『I want It That Way』
 Back street Boys

 
1999年(平成11年)

星、観に行きませんか?
もし、迷惑じゃなければ。
(Uco)

面倒くさいからって
You are my fire
The one desire


「星、観に行きませんか? もし、迷惑じゃなければ」

携帯の留守電に入っていた台詞を何度も聞き返しました。

彼は大学生で私は7つ上でした。
彼のことを、弟みたいに思っていたつもりでした。
友達に「彼のことが好きなの?」と聞かれた時、
まさか、弟みたいなもの。
と答えると
「さっきから、彼のことばかり話してるの知ってる?」
と言われ、自分の心に気がついてしまいました。

流星群が流れる夜、留守電に少し間をおいてから、
敬語で話すメッセージが残っていました。
翌日も仕事だし、体調も優れなかったので
断ろうと電話をしたら
「ムリなら仕方ないけど、
 一応暖かい格好とか毛布持ってきた」
もうすでに近くにいると。
多少無理しても行ってしまおうか?
と思い直し、待ち合わせることになりました。

「あれ、車?」
彼は、レンタカーの運転席から顔を出し、
久々の運転だから恐いと笑いました。
どこに行くのかわからないまま、
なれない運転のドライブ。
時折の沈黙。
「うーん、音が足りない」
と彼はコンビニに寄るとCDを購入しました。
適当に選んだBack street Boysのアルバム。

You are my fire
The one desire

車の中でゆっくりと音楽が流れ、
現実じゃない気がしました。
さっきまでいた現実から遠く離れた場所にいるような。

「もうすぐ星が流れる時間だから急ごう」

だだっ広い公園に着くと、シートを敷いて、
毛布にくるまり寝転んで、空を見上げました。
真っ暗な中、回りを見渡すと、
同じようにゴロゴロした人達がいっぱいで、
私達は小声で笑いました。
「あっ!」
星が流れると、誰かが思わず声をあげ、
流れる度聞こえてきました。
私達は、小動物みたいに小さくクスクス笑いあい、
沢山の星が惜し気もなく
次々と流れていくのを観ていました。
あまりにそれは、美しくて、偉大で、儚くて。
この先、この景色を私は忘れないだろうな、
と思いました。

「ありがとう、誘ってくれて。
 まさかこんな景色が観れるなんて思わなかった」

彼は、ゆっくりと私の目を覗きこんで

「今、子供みたいな目をしてる。好きだよ」

彼も子供みたいに澄んだ目で言いました。
ビー玉みたいに輝いて、とても綺麗だった。

流星群のニュースを聞くと、思い出してしまう。
あの時の曲は、別れの曲だと後から知ったけど、
あの頃はラブソングにしか聴こえなかった。

その後、彼と別れ、彼の親友と付き合いました。
お互い罪悪感を感じ、長くは続かなかったけれど。
友情は破綻してしまったのか、怖くて聞けなかった。
二人の友情が続いていて、
若かったなと笑ってくれてるといいなぁと思います。
(Uco)

流星群の流れる夜の、
ほんの数時間の出来事。
ふたりそれぞれ、
あたためてきた恋ごころが
流星群の流れるあいだに成就したという、
なんだかおとぎばなしみたいな思い出です。
コンビニでCDって、なんだかかわいいなあ。

どうやって出会ったのかも、
どう恋をはぐくんだのかも、
どのくらい続いたのかも、
どうして別れてしまったのかも
書かれていないけれど、
この、たしかめあった瞬間、
ずっと大事な思い出になりますよね。
その時、ふたりは、
流れる星には祈っていたのかな。
効きますね、だとしたら!

大学生の彼氏、
がんばったんだろうなあ。

流星群の情報を仕入れて、天気をチェックして、
レンタカー借りて、目的を公園と定めて、
行く道をシミュレートして、
時間を見計らって、シートと毛布を用意して、
留守電に入れて、近くまで行って、
「ムリならしかたないけど」って電話する。

で、それらすべてが
「ダメならしゃあない」っていう前提。
いいなあ、がんばってるなあ。

で、そういう、恋における
「うまくいけば素敵だぞ」っていう努力って
基本的に、たのしいんですよね。
うまく実を結んでよかったなと、
彼氏のほうの目線で読みました。

「星、観に行きませんか? もし、迷惑じゃなければ」
今だったらたぶん
メールで伝えられるメッセージが、
留守番電話に「声」でふきこまれていたんですよね。
そのまっすぐな行為が、すがすがしいです。

そして、そう、
ふたりが付き合ったのかどうか、
どうして別れることになったのか、
そのあたりは記されておらず、
あくまでも「思い出の優先順位」で
この投稿は書かれています。
そこもいいなぁと思いました。
だって「流星群とビー玉のような瞳」だなんて、
それほどすてきな記憶はなかなかないですよ。
書き記したいのは、そこですよね。
映画のシーンのように届いてきました。

彼も、流星群のニュースを聞くたびに、
きっとどこかで(Uco)さんのことを
思い出しているんだと思います。
ああ‥‥いいですねぇ、
そういうのって、いいですねぇ。

その日の流星群でいちばんきれいな星が
最後にビー玉のように思いがけずあらわれた
彼の瞳だったのですねぇー、
なんつー、ありきたりなことを言ってしまって
すみません。
でもほんとうにそう思うんですもの!
わたくし、目の奥のひかりがやさしくきれいな人が
タイプなんです!
(ここでそんなことを言ってどうする)

その後につきあった
友達の彼のことはくわしく書いていらっしゃいませんが
「いま二人で笑い合っていてほしい」ということは、
両方、とてもいい人だったんでしょう。
そちらの彼も、また別のストーリーが語れるほどに。
でも、山下さんの言うとおり、
いまこのときに書き記したいのは流星の君の瞳。

ビー玉みたいにまっすぐな瞳の彼に
女の子みんなが出会えるといいなぁ。
(やっぱり、わたしの好みだけの話かな‥‥)

それではまた、来週!

2013-10-12-SAT

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