『We're All Alone』
 Boz Scaggs

 
1976年(昭和51年)
 アルバム『Silk Degrees』収録曲

「親は親、俺は俺だから」
  (S)

すべては終わり、
また始まるのだから

初めての彼は3つ年上の大学1年生、
私が高校1年生の時でした。

当時通っていた学校では夏休みに大きな行事があり
そこにサポーターとして参加していた
OBの一人が彼でした。

ついこの間までイガグリ頭の男子に囲まれた
女子校生にとって
サーフィンやってて、ロン毛で、
お洒落で爽やかで頼りになる大学生ったら
そりゃあーた、大モテですわ。
いつも周りには女の子があふれ、
キャーキャー言われ、まるでアイドルの様でした。

行事が終わりしばらくしたころ、
久しぶりにそのOBが学校に来ているというので
学校はにわかに騒然となりました。

ファンだった友人が「会いたい」というので
付き添って行くと、
彼は部活のOBとして高校生を指導中。

あたりが薄暗くなりみんなが帰る頃、
女子に囲まれていた彼が最後に
「また、会いたいなと思ってるんだけど、
 電話番号教えてくれないかな」
と、私の後ろの子に声をかけている。

うわっ、いきなり公開告白! 何言っちゃってるの?
「‥‥‥‥‥‥」
うわっ、しかも、
なんで返事しないんだろう後ろの子。
どうしちゃったの? 卒倒した?

そーっと後ろを見てみる。
あれ〜誰もいない、どういうこと?

それが私に向けられているとわかるまでには、
少し時間がかかりました。

そして、交際スタート。
見るもの聞くもの行くところ、初めての事ばかり。
「ここのカフェのバナナチョコレートパイ
 美味しいよ」
「新しくできた109行ってみない?
 今人気なんだぜ」
「ボズ(スキャッグス)のチケットとれた。
 空けといてね」
すべてがキラキラ輝いていました。

しばらくすると、同級生が
彼はとある大きな会社の御曹司らしいとの情報を
得てきました。

へ〜、そうなの?
そんな感じじゃないけどなぁ‥‥‥本人に聞いてみると

「うん、そうだけど? で?」

俺は俺だから、こづかい、
デート代は全部頑張ってバイトしてるし、
車も自腹で買ったのだからボロボロの中古車だけど。

そんな彼にひかれました。

お互い、自宅を行き来するようにもなりました。
すると、そこは御曹司、
時には私の知らない世界もありました。

彼の幼馴染の友人と一緒に
テニスをしようということになり行ってみると、
その友人宅のお庭にあるコートだったり
(しかも2面! ハードコート)
彼のお母様と老舗デパートに買い物に行くと
お付きの店員さんが同行し、
お金を払うでもなし、荷物を持つでもなし
こんなところに、こんな部屋があるんだ
というところで休憩したり‥‥‥

それでいて、嫌味がなく、華美でなく、
お高くとまったところなんか微塵もなく
気さくで、気持ちよく、上質の方たちでした。

彼が大学4年生の時、取得単位が
数え間違いで一つ足りない事がわかり
いろいろ掛け合ったけど、結局留年することに。
すると、彼、あっという間に
半年ぐらい留学してしまいました。

帰ってきてからは、就職もあっという間に決め
それがまた、誰もが知る大手広告代理店。
親の力が働いたことは誰の目にも明らかでした。

どうして? 結局そんなもんなの?

「親は親、俺は俺だから」って言ってたじゃない!

まだまだ青かった私、気持ちの中に
すっと線が引かれてしまいました。

そんなこと良くあることだし、
今思えばそれほどの事じゃないのにね。
どんだけ真っ直ぐだったんだろう。笑。

今なら、片目つぶって、いや両目つぶったって
「玉の輿」に乗るかもしれないけど
その時はあっさり「さよなら」を告げてしまいました。

そして、自分から切り出したのに
なぜだか一人大泣きした私。

彼はその後、バツ2でお子さんもいると聞いています。
別れた彼氏の中で唯一会ってみたい人だなぁ。
今が幸せだといいけれど‥‥

(S)

やぁ〜〜、なつかしい、ボズ・スキャッグスの
ウィー・アー・オール・アローン!
学生のときの課題で、ビデオの編集ではじめて
「エンディングロール」をつくったときに
選んだテーマ曲がこの歌でした。
だから、何度も何度も何度も聴きました。
クライノモー♪と、喉を絞めて歌いあげ
ボズのモノマネも、したもんです。
恋とは関係のない思い出‥‥。

