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 『幸せであるように』
 フライングキッズ

 
1990年(平成2年)

好きすぎて、
一緒にいるのが苦しかった。
(K)

幸せであるように心で祈ってる


好きになった人は、11歳年上の高校の先生でした。

1年生の冬、実験の準備をしてた先生の、
キレイな指に見とれてしまって。
家が近かったので、バイトの帰りとかに
ばったり会ったりして、よく話しこんだり、
休みの日に一度だけ、二人で遊びに出かけたり。
学校では素っ気ないのに、外で会うと優しくて、
そのギャップにもやられました。

この曲は、バイト帰りにポータブルCDで聴いていたのを、
「何聴いてんの?」とイヤホン片方ずつで聴いた曲です。

卒業前に何度か告白したのですが、
曖昧にはぐらかされ‥‥
3年生のバレンタイン。
もう授業はなく、卒業式までは
学校に行く必要はなかったのですが、
このまま終わりにしたくないと思い、
授業の空き時間に先生を呼び出して告白しました。
「これで最後にします。好きです。
 あたしに望みはありますか?」
先生は、そっとキスしてくれました。
「あなたはとても魅力的だと思います。
 でも、まだあなたのことをよく知らない。
 まずは先生と生徒じゃなく、お友達から」

でも、その後先生が別の学校に転任することがわかり、
引っ越しもするらしいと聞きました。
離任式には、新入社員研修があり、行けませんでした。
友達に買ったばかりの携帯電話の番号を書いた手紙を
渡してもらいましたが、連絡はありませんでした。

やっぱり、先生みたいなオトナが
あたしみたいなコドモなんか
相手にしてくれるわけなかったんだ。

きっぱり諦めたわけではなかったけど、
そう思うことで自分の気持ちにフタをしました。

6月頃、職場の同期の6歳年上の人に告白され、
その勢いに押されて付き合い始めました。

それから1ヶ月くらい経った7月、仕事帰りに駅で、
先生とばったり会ったのです。

4ヶ月ぶりに会う先生は、何事もなかったかのように、
あたしを車に乗せました。
ドライブしながら、いろんな話をしました。

別れ際、先生は「また会える?」。

「付き合ってる人がいるんです」
それだけ言うのが精一杯でした。
「それでも構わない」
優しいキスをくれました。
ダメだと頭ではわかっていても、止められませんでした。

週に一度、月曜日の夜。付き合っていた彼に嘘をついて、
先生と会って食事をして、明け方まで一緒にいて‥‥
2ヶ月くらい、そんなことを繰り返していましたが、
やっぱりこんな状態は良い訳はないと思い直し、
付き合っていた彼と別れました。

初めて日曜日に先生と会う約束をしました。
彼と別れたことは言わずにいたので
心配されました。「大丈夫」ひとことだけ言いましたが、
先生にそんな心配させていることに、
ものすごい罪悪感を感じました。

今日で先生と会うのも最後にしよう。
たくさん考えて、決めたことでした。
彼と別れたからといって、
先生と付き合うのは違うような気がしていました。
先生は、あたしといても
幸せにはなれないような気がする。
それに、先生のことが好きすぎて、
一緒にいるのが苦しかった。
先生につりあうように、一生懸命背伸びしていました。
先生のこと好きなまま、ずっといられるように。
好きだから、離れよう。

今日のことをずっと覚えておこう。

一日中先生と2人っきりで過ごして、明け方帰る車の中。
直接もう会わないとは言えませんでした。

最後まで、彼と別れたことは言わず、
「やっぱりこんな関係を続けていてはいけない。
 もう会わない」
という内容の手紙を送りました。
このまま先生に嫌われてしまえばいいと思いました。
あたしのことなんか早く忘れて、
誰かもっと先生にふさわしい人を
見つけてくれたらいい‥‥

20歳の誕生日に先生から電話がありました。
「誕生日おめでとう。元気にしてた?」

久しぶりに聞く先生の声に、嬉しくて泣きそうでしたが、
必死にこらえ、何でもないようなふりをして
少し話しました。

電話を切る間際、「一度会えないかな?」
とっさに、嘘をつきました。
先生もよく知っている、
高校の時の友達と付き合っていると。
「そうか‥‥。じゃあ、次は友達として、
 会えると良いな」

翌年、先生から結婚したとハガキが届きました。
先生と、その横にいる奥さんの柔らかな笑顔を見て、
すごくほっとしたのを覚えています。
これで、やっと「友達」として会えそうな気がしました。

先生とは、年賀状と年に何度かのメールのやりとりで、
15年経った今も繋がっています。
それから、弱ってる時に夢に出て来て、
何か言いたそうにしては消えて行きます。
夢から醒めて、何とも言えない
複雑な気分になるのですが、
自分勝手な恋のために先生を傷つけた罰だと思って、
諦めています。

そんなあたしも、20歳の誕生日に付き合っている、
と嘘をついた友達と結婚して、ふたりの子供がいます。
(K)

ハッピーエンドにしておくれ、
ハッピーエンドにしてください、と、
「スーパーフォークソング」
(作詞:糸井重里)のような
気持ちで読んでおりました。
「キスはあかん、キスは!」
とも思いつつ。
ああスガノ怒るだろうなあ。

それにしても予想外のハッピーエンド。
「先生は、あたしといても
 幸せにはなれないような気がする」は
証明されることはなかったわけだけれど、
「先生もよく知っている、
 高校の時の友達と付き合っている」
という嘘がほんとうになったのだから、
これはコトダマというものかもしれません。
(K)さんそういう力があるのかも。
これから前向きでハッピーなことだけ
願うといいですよ!

