『日が落ちるまで』
 ハンバート ハンバート

 
2006年(平成18年)
 アルバム『道はつづく』収録曲

なにもかも、跡形なく、
ここから出て行くのだと
思い知らされました。
(たかし)

あともう少しだけここにいていいよ


わたしは地元へ 彼は東京へ
お互い就職で離れることを決心した大学生のころ。

卒業式の日の夜。
私が暮らしていたアパートは、すでに引き払っていて
彼の部屋で、大学生活最後の夜を過ごしました。

彼の部屋も、引っ越しの準備が終わり、
残っていたのはスーツケースと寝袋一つ。

4年間を過ごした部屋は
知らない部屋のようで
ああ、ほんとうに、なにもかも、
跡形なく、ここから出ていくのだと
思い知らされました。

残された一つの寝袋に、二人で入ると
窮屈で、だけれども暖かくて
何もかもなくなってしまった部屋の中で
寝袋の中だけが私たちの居場所のような気持ちでした。

二人とも言葉は少なく、ただ抱きしめあって。

夜が明けたら
彼を駅で見送らなければならない。

だんだん明るくなってきた外を見ながら、
寝袋の中で「もう少しだけ、あともう少しだけ」と
祈るように思ったことを、今でも鮮明に覚えています。

それから2年後、
彼とは別れてしまいましたが
この曲を聴くたびに
あの夜のことが
よみがえってきて
心の奥がギュッと締め付けられるような気持ちになります。

おばあちゃんになっても
きっとこの曲で切なくなるんだろうな。

少しの間だけ、あの夜に戻って
4年間の素敵な思い出に浸るときにも
「あともう少しだけ、ここにいていいよ」
そう言ってくれる、大切な一曲です。

(たかし)

卒業とか、転校とか、引っ越しとか、
ぷっつりと訪れる境遇の変化って、
ほんとうにこういう唐突さがありますよね。

その日が迫ってくるけど、
なんとなく、実感が湧かない。
ひょっとしたら、
同じ日常が続くんじゃないかとさえ思う。

でも、違うんですよね。

日常はその日へ向かって
すーっと静かに確実に移動していって、
やがて、ぷっつり、その日が来る。
穏やかな川をゆっくりくだる筏を
下流で必ず待ってる滝みたいに。

それで、投稿にあるように、
「ああ、ほんとうにそうなんだ」
って思い知らされるんです。

男女間にかぎらず、
いろんな別れの場面を思い浮かべて、
読みながら、じーんとしました。

ハンバート ハンバートは、
読者の方からすすめられて
ここ数年で聴くようになりました。
年を取ると、もう、新しい音楽なんて
とくに知らなくてもいいんじゃないか、
みたいに思っちゃうんですけど、
こういう出会いがあると、
また新しくアンテナを張り直してしまいます。

今回の恋歌とは違いますが、
ハンバート ハンバートの
『おなじ話』という曲がぼくは大好きで、
聴いてない人には、すごくすすめたいです。

私は怖がりなところがあって
なにかが起ころうとすると
「こういうことになるんだな」と先回りして
想像してあきらめるので
状況の変化に驚いたりすることは
あまりないほうだと自分では思っています。
だから、ほんとうに驚くときがあったら怖いなぁ。
状況の変化は突然やってきたりもしますからね。

もう少しだけ、このままで。
そう思ったときの風景こそが、
人が鮮明に憶えるものなかもしれません。

中学、高校、大学、就職と、
若いころには何度も何度も、
いやがおうにも別れのタイミングが訪れます。
自分自身を振り返っても
切なくて悔しいことがいっぱいありました。
大きな流れにあらがえず、
若いから、子どもだから、
近づいてくる別れを受け入れるよりほかになく、
無力感でいっぱいになったこともありました。

でも、なぜでしょうね、
そういう切ない別れの記憶にはたいがい、
「心地よさ」もいっしょにあるような気がします。
(たかし)さんが書いてくださった
「寝袋の中で永遠を祈った時間」
というピュアな切なさにも、
読んでいてこころを打たれ、しびれました。
胸をしめつける切なさは、どうして
温かさや心地よさをともなうのか‥‥不思議です。
おおもとは「つらい」のはずなのに。
やっぱりポイントは「時間の経過」なのかな‥‥。

かなしいけれど大事な決断をして、
家を去ることにしたとき、
引っ越し荷物をまとめていったら、
部屋がどんどんよそよそしくなっていきました。
ダンボールだらけの部屋でねむり、
翌朝引っ越し業者のあんちゃんたちが
わっせ、わっせと荷物を運び出すと、
家具の痕がくっきりついたカーペット、
日に灼けた壁紙、
奥のほうにかたまっている綿ぼこりが
やけに目立って、
なんだか廃虚みたいに見えた。
あたらしい暮らしに気持ちは向かっているはずなのに、
とっても悲しくなりました。
人が住まなくなると、家はもう家じゃなく、
部屋はもう部屋じゃなく、
ただの箱、壁と窓に仕切られた空間でしかない。
すごくさびしかったのを覚えています。
ふたりの、このせつない時間ほどじゃないけれど、
投稿を読んでいてそれを思い出して、
すごくしみじみしちゃいました。

ハンバート ハンバートって
ちゃんと聞いたことなかったな。
こんど聴いてみますね!

みなさまよい連休を!

2013-11-02-SAT

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