「気持ちの中にすっと線が引かれてしまいました」

そういうことって、ホントにあります。
でも、その線は
突然引かれたわけじゃないんですよね。
それまでにじわじわ攻められている何かがあって
自分でも気づかないうちに
「きっかけがあればすぐ遠のく用意ができている」
という状態が、数ヶ月あったりするんです。
振り返ってみるとわかるんだけど、
そのときの自分にとっちゃあ、突然だから
本人もビックリするんですよね。

自分から切り出して、自分で大泣き。
相手はもっとビックリなことでしょう。

いま、彼が幸せでありますように。
思い出は目を閉じればいつもそこに、とこしえに。
フォエバモー、フォーエーバモーー♪

なつかしい、なつかしい!
カラオケで歌ったこともありますよ。
クローーーズザウインドー カムアラーイ♪

(S)さんの投稿は、
まるでその時代の少女漫画のようです。
キラキラです。
大モテの彼は、そりゃあモテるでしょう。
モテるオプション、てんこもりです。
しかし、ほーんとにそんな
王子様のような男子が存在したのですね〜。
すごいなぁ。

恋の決断というものは
「動物の脳」がくだしているものですから、
たまに自分自身でさえも
その決断の理由がわからなかったりします。
スガノさんの言うように、
「動物の脳」は、きっとうっすらと、
さよならの準備をしていたのだとぼくも思いました。

ぼくの知人にもバツ2のひとが数名います。
一概には言えないこととは思いつつ、
その例を思い浮かべながら申し上げるならば、
バツをふたつできちゃう人って
たくましくも前向きで
みんなに愛されるタイプが多い。
と、ぼくは思っています。
だからその彼もきっと‥‥
ハッピーでいてほしいですよねー。
ノーニートゥーボーザンナー♪

♪アウサィザレーンビギーン
 エニメイネーバーエーン
 ソークライノーモーオンザショードゥリー
 ウィテーカートゥーザシー
 フォレバーモー、フォレバモーォー
 ・・・・
 クルォーースザウィンドーカームザラーイーー
 エネウィルビーオーラーーイ
 ノーーニーートゥーーボーダーナーー
 レリーアーウーレリーオービーギーンー
 オールフォーガットゥーナーー
 ウィロラロー、ウィロラローーゥ・・・
 ・・・って、誰か止めんかーい!
 フルコーラス歌わす気かボケーー!

それにしてもボズ・スキャッグスって
音の並びが変だと思うわ。
「ボズ」って。「ズ」って。
「スキャッグス」って。「キャッグ」って。
ちゃうねん。なんの話やねん。恋歌やろ。

家柄とか、生活環境が違っても、
恋に落ちたらまったく関係ないわけですが、
たまたま恋に落ちた相手が、
自分の同じ価値観を持っていたり、
世代や出身地が似てたりすると、
「あ、すごくラク」って感じることって
あるような気がします。

逆にいうと、どんなに好きでも、
年月を経るごとに、
根本的なバックグラウンドの違いが
みしみしと大きな亀裂になることも。

そういうこととは関係なく、
出会いの場面がとても素敵ですね。
後ろの子に話してると思ったら、
後ろには誰もいなくて自分だったなんて、
昔の少女漫画に出てくる女の子みたいです。
くっきりとした思い出を、
どうもありがとうございました。

♪クルォーースザウィンドー
 カームザラーイーー
 エネウィルビーオーラーーイーー

そうそう、少女マンガみたい!
キャンディ・キャンディのアンソニーかっ!
(最近の傾向を知らないので、たとえが古い。)
(S)さんのお顔に
勝手にそばかすを想像して読みました。

その、留年〜留学〜卒業〜就職、のあたりが
もうじつにきわめてわかりやすくって、
まあ、そういうことですよねえ。
3つ年下の(S)さんが醒めるのもしかたない。
もし同い年だったら、もしかしたら、
「今思えばそれほどの事じゃないのにね」
という気持ちで、許せたかもしれない。
でも、「今が幸せだといいけれど」
って、(S)さんが思う、その幸せは、
彼と(S)さんではずいぶん意味がちがうんでしょうね。
(S)さんが考えている「幸せ」を、
彼は、まったく理解できていないかもしれない。

しかし別れてン十年経ってなお、
こうして心配されるって、すごいよなあ。
本人知るよしもないだろうなあ。
109の創業は昭和54年だそうなので、
当時大学1年ってことは
彼もとうに50代だろうけど、
あんがい変わってない、という気がします。

ところで山下さんの言うバツ2のひとって、
ぼくもよく知ってるあのひとですね。
そうですねえ、たしかに愛されキャラだ。

では次回は土曜日に!
シナモンティーつきのCD+文庫本セットも、
どうぞよろしくおねがいしまーす。

2013-07-24-WED

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