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 『TRUE LOVE』
 藤井フミヤ

 
1993年(平成5年)

部活が終わっても、
いつも彼を探し
見続けていました。
(bonbon)

僕らはいつもはるかはるか遠い未来を 
夢見てたはずさ


中学生の時のクラブはソフトボール部でした。
グランドでは、野球部とソフト部の
外野が重なる形で練習し
サッカー部はソフト部のレフト/野球部のライト辺りが
練習エリアでした。

私の守備はセンターかレフト、
サッカー部の練習はすぐ横でした。
2年生になった時、
ボール拾いをしている1年生が気になりだしました。
彼は入部即レギュラーに抜擢されたようでしたが、
ボール拾いも積極的で
取りに来てはその都度キリリッとしたお辞儀をして
走り去る彼を、いつも見つめていました。
部活が終わっても、いつも彼を探し見続けていました。

卒業式の前日、友人たちに決意を話しました。
「明日、告白する!」
友人たちも協力を買って出てくれました。

卒業式の日の朝、彼のクラスを覗くと
彼はいませんでした。
友人たちが後輩に聞いたりして探してくれたけど、
登校していないようでした。
式の後に・・・・と思ったけれど、
先生の話や色々なイベントがあり
開放された時には2年生たちは
とっくに帰宅した後でした。

学校を出たところで彼の友人たちに声をかけられました。
ここにも彼はおらず、
失意の中にいた私は何も聞かずに足早に帰りました。

それから8年後、
仕事帰りの乗り換え駅で呼び止められました、彼でした。
彼はその鉄道会社に勤め、
駅員として働いているということでした。
ボール拾いの挨拶以外の、彼との初めての会話でしたが
お互いがわかったし、
何の躊躇いもなく声を掛け合いました。

次に会った時、彼は私服でした。
私が通勤で通ることを知り、
休みの日を使って待っていたのだと。
帰りは各駅停車の電車に乗り、話しまくりました。
彼から色々なことを聞きました。
私が小学4年生の時、
転校生として挨拶した時に一目惚れしてくれたこと、
サッカー部でのボール拾いは私に近づくためだったこと、
卒業式に告白するつもりが寝坊してしまったこと、
式後、友人たちに付き合って貰って
校門で待っていたけれど
プレゼントを忘れたことに気付き、
家に取りに戻っている間に私が帰ってしまったことetc.
他にも、私は全く気付いてなかった彼の言動あれこれ。

初めて聞くすべての話に、うきうきドキドキし
大学入学後くらいまで彼を引きずっていた私には、
嬉しくて堪らない時間でした。
お互い実家に住んでいたので最寄り駅は一緒、
各駅停車の時間が短く物足りなく感じました。
最寄り駅に着いて彼は、
今でも思い続けていると言ってくれ、
即、付き合うことに同意しました。

ずっと好きでよく聴いていた『TRUE LOVE』の
「僕らはいつもはるかはるか遠い未来を
 夢見てたはずさ」
これって。まさに私たちのことじゃない!
駅から自宅まで、この1曲をリピートしながら帰りました。

挨拶だけの関係だった私たちは、
何もかもが初めて知ることばかりで新鮮でした。
でも、当時話せなかった思いを
埋めるかのような話ばかりでもありました。

数か月経った時、思い出話から進まない、
ということに互いが気付きました。
友達付き合いをしてみよう、
それで好き同士になったらまた付き合おう、
そう話し合って、友達付き合いが始まりました。

「僕らはいつもはるかはるか遠い未来を
 夢見てたはずさ」

嗚呼、これって過去形とも受け取れる歌詞だったんだな、
私の初恋って、とっくに終わっていたんだなぁと
気付いた瞬間でもありました。
(bonbon)



もうほんとうにやきもきするような
ドラマ的すれちがい!
途中から、「どうかうまくいきますように」と
祈るような気持ちで読み進めていた、
のですけれど‥‥ああ。

その後、どうなったのかはハッキリとは
(bonbon)さんのメールに
書かれていないのですね。
推して知るべしなのでしょうか。
それとも、あんがいまた紆余曲折があったのでしょうか。
あるいは、いまからさらに十数年後に
とんでもない展開が待っている、なんてことも?

彼の気持ちはどうなんだろうなあ‥‥。

うわーん、ほんとうに、やきもき!
ソフト部とサッカー部のときに両思いだったなんて。
一目惚れの彼が、ボール拾いでアピールしていた
ハートの矢がささったのですね。
彼、寝坊と忘れもの! おっちょこちょいめ!

だけどそれからずっと、忘れられなかったんですね。

人やことを思いつづけていくと、そこに
自分がしっかり入っていきますから、
ある意味それは「自分」になっていくのