも、赤いのは1つしかないんだ」
耳が熱くなっているのを自覚して、早口で言いました。
「ひとつ? ふうん。‥‥じゃあせっかくだからな。」
そう言って彼は赤いのを、取ってくれました。

でも、そんな渡し方じゃ伝わるはずがありません。
結局、決定的な一言が言えず、
春になって彼は親の仕事の都合で転校していき、
それっきりになりました。

今でも夜空ノムコウが流れると思い出すのは、
わたしのこんな青春です。
あの頃の未来に、僕らは立っているのかなぁ?
窓をそっと開けてみると、
‥‥今年もやっぱり冬の匂いがしました。
(ユズテル)

バレンタインでも、
もう冬でもないけれど、
この投稿を紹介しました。
待ってると来年になっちゃうからね〜。

好きじゃない、好きじゃない、
あいつのことなんて好きなわけない。
恋心の存在を否定すれば
恋そのものが「なかったこと」に
なるかといえばその逆なんですよね。
そう、好きじゃないっていう言葉は
どんどん好きになっちゃう魔法の言葉。
なのにうっかり唱えちゃうんだな。
口に出すともっと効いちゃいますよ、それ。

ぐんぐん成長していく時期って、
その成長のスピードが
こわくなっちゃうときがありますよね。
どこに向かってるんだろう、って。
けれどもいやおうなくやってくる
「進路の選択」。
(ユズテル)さんの言う通り、
「望んでもいないのに明日が来る」。

そんな気持ちに「夜空ノムコウ」って
ほんと、ぴったりきそうですよね。
おとなになってから聴くのと、
「あの頃」に聴くのとでは、
きっと、ずいぶん「刺さるもの」が
ちがうんだろうなあ‥‥。

赤いチョコの告白、伝わったのかな。
なんとなくだけど、伝わってたような気がします。

胸がキュンとするといいますが、
その音がほんとにからだのなかで
鳴ったような気がしましたよ。いやいやほんと。
まいったなぁ、
なんて甘く切なくかわいい投稿でしょう。
甘ずっぱい部門の名作だと思います。

背の高い彼にドキドキしたその感じはまさに、
このコンテンツのシンボル、
「チッチとサリー」の世界ですね。いいなぁ。

ほかにも具体的な描写がたくさんでてきますよね。
坂道ばかりの通学路とか、
夕陽の差す委員会室とか、
アルミに包まれたチョコとか。
思い出のすみずみを、こぼさないよう、
たいせつにたいせつに持ち続けているのですね。
読んでいるだけでも、
(ユズテル)さんの見た景色がぱあっと浮かんできます。

「夜空ノムコウ」、歌詞をじっくりと読みました。
こんな内容だったんだ‥‥。
みなさんの投稿のおかげで、
なんとなくくちずさんでいた歌の
歌詞の意味をきちんと知る機会が増えました。

 あの頃の未来に 僕らは立っているのかなぁ

この歌詞‥‥考えさせられてしまいます。

うわぁ、泣ける。
ほんと、つーんとしちゃうね、ヤバいヤバい。

全体に、「未来」のお話なんですよね。
中学生のころって、どんなたのしさもよろこびも、
「未来」という巨大なうねりのなかに
吸い込まれていっちゃう。

大人になれば、
それは無慈悲な濁流に見えても
たくさんの豊かさをもたらすものだって
わかるんですけど、
中学2年のスキー合宿を前にしたふたりには
(あえて主役をふたりにしちゃうけど)
不安とか未知とか不条理の渦巻く
ブラックホールみたいに思えるでしょうね。

テレビなどで何度も耳にした
『夜空ノムコウ』が、十代の子の耳と胸に
こんなふうに響くなんて知りませんでした。
自分の肌にも夜明け前の冬の寒さが
ぴりぴりと感じられるようでした。
すばらしい投稿を、どうもありがとうございます。

彼の描写がすばらしすぎて、
画面に向かって「かっこいいー!」と
言いそうになってしまったではありませんか。
黒板を楽々消すところ、
「せっかくだからな。」というせりふ。
ほんとうにステキな彼だったのでしょうけども
(ユズテル)さんのシーンの切り取り方が
めちゃくちゃセンスいい。まいりました。
最後の一行まで、まいりましたです。

「とっても仲のよい男の子」は、
この恋歌くちずさみ委員会で、よく登場します。
もう、サイコーにあまずっぱい存在だと
わたくしは思います。
友達でいるのはあきらめればいい、と
何度も思いました。しかし、
ほとんどの人とは別れるもの、と考えればですよ、
恋人になってから別れるのと、
友達のまま別れるのと、どっちがいいでしょう?
友達の枠を超えないのも
悪くないなぁと思うんですよ。
それは、近づきすぎないのがコツですよね。
仲よくなれるのに。
女の子なら無条件でもっと仲よくなれるのに。チェッ。

では、また土曜日に、おめにかかりましょう。

2013-04-17-WED

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