『早春物語』
 原田知世

 
1985年(昭和60年)

私は自分の恋心を
漫画に描きました。
(時をかける少女)

他のだれかに 愛されるなら
あなたのために 悲しむ方がいい

高3の冬。
東京のデザイン学校に行くと決めていた私は
受験もなく、バンド活動に夢中でした。
受験で抜けたドラムの子の代わりに
サポートで入ってくれたのが4つ年上の彼。
私達のバンドが入り浸っていた
ジャズ喫茶の常連さんでした。

地元の有名バンドで
ドラムを叩いていた彼が入ってくれると、
決して上手ではなかった私達のバンドのレベルや
ライブの楽しさがグッと上がりました。

私の作る曲を面白いと褒めてくれたり、
バンド活動の場を探してくれたり、
ライブ前の緊張を冗談でほぐしてくれたり‥‥。
ああもうハタから見て恥ずかしいくらい
わかりやすく私は彼を好きになりました。

でも18才の私から見た22才の彼が
ものすごく大人の男に見えたように、
22才の彼から見た私は
「かわいい妹分」以上には見えないようでした。
彼からもらった年賀状には
「○○(私)のいいところを大切にしながら
 素敵な大人の女性になってください」
と書いてありました。
彼にとても綺麗な彼女がいることも知りました。

それでも好きでした。
一緒にバンドで音を出してるだけでも嬉しかった。

私は自分の恋心を漫画に描きました。
練習の帰り、
彼のバイクで送ってもらいながら見た初雪のこと。
ひとりで遅く帰った時、
無事に着いたかどうか自宅に電話を入れてくれたこと。

その漫画、雑誌のコンテストに送ったら賞をとってしまい、
高校卒業、上京のタイミングでプロデビューが決まりました。

「恋は実らなかったけど、
 私は私の道を行こう。東京で頑張ろう」

うれしいニュースを
くだんのジャズ喫茶のマスターに報告に行き、
入れ替わりに聞いたのは悪いニュース。
「あいつ(彼)がバイクで事故った」でした。
「上京してこれから、って時に心配させるだけだから
 教えなくていいと口止めされたけど」と。

脚を失うかも知れないこと。
ドラムが叩けなくなるかも知れないこと。
私が何の力にもなれないこと。

どうしていいか分かりませんでした。
病室に行っても泣き出しそうな気持ちを見透かされ、
こっちが励まされる始末。最後まで私はコドモでした。

上京した年に、新宿の映画館で「早春物語」を見ました。
映画のストーリーも歌もあまりに心情と重なり過ぎて
「出来過ぎじゃん‥‥」と思いながらボロボロ泣きました。

‥‥ずっと「恋歌くちずさみ委員会」を読みながら
「私には恋に密着した歌なんてないなあ‥‥」
と思っていたのですが、今日突然思い出したのです。
初恋まで遡ったらドカンと大きなのが出て来ました。
そう、28年前のちょうど今頃の季節。

(その後、彼は長い入院と葛藤の後に脚を失いましたが、
 病床で資格を取り企業に入り、結婚し、
 ドラムは叩いてないけれど、
 あるスポーツで活躍しているようです。
 彼から見た私の方は「素敵な大人の女性」に
 なれたかどうか‥‥定かではない‥‥です)

(時をかける少女)

後日談のところまで、
いただいた投稿を
ぜんぶ掲載させていただきました。

なんというか、
思い出そのものもそうですが、
「ジャズ喫茶」とか「バイク」とか
「初雪」とか「上京」とか、
登場するひとつひとつのキーワードも含めて
ほんとに「マンガのよう」で。

いまも、マンガ家さんとして
ご活躍なのでしょうか。
その、「いまにつながってる感じ」も素敵です。
彼がご活躍なのも、うれしかった。
送ってくださって、
どうもありがとうございました。

恋心をマンガで描いて賞をとられた、
というところでまず驚き、彼の事故でまた衝撃。
そして、ご自身には
歌にまつわる恋の思い出はないと
思ってらっしゃったこと‥‥。
きっとずっと「いまを充実」させて
こられたのだろうと思いました。

彼氏でも、先生でも、
いままでお世話になった人たちに
「こんなふうに成長したよ」
と言えるかどうか。私もときどき考えます。
でも、彼が活躍しておられることが
いちばんうれしいのとおなじに、
私が元気でたのしくしているのが
いちばんいいのかなぁ、なんて
そのたびに甘いことを思ってしまうのです。

マンガを1冊読み終えたくらいの読後感です。
いや、マンガだったら1冊じゃなくて
けっこう長大なドラマになりそうですね。
彼の現在にもほっとしました。
たいへんだったにちがいないけれど、
元気でよかったです。

たぶん、(時をかける少女)さんとは
ぼくは同世代じゃないかな。
知世ちゃんが出てきたとき、衝撃的でしたよね。
薬師丸ひろ子、渡辺典子との角川三人娘。
「早春物語」は、当時も好きでしたが、
のちの「ガーデン」っていうアルバムの
セルフカバーが、またいいんですよ。
よかったら聞いてみてください。

ところで
「‥‥ずっと「恋歌くちずさみ委員会」を読みながら
 「私には恋に密着した歌なんてないなあ‥‥」
 と思っていたのですが、今日突然思い出したのです。
 初恋まで遡ったらドカンと大きなのが出て来ました。
 そう、28年前のちょうど今頃の季節。」
というのが、うれしかったです。
こころのなかで大事に封印していた思い出を、
ありがとうございました。

4才年上の彼、やさしい人ですね。
かっこいいなぁ、モテモテだったんでしょうね。
その彼が、いま活躍しているという一文が
とてもうれしかったです。
やっぱりやさしい人には、
ちゃんと幸せになってもらいたいですから。
ね。

「恋の記憶にまつわる歌は、わたしにはなさそう」
そんなふうに思っている方って
きっとたくさんいらっしゃるのでしょう。
でもほら、(時をかける少女)さんのように
記憶をゆっくりとたどっていけば‥‥
ドカンと大きなのが出てくるのかもしれませんよ?
出てきたら、ぜひ送ってくださいね。

本とCDも好評発売中の「恋歌くちずさみ委員会」、
次は土曜日にお会いしましょー。

2013-08-07-WED

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