『ささやかなこの人生』
 風

 
1976年(昭和51年)

先生が職員室から
出てくるのをまちぶせて、
手紙を渡しました。
  (大倉野のりゆき)

やさしかった 恋人達よ
ふり返るのは やめよう
時の流れを 背中で感じて
夕焼けに 涙すればいい

小学校の頃買ってもらった、はじめてのラジオ。
それまでテレビっ子だったボクは、
ボクだけのラジオから、ボクだけに語りかけ、
唄いかけててくれてるような、
そんな気分で毎晩ラジオを聴いてました。

その頃、うちのクラスに
教育実習に女の先生が来ていました。
2週間の実習が終わり、その先生が去ってゆく日。
ボクは放課後、
その先生が職員室から出てくるのをまちぶせて、
手紙を渡しました。
何も言えず、ただ手紙を渡して、走ってうちに帰りました。

うちに帰って聴いたラジオから流れてきた、
風の『ささやかなこの人生』・・・
「愛」だとか「人生」だとか、
歌詞の深い意味すらまったくよくわからないのに、

♪やさしかった恋人達よ  ふり返るのはやめよう
 時の流れを背中で感じて 夕焼けに涙すればいい

ここを聴いて、
その日の教育実習の先生との別れと歌詞が、
子供ごころになんか勝手にオーバーラップして、
歌詞のとおり、夕焼けに涙しました・・・。
(エンエン泣きました)

あの時渡した手紙が、
生まれてはじめての「ラブレター」であり、
あれが「初恋」だったように思えます。

あれから、三十年以上がたち、今あらためて聴くと、
あの頃よりも、
「愛」だとか「人生」だとか少しだけわかった気がして、
この歌の深さに、また涙したりします・・・。
(ジワ〜っと泣けてきます)

このコンテンツの原点のような、
甘く切ない昭和のかおりの投稿をいただきました。

はじめてのラジオ。
教育実習の先生へのほのかな恋。
待ちぶせして渡したラブレター。
夕焼けを見ながら、あふれる熱い涙。

いいなあ〜〜〜〜。
ザッツ・青春。

ぼくもラジオにはとくべつな思いがあります。
テレビは「お茶の間で家族で」なんですけど、
ラジオは「自分の部屋でひとりで」なんですよね。
あの感じ‥‥
深い夜に、親に聞こえないボリュームで、
いろんな考えごとをしながら聞いていた
ヒット曲や、大好きなDJのおしゃべり‥‥。
とっぷりとしたあの時間にはぐくんだものは、
いまでも自分の中心にあるような気がします。

ところで、伊勢正三さん。
当コンテンツではおなじみになりました。
やっぱりすごい、どれもこれも名曲。
ああー、歌いたい、みんなで歌いたーい。

たぶん恋歌くちずさみ委員会のなかでは
最年長の山下さんがぎりぎり
「風」をリアルタイムで知ってるんじゃないかな。
1976年は、ぼくも10歳になった年だけれど、
まだ自分のラジオを持っていなかったから
思いだす曲はぜんぶテレビ経由です。
そしてテレビでは「風」のような
フォーク・デュオの音楽を聞く機会は、
なかなか、なかったのでした。
(でもなぜか『22才の別れ』は知ってます!)

そう、ラジオ。
「ボクだけのラジオから、ボクだけに語りかけ、
 唄いかけててくれてるような、
 そんな気分で毎晩ラジオを聴いてました。」
と、(大倉野のりゆき)さんが書いている、
そのきもち、とってもよくわかります。
10代にふれたものって、音楽はもちろん、
小説でもなんでも、そんなふうに
すぅっと、からだにしみこむように入ってきた。
いろんな思いや考え、ものがたりを
たくさん自分のなかに貯めて、
ひとりでいろんなこと、考えてました。
(なんていうとすごくまともそうだけど、
 いっぽうで、澁澤龍彦を読むような
 みょうな小学生だったりもしました。)

それにしても、
伊勢正三さんってすごいんだなあ。
「なごり雪」も「海岸通」も「雨の物語」もそうですよね。
太田裕美さんが唄った「君と歩いた青春」もいいですよ!

シェフ武井からさらに2年下にいる
小学校低学年の私にとって、「風」は
昼間のお店に流れるラジオで出会う音楽でした。
耳とこころに心地いいフォーク。
伊勢正三さんのことは
イルカさんの歌を通じて知りました。
すごい方です。

恋してるときは恋してるときの、
恋を失ったときはそういうことばとメロディが、
心に響きます。
そうじゃないことばでさえ、そういうふうに解釈して
「どうしてこの音楽家は
 こんなことがわかっていたのだろうね?!」
と、つぶやいちゃうこともあります。
エンエンじわ〜、涙しちゃいますよね。

「やさしかった恋人」かぁ‥‥。
たしかに、恋人たちはみんなやさしいもの。
道を訊くときはカップルに訊くといいって
教わったもの。
過去形かぁ‥‥。

伊勢正三さんは、大分県出身だそうです。
今回の恋歌とは違いますが、
伊勢正三さんのつくった名曲、
『なごり雪』に登場する駅のホームは
大分県の駅をイメージされたとか。

そのエピソードを聞いて、
我ら、恋歌くちずさみ委員会の4人は
「なるほど!」と腑に落ちたものです。
なぜというに、『なごり雪』の舞台って
「東京で見る雪はこれで最後だね」と言う割りに
浮かんでくる風景が東京じゃないんですよね。
それは、時代のせいかと思っていたら、
やっぱり、そういうことだったんです。

あ、のっけから話が大幅にそれました。
伊勢正三さんは、「かぐや姫」と「風」に所属し、
多くの名曲を書かれた方ですが、
ぼくも「曲として」知っていることが概ねです。

投稿をいただいてから、
『ささやかなこの人生』聴いてみたところ、
ああ、とってもいい曲ですねー。
アレンジもすっかり一周していまっぽくもある。
とりわけ、切ない思いでのBGMとして鳴ったら
たまらないでしょうね。

いまも、教育実習のシステムって
昔と変わらずあるんでしょうか。
若い、男の先生や、女の先生は、
クラスにささやかな初恋の種を蒔いて
あっという間に去って行ったりしてるんでしょうか。

甘酸っぱい投稿をありがとうございました。
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それでは、次回、土曜日の更新でお会いしましょう。

2013-07-03-WED

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