『君に会いに行く』
 槇原敬之

 
1993年(平成5年)
 アルバム『SELF PORTRAIT』収録

「あーー
こういう事だったのか」と
今までの人生を
振り返ったのでした。
 (shiho)

前奏


高校1年生15歳の時でした。
別のクラスのバレー部男子、
背も高いし何だか恰好いいかもーと思っていたら
お友達情報により、彼のお誕生日が1日違いと発覚。
しかも私は4/1、彼が4/2、
お互いに1日違えば学年も違うお誕生日。
そして彼の身長は、背の高い私の理想の183センチ!
これは運命に違いない!
と追っかける私の恋が始まったのです。

いろいろとあり高校2年生の秋、
なぜか涙で何も言えなかったけど(笑)、
私からの告白でお付き合いが始まりました。
でも、お互いに部活が忙しすぎて、
時々一緒に帰るか
ちょっとやんちゃ気味だった彼が
放課後いつも川土手に行くのに
ちょこんとついていくのが唯一のデートでした。

夕日きれいだねーと言いながら
いつもの川辺でただ一緒に居る。
それだけでもう天にも舞い上がる気持ちの日々でした。
朝学校に行っては、
彼が自転車で登校してくるのを見つけて喜び、
気づかないふりして、
お! と肩をたたかれるのを待ち♪
部活が終わるのを今か今かと待ち♪
もう高校生活が部活を除けば
人生で一番楽しかったひと時♪

しかし、まだまだうぶだった私は
それ以上の関係になる事を怖がり、
その事ばかり頭にある男子とはうまくいかず。
3年生の春、別れを選んだのです。

そしてその年の秋も過ぎた頃、
部活も引退しみんなが受験体制モードに。
一足お先に受験勉強をしてる私に
彼は時々声かけ息抜きに誘い、
また、いつもの川辺で少し話をしては
またねーという日々。
そして私は地元に、
彼は神戸の大学へと進学が決まりました

神戸へ行く前の日に、
なんとなく二人で草むらで寝そべって
空を見上げて1日を過ごしたのです。
もう二度と会う事もないな。と、
何となくの予感を感じて
最後のお別れをしたのでした。

心の片隅になんとなく彼を感じながらも、
連絡も取りあうことも無くなり月日がながれ、
それから変わらず部活で忙しく彼氏もできなかった私は、
社会人になった年に出会った方と
すぐに結婚が決まりました。

なぜか結婚直前に高校の時のあの彼と連絡が取れ、
マリッジブルーで不満だらけの私は愚痴をまき散らし、
関東にいた彼は、話を聞きに帰るよ! と。
私の胸はほんの少しときめいたけれど、
「旦那さんになる人に、
 嘘をつくような事をしたら、
 君がつらくなるよ」と
地元には帰らないからもう会えないけど、
幸せになれよーと
彼はとっても爽やかに去っていきました。
なんだか大人になったんだなーと
彼の優しさを誇りに思いながら私はお嫁に行ったのです。

そこから5年半、いろいろと結婚生活に苦しんだ私は
3歳になったばかりの息子を連れて
シングルマザーとなりました。
それからちょうど1年後、
十数年ぶりに偶然に彼とバッタリ再会。
少し前にお友達から私の事情を聞いていた彼は
びっくりしたよ。と、そして
今度ちゃんとしっかり話そうよ。と。
その時、お互いに
「あーーこういう事だったのか」と
今までの人生を振り返ったのでした。

卒業前、遠距離に自信がなくて
「もう一度付き合おう」と言いそびれたこと。
結婚前、その結婚やめとけと言えなかったこと。
実はあの後すぐに地元に帰って家業を継いでいたこと。
十数年の時間を埋めるように沢山の話をして、
2年後、息子と私と彼は家族になりました。

そして今はさらに家族が増え、
現在4人で家族をしています。
これまでの人生いろいろあったけど
きっとこうなる為の時間だったんだと思って
今は幸せに暮らしています。

この曲の前奏が流れるだけで、
川土手で一緒に見た夕日や、
そっと貸してくれたマフラーや、
待ち合わせの時、人ごみの中で彼を見つけた瞬間や、
恥ずかしくて直接渡せなかったプレゼントや、
貸りたハンカチを返すのに
香水をかけ過ぎて失敗したことや、
試合で私に向けてくれたガッツポーズ、
彼の大きな手のひら、
もう数えきれないぐらいの思い出が
今でもあふれ出て
胸がキュー――となるんです。

あ、、出会って20年、
彼の身長が181センチだと知りました・・(笑)。

(shiho)

15歳で出会って、だいじな時間をすごし、
それでも別れて、おたがいいろいろあって。
投稿から推察すると30代はじめに、
ようやくひとつになった恋。
言いたくても言えなかったことや、
渡せなかったプレゼントは、
積み重ねた思い出とともに、
ゆっくりゆっくり「その時」を待っていたんですね。

よかったなあ、ほんとうによかった。

(shiho)さんの恋歌ポイントは、前奏。
どんなだったかなと聞き直してみたら、
エレクトリック・ピアノ(だと思う)の
静かな旋律ではじまる曲でした。
そしてじつは歌詞も、(shiho)さんと
彼のこの長いながいものがたりに、ぴったりです。

ここの原稿は、4人が当番制で登録しています。
今回の投稿は武井さんが当番でした。
いただいた投稿をしかるべき場所に移して、
その曲の発表年などを調べ、自分の感想文を書いたら
他の3人に準備が整ったことを告げます。
で、さっき、当番の武井さんがね、言うんですよ。
「山下さん、今回の恋歌もいいよ〜」と。
いつもはそんなこと言わないのに。
わざわざ「いいよ〜」と言いにくるくらいだから、
よっぽどなんだろうなぁ、どれどれ?
とハードルを高ーくあげて読みはじめました。

‥‥‥‥‥‥‥‥。
‥‥こ、これ‥‥これを、
たくさんの人に読んでもらうにはどうしたらいいんでしょう?
みんなに読んでほしい。
すばらしいです。
高くあげたハードルを、おおらかに超えています。
途中からどきどきがとまらなくなりました。
終盤の思い出の描写の連続では、
自分の胸のキュンキュン音がほんとに聞こえた気がしました。
読み終えたときにはもう、
会社の席で何枚もティッシュをひっぱりだしてました。
‥‥この感想、おおげさなのかな?
いや、でも、ほんとに感動しています。
よかったですね(shiho)さん、よかったー。
「時機」って、あるんですねぇ。
ああ〜、もう、読んでてしあわせ。もいっぺん読みます!

わあ、ちょっとした半生記。
日常バージョンの大河ドラマみたい。

こう、恋愛全体を俯瞰したときに、
告白の場面も別れの場面も
ちっとも描写されなくて、
草むらで寝転んで過ごしたというような
思い出の断片ばかりが浮かぶのがいいですね。
うん、そういうものかもしれないなあ。

最後、家族がひとつのシルエットに
とけていくように感じられました。
背の高いご両親と、まだちいさい二人の子ども。
読みながら、その幸せなシルエットに
エンドマークを添えました。

ご家族4人で思い出の
土手を歩いてる情景が浮かんできました。
なんていい景色なんだ。
かんぱーい。

「これまでいろいろあったけど
 こうなるための道のりだったんだな」
と思うこと、ときどき、ありますね。
頭のなかにダーンと自分の
エンディングロールが流れます。
(エンディングじゃないけどね)

そういうようなことが、いちばんの
幸せのような気がします。
だから、ほんとうに、よかったぁ。

お父さんとお母さんが
家族としてかかわるだけじゃなくて
自分たちの思い出をいつまでももっているのは
子どもとしてもうれしいと思います。

恋歌のCDを取り出して
私も、便乗胸キュンしようっと。

では、また次回に!

2014-02-01-SAT

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