『夏祭り』
 ジッタリン・ジン

 
1990年(平成2年)

二人で並んで観た花火。
このまま、時が
止まればいいと思いました。
(打ち上げ花火)

君がいた夏は 遠い夢の中
空に消えてった 打ち上げ花火

高校時代、私はバスケ部のマネージャーをしていました。
2年生になった春、後輩が入部してきました。

その中の一人に、彼がいました。
誰よりも笑顔で、
誰よりも楽しそうにバスケをする彼に強く惹かれました。

少しずつ、少しずつ仲良くなって、
夏休みに地元の花火を見に行く約束をしました。
後輩2人も一緒に、全部で4人で。

でも、なぜか、後輩二人の都合が悪くなり、
彼と二人で行くことになりました。
後から思えば、二人は気を利かせてくれたのでしょう。

花火に行く数日前の部活終わり。
ユニホームを洗濯する彼と、二人で話をしていたら、
「好きな人いるの?」という話題に。

お互い
「うーん・・・好きっていうか、気になるっていうか
 そういう人ならいるよ」
と言い合い、
花火当日に、お互い、
好きな人の名前を言おうということになりました。

そして、花火当日。

花火が始まる前に、
じゃんけんで負けた方から言おうということになり、
じゃんけんは、私の負け。

ドキドキしながら、彼の名前を口にすると、
彼も私の名前を口にしました。

きっと彼も私の名前を言うだろうという期待、
だけど、違っていたらどうしようというドキドキ、
その狭間で揺れていた私の気持ちは、
一気に喜びに跳ね上がりました。

二人で並んで観た花火。
このまま、時が止まればいいと思いました。

花火が終わって、初めて手をつないで、駅まで歩きました。

それから、一緒に帰ったり、テスト前に図書館で勉強したり、
遊園地に出かけたり・・・

私はずっと、彼の笑顔が好きだった。

だけど、3年生になり、私が部活を引退すると、
一緒に過ごす時間が少なくなりました。

そして、夏休みの終わり、私の恋も終わりました。

理由は無いけど、もう、好きじゃない。

彼には、そう、言われました。

2学期になり、
彼が不登校気味になっていることを人づてに聞きました。
あの、屈託なく笑っていた明るい彼に何があったのか。
気になって気になって仕方なかったけど、
私にはどうすることもできなかった。

私の大学受験が終わり、
卒業する頃には、彼も学校に来るようになっていました。

卒業式の日、卒業文集の寄せ書きページに、
何か書いてくれるように頼んだ私に
彼が残してくれた言葉は「大学行っても頑張って」でした。

さらに1年後、大学入学のため、
上京してきた彼に会うことがありました。
彼は、あの頃の屈託なく笑う彼ではなかった。
彼に会えた嬉しさ半分、彼が変わってしまった悲しさ半分。

そして、それが彼に会った最後でした。

次の年の夏。
友達と花火を観ようと横浜へ出かけた日。
部活の同期から、彼の死を伝えられました。

花火を見ずに家に帰り、その晩を泣き明かしました。

葬儀は、私たちが初めて花火を見に行った日でした。

抜けるような青空の下で、彼を見送りました。

遺影の彼は、私の知っているあの笑顔の彼でした。

彼と観た花火、彼の笑顔、彼といた夏。

夢の中の出来事のようであり、
でも、今でも鮮明に覚えています。

(打ち上げ花火)

(打ち上げ花火)さん、
読みながらいっしょにどきどきしました。
ふたりが並んで花火を観る場面では、
ほんとにそこで時が止まればいいと思いましたよ。
跳び上がるほどにうれしい夏の夜に見た
忘れられない打ち上げ花火。
ヒュルヒュルヒュル〜〜〜〜〜〜〜 ドーーーン!
なんて甘ずっぱくて、美しい景色でしょう。

以前、長岡の花火大会の取材をしたときに、
実行委員の方がこんなことをおっしゃいました。

「日本の打ち上げ花火というのは、
 夜空に手向ける献花だと私は思っています」

(打ち上げ花火)さん、
すてきな思い出(あえてそう言います)を
ありがとうございました。

花火のひかりで鮮やかに浮かぶ
彼のシルエットを、
投稿を読んでいただけの私も
見たような気持ちになりました。
はじめて手をつないだときのこと、
どきどきしたこと、あったかかったこと、
これからどうなっていくんだろうという
ウキウキした気持ち、きらめくような夜、
彼もきっと憶えてくれていると思います。

今日7月31日も、
全国のあちこちで
花火大会が開催されています。
屈託のない笑顔の彼に届きますように!

同じ気持ちの人と、
いっしょに何かを見る、って、
すごくうれしいことですよね。
コンサートでも、海でも、
映画でも、花火でも。
すぐに終わりが来ることが
わかっているせいでしょうか、
時よ止まれって思うことが、
ほかの時間にくらべると、
多いような気がします。

ことしはきれいな花火が
見られるといいですね。
急な雨の多いことしの夏だけど、
花火大会の日くらいは、
降らないでほしい。

花火って、
そのとき恋人がいた人にも、
いなかった人にも、
両想いの人にも、片思いの人にも、
等しく、なにかしら
「恋の思い出」があるんじゃないかなあ。

後半の影のある思い出も胸を打ちますが、
ぼくはやはり告白の場面が好きでした。

都会にも地方にも花火はあがり、
たとえば中止になったらなったで思い出が残る。
みなさんにも、あるんじゃないでしょうか、
花火の思い出。

それでは、どうぞよい週末を。
恋歌くちずさみ委員会の本とCDも
どうぞよろしくお願いします

2013-07-31-WED

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