あ、そうか、それが
「幸せであるように」
なんだね!

先生の視点で考えると、
これはひじょうに「タイミング」のお話だと思いました。
卒業前にかわいい生徒から
熱心に、純粋に、告白された先生が、
そっとキスをして
「あなたをよく知らない。だからお友達から」
というのは、そんなに悪くないアクションだと思います。
が、しかし‥‥先生は落ち着きすぎた。
先生にその覚悟があったのだとすれば、
なぜ教えてもらった携帯にすぐ電話をしなかったのか。
先生は余裕を持ちすぎた。
そんなに本気じゃなかったのかなぁ。

4ヶ月。
18歳の女の子にとって、何かあるには十分な時間。
ここにきて初めて先生は慌てたのでしょう。
「それでも構わない」のキスは、焦りのキス!
結果、彼女は罪悪感を抱くことに‥‥。

‥‥タイミングだなぁと思います。
思いを伝えられたのに放っておけば
相手は様々な想いをめぐらせます。
「わたしはあの人につりあわない」
とか‥‥。

つい、先生側からの感想になりました。
なぜそっち側からになったかといえば、
余裕を持ちすぎてタイミングを逸した経験が
自分にもあったからなのでした。
それを、わーっと思い出したのです。

男たちよ(女性もかな)、
本気だったらタイミングをたいせつに。

いっかーーん、いかんいかいかん、
キスはあかんー!!!
その気がないのに、キスはだめーーー。

「まずは先生と生徒じゃなく、お友達から」
といってキス? キス???
じゃあ、つきあうってこと?
なのに別の学校に転任することがわかり、
引っ越しもする「らしい」?
つきあってるんじゃないのかい!

それから、ばったり会ったからといって
何事もなかったように車に乗せるなよ!
記憶がないの?
「また会える?」って、
引っ越しを言わなかったあなたが、
何をおっしゃっているのでしょうか。
付き合ってる人がいると告げると
「それでも構わない」と優しいキスをくれました?
おいおいおいおいおいおいおいおいおい。
そして、最後の最後にあきらめて
「もう会わない」と言ってからは
なんの返信もなく、
「誕生日おめでとう。元気にしてた?」
ですか? 記憶がないの?
そのあとに、
電話を切る間際、「一度会えないかな?」
と言われたの?

シャーーーーバリバリバリバリ!!!

(K)さんの回り道のように思える
ぐるんぐるんした行動も、
そりゃ、先生の態度がそうさせてるんですよ。
だってこっちは真剣だったんだもの。
それをゆるゆるとまぁ、こんにゃくみたいに!
自分勝手な恋のために先生を傷つけた罰なんかじゃ
ないと思います。

いや、もしかすると先生だって
「好き」って言われているうちに
好きになっちゃったのかもしれない。
真剣に、好きになっちゃったのかもしれないですよ?
(だったら彼氏に謝って正式に付き合ってください)
でもね、どう考えても、最初のキスは
なしでいいじゃないですか!

男の「あわよくば」は、うまく受け止めるのが
いい女キャッチャーだと思うけど
こんなへなちょこのボテボテ球は早々に
カキーンと場外へ打ち流すのが吉でございます。

ああ、キスさえなければなぁ。

ああ、やはり、スガノ暴走。
「ボテボテ球は早々に
 カキーンと場外へ打ち流す」って
野球のたとえとしてめちゃくちゃ‥‥。

じつは、この投稿をめぐっては、
4人で(じつはたったいままで)
けっこう激論が交わされたんですが、
ていうか、おもにスガノが怒ってたんですが、
今回、わりとぼくもスガノと同意見。

先生と生徒の垣根を超えてはならんとはいわんが
超えるからには運命を背負って
一直線に荒野を行けよ。
手折った若い薔薇を
鮮血もかまわず握りしめて離すなよ。
乙女の手を取り雪山の頂に
ふたりのキャッスルを築けよ。
Let it go--- Let it go---

なにがなんだかわからなくなりましたが、
まぁ、キスより決意が先ではなかろうかと。
あと、最後のお別れのあと、
わずか1年後に結婚しているのも
なんつーか、たしかに、こんにゃく的。
ああ、すみません、当事者でもないのに
断片的な情報からいろいろ言って。

それはそうと、
「恋歌くちずさみ委員会」の
永遠の裏テーマともいえる
「なんでキスやねん」問題。
いやもう、男というのはね、
そういう状況においては
ふらふらしまくりの流れまくりですからね、
「あわよくば」はもちろん、
「あわよくば」がなくても行けちゃうんですわ。
今日の激論のなかで、
オレが思わず言っちゃったのは
「そこに口があったらしちゃうんだよ、男は」
ってこと。もうこれ、
好き嫌いとかいい悪いを置いといての話。
それはあかんやろ、と突っ込まれたら、
いやもう絶対あきまへんわ、と素直に認めます。
そこまでわかっててもさ、
口があると口を近づけちゃうという愚かさが、
実際にやるやらないは
現場の大いなる別問題としてさておき、
己が血の中に脈々と流るることを
男はきっと知っている。
いやもうそれ絶対あきまへんわ。

それにしても、咄嗟についたウソが
現実になってしまうというまさかの結末。
「恋歌くちずさみ委員会」名物、
ラスト数行のどんでんがえしを堪能しました。
なにしろ、この投稿から、
いろんな人のいろんな恋愛観が交わされて
なかなかおもしろかったです。
ありがとうございました。

みなさんも、この投稿を読んで
あれこれ激論するとおもしろいかもだぞ。

2014-05-14-WED

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