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 『シャララ』
 スピッツ

 
2006年(平成18年)
 シングル『魔法のコトバ』収録曲

この気持ちは
認めない方向で
いきましょうと決めました
(つぐつぐ)

君の声が 聞きたい
でも君はもう誰かの恋人?


高校2年生の秋。
なんのイベントの日でもない普通の日に、
同じクラスの男の子に告白されて
付き合うことになりました。

今までほとんど
会話もしたことがないような人で
びっくりしたけれど、
とてもうれしかったのを覚えています。

ただ人から囃し立てられるのを
うるさく思っていたので、一緒に帰るくらいで、
あまり目立って一緒にいるようなことも
しませんでした。

またわたしは吹奏楽部に所属していて、
定期演奏会の準備で
これでもかというくらい忙しかったので、
オフの日がこれまたこれでもかというくらい
彼と食い違う日々が続きました。
イベントらしいイベントは
クリスマスとバレンタインに
一緒に帰ったことくらい。
一緒にごはんを食べに行くことさえしないまま
半年ほどが過ぎました。

いよいよわたしは忙しさのためか、
ある頃から付き合うことに
「めんどくさい」を感じるようになりました。

彼のことを嫌いになったのではない
(むしろ好き)なのにメールがくると
「ああ返信しなきゃなあ‥‥」って思う。
一緒に帰る日は
「今日家に着くの遅くなるな‥‥」と思う。
なんとなくどんより。

さらに貧乏暇なしだった当時のわたしは、
大変失礼ですが、
付き合うことによって発生する
支出もネックに感じだしました。

部活部活部活! の日々を送っていた
当時のわたしは部活や学校から離れた
「ひとり」の時間、「ひとり」のおかね、
ひとりのすべてをじぶんに使いたかった。
恋人にじぶんの部活や学校とは違う時間を
わけあう余裕なんてありませんでした。

こんな気持ちで付き合っていては彼に申し訳ない。
そう思って3年生にあがるころ別れました。
別れたときは
なんだか荷物がひとつへったみたいに
窮屈さがすこしなくなって楽になれました。
むしろ、やりきったなわたし
これでもう恋人のことに
気をまわさなくていいんだ!
ヤッホー! とか思ったくらい。

でも部活を引退して、
教室にいることが増えるようになると
(引退前は授業以外は部室に入り浸りだった)、
彼のことが目に入ります。

髪の毛がのびたなとか
いっつもお弁当に
パックのジュースもってくるよなとか。

付き合ってたころは気づかなかったことが
ぽろぽろと見えてきて彼に惹かれるじぶんを、
なんだよ、未練なんて! と丸め込んで、
この気持ちは認めない方向で
いきましょうと決めました。

卒業するまでの間、
他の男の子を好きになることもありました。
それでもやっぱりお昼休みに彼を見つけたら
すてきだと思わずにはいられないのです。
でもついぞ卒業まで話しかけることも
メールをすることもありませんでした。
わたしは新しく好きになった人のことが
好きなんだと暗示をかけて。

高校を卒業し、彼は県外の大学に進学しました。
わたしは第一志望が諦めきれずに
浪人することにしました。

たくさんの学校からひとが集まる予備校では
どうしても見知ったひとと会うことや
会話することが少なくなります。

寂しいな、と思うとき、友人たちと、
それから彼のことを思い出します。

わたしはことにあの人の声がすきでした。

わたしの友人の評価も高かった彼ですから、
きっと大学ですてきな人を
見つけているだろうなと思います。

でももしまだすきでいてくれているなら?

あの人の声が聞きたい毎日です。

(つぐつぐ)

心の奥からにじみ出てくるような自分の声と、
振る舞いの基軸となる理性的な自分の声と、
ほどよく分かれて対話する様子が、
男子には絶対描けない
少女マンガの何気ない一場面みたいでした。

「この気持ちは認めない方向で
 いきましょうと決めました」なんて、
それだけで短歌みたい。

切ない思い出が、
いままさに生々しさを揮発させて
結晶みたいに変わっているころでしょうか。

まじめで、がんこな自分と、
辻褄の合わない自分と。
どっちかがほんとうに見えるけど、
どっちもほんとうの自分なんですよね。
建前っぽいこと、理性的なことが、
取り繕ったウソだなんて、
そんな単純なものじゃないもの。

ところで、サザンとブルーハーツの
『シャララ』は知ってるけど、
スピッツの『シャララ』ってなんだっけ?
と思ったら、シングルのカップリング曲。
(アルバム未収録曲を集めた『おるたな』にも収録)
裏表なくきちんと挨拶する自分を
ふっとばしたいと短く乱暴に歌うロックな曲でした。
でも、スピッツならではの繊細はともなっていて、
この投稿にぴったりだなと思いました。

ええと、このシングルのジャケットは
なかなか素敵な絵だな。

たしかにジャケットの絵、
なかなか素敵だなあ。
どっかで見たことある気がするなあ。

それはともかく、なんと正直な気持ちだろう。
こと恋のことになると
正直な気持ちを綴るのって、
ほんとうに難しいと感じるのですが、
素直に、さらりと!
(つぐつぐ)さんすごい。
この正直なきもちを
ちゃんと届けたらいいのにって思う。
あなたの声が聞きたいです、て
言っていいと思う。
ただ、(つぐつぐ)さんは浪人中。
思い立ったら吉日だけど、
その日をちょっと先延ばしして、
合格したら、とか。

声が好きっていうの、いいですよね。
いちばん思いだしやすいしね。

ほんと、ジャケットの絵、かわいい。
すごくかわいいので、ぼくはこのCDを買いました。
このCDが出たときはうれしかったなぁ。
‥‥あんまりなのでちゃんと言います(笑)。
このジャケットは、
ぼくらと仲良しのイラストレーター・
福田利之さんが描いたものなのです。
すごいなぁ。
と、福田さんの絵について語りだすと
きりがないのでこのあたりで。

(つぐつぐ)さんの投稿、興味深く読みました。
独特の、ちょっとふわりとした文体。
正直な気持ちが、素直にすっと並べられて‥‥。
ゆれる、若い心のリアルさに胸を打たれます。

メールをいただいたのがちょっと前なので、
進路は決まっているはずですよね?
もしかしたらもう、
「あなたの声が聞きたいです」って
伝えたあとかもしれないですよ? 武井さん。
どうなんでしょう?
そうだったらいいなとは思いますが、
そうでなくても良い思い出ですよね。
いいな、青春。
わーい、春だーー!

人は、体力とかお金とか時間とか
有限のものとつきあっていますので、
気持ちのような無限のものに
つきあっていられなくなるときがあります。
ああ、荷物をおろした! ヤッホー、となる気持ち、
わかりすぎるほどわかります。

たいへん小さいことですが、
私は髪がはねた朝、めんどうすぎて、
その前の日まで好きだったはずなのに
会うのをやめたくなったりしました。

その後、やっぱりじんわり後悔が来ます。
行動を起こした自分への納得感を
出さなきゃなりませんし、フクザツです。

さて、そうして整理していくと、
何を自分の気持ちとして表出させるかが
とても重要になってまいります。

(つぐつぐ)さん。
スピッツの『シャララ』のように
自分に「なんだろな」とツッコミを入れつつ
やっていくしかありませんよね。
そして「やっぱりなかよくしよう」という気持ちを
表出させることも、ひとつの道です。
やきもきこそが恋だけど
周囲で「やんややんや」言う我々は
気持ちをパンと伝える背中を押したくなっちゃうなぁ。

ではまた土曜に会いましょう!

2014-04-09-WED

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