書籍化とCD発売のおしらせ 恋歌くちずさみの広場 こちらをクリック 文庫本『恋歌、くちずさみながら。』を購入する方はこちらからどうぞ。 文庫本『恋歌、くちずさみながら。』を購入する方はこちらからどうぞ。

 『空も飛べるはず』
 スピッツ

 
1994年(平成6年)

空を飛んでいけたら
いいのにと思いながら、
この曲を
毎日聴いていました。
(AU)

君と出会った奇跡がこの胸に溢れてる
きっと今は自由に空も飛べるはず
夢を濡らした涙が海原へ流れたら
ずっとそばで笑っていてほしい


小学校5年生の時、
クラスメイトのお父さんが亡くなりました。
お葬式で、お母さんや弟がしくしく泣いている中、
彼だけが泣かずに、じっと下を向いていました。
幼かった私は、
「お父さんが死んだのに、悲しくないのかな。
 それとも、みんなの前で泣きたくないのかな。」
と思って心配していたのですが、
次の日、学校へ来るといつものようにサッカーをして、
いつものようにしょうもない下ネタを言って
女子から叩かれていて、少し安心したのを覚えています。

林間学校で彼と同じグループになり、
山登りをしていると、チェーンソーが置いてありました。
そのチェーンソーを見て、
「俺の親父なー、大工やってん。
 こんなん、家にあるなぁ。」
とぼそっと言いました。そして、
「将来の夢って、ある?」と聞かれました。
私は将来の夢なんて、
まだ真剣に考えたことがなかったので、
「特にないなー。」と答えると、
「俺な、親父が死んでから、
 自分も大工になろうって決めてん。
 ほんで、おかんと弟を守る。」
と山道を歩きながらまた、ぼそっと言いました。
その時、いつもバカだな〜と思っていた彼を
当時好きだったSMAPの誰よりもかっこいい!!!
と思うようになりました。

そんな彼が貸してくれたCDがこの曲で、
テープに録音して大切に聞いていました。

1年後、私は引越して彼と離れることになりました。
3学期の終業式も、一緒に二人で帰っていましたが、
結局「好きだ」とは言えず、
最後の最後も悪口を言い合い、
お道具箱で叩きあいながら帰りました。
その時、お道具箱から落ちたペンを、
「おまえ、俺のこと忘れたらしばくからな」
と言ってくれました。

引越しの日、車の後部座席でこのテープを聴きながら
ペンを握り締め、
前に座っている両親にバレないように泣きました。
転校してからも、
前の学校まで空を飛んでいけたらいいのにと思いながら、
この曲を毎日聴いていました。

初恋は実らなかったですが、
その後同窓会で彼と会いました。
彼は当時の夢を叶えて大工になり、
帰りは車で家まで送ってくれました。
(小学校のときは、徒歩で殴り合っていたのに、
 すごい差です!)

彼との出会いは、
私に夢を叶えることを教えてくれました。
そしてそれを今、私は、
担任している小学校5年生に伝えています。
(AU)

「俺な、親父が死んでから、
 自分も大工になろうって決めてん。
 ほんで、おかんと弟を守る。」

そりゃ「惚れてまうやろ〜!」ですよねえ。
お葬式の翌日の彼のすがたでわかるように、
彼、きっと、誰にでもそんなこと
言ってなかったと思うんですよ。
彼にとっても(AU)さんは
とても大事な存在だったんだろうな。
だから、
「おまえ、俺のこと忘れたらしばくからな」
って、せいいっぱい、しぼりだした、彼のきもち、
せつなくって、こころがいたいです。

ところで彼のお父さんが亡くなったっていうところ。
11歳くらいの子のお父さんだから、
25歳くらいで父親になったとしたら36歳。
30でも41歳。35であっても46歳。
いまのじぶんより若いんだなあと思います。
ああ。
ぼくのまわりにも、
「○○くん、お父さんがなくなったんだって」
みたいな話はあったけれど、
そんなに若かったんだ、と、
今になってあらためて思いました。

『空も飛べるはず』は
20年くらい前に放映された
ドラマ『白線流し』の主題歌でしたね。
あの前奏が流れると、ドラマで描かれていた
松本の山々や、高校生の夢や戸惑いが心にせまります。
たしか、あの主人公も先生になったのでは
なかったかなぁ。

強く生きる人たちの根底には
悲しみがある場合があって、
その悲しみを、どうにか
軽くしたり、わかちあったりできればいいのになぁと
私は思ったりします。
『空も飛べるはず』は、
そういう人にやっと出会えた、という歌詞ですね。
君と出会った奇跡、というくらい
その人が恋人といて救われるなら
そんな恋愛はいいなぁ〜、と思います。

転校を何度か経験していることもあって、
どうしても、こういうお別れを含んだ投稿には
強い強いせつなさを感じてしまいます。

自分の記憶で恐縮ですが‥‥
ホームを走る見送りの友だちを見ながら、
電車の座席でがまんできずに泣いたことを思い出しました。
向かい合わせの座席だから家族が見てるし、
泣いてしまうと母を傷つけるのだけれど、
どうにもならない、もう、どうにもならなかったです。
ぼくも思いました。
空を飛べればみんなに会いにいけるのに。

「当時好きだったSMAPの誰よりもかっこいい!!!」
という1行が、かわいくて、本気で、好きです。
読んでいても感じましたよ、そのかっこよさ。
そしてほんとに彼は大工さんになっている!
さらに(AU)さんは、
その思い出と同じ5年生の先生をしている!
たたみかけるようなエンディングに感動です。
ああ、名作が続くなぁ。

山下と同じく、
ぼくも頻繁に転校していたので
もう、ほんとに、ありありと。

その場所を去るちょっと前って、
なんか不思議な気持ちになるんですよね。
ひょっとしたら、とくに大きな問題も
ないんじゃないかというような楽観と、
ちょっとだけ自分が主役になって
物語が進んでるような勘違いと。

それが、別れを目前に控えると、
あっさり、絶望的な風景に変わる。
新地への不安と、なにより大きいのが、
「自分がいなくなってもここが続いていく」
っていうことに対する不条理さ。

そして、別れの瞬間には、
ただただ悲しくて
あとからあとから涙があふれてくる。
たいていぼくの去り際は、
親の車の後部座席でしたから、
窓からのいくつかの風景をよく憶えてます。
ああ、いかん、俺、
引っ越しの話とスポーツの話は
いくらでも書けるわ!

なにが言いたかったかというと、
転校のときって、自分とその場所をつないで
しっかり別れをしてくれたり、
思い出に残ったりしてくれる友だちがいると
とっても助かるんです。
不思議なことに、それって、
ただ「仲がいい」っていうだけじゃ
ダメなんですよね。
って、また長くなりそうだからやめますが、
大工の彼がいて、ほんとうによかったですね。

しかも、後日談までハッピーで最高です。
投稿、どうもありがとうございました。

2014-09-03-WED

最新のページへ
感想をおくる ツイートする ほぼ日ホームへ
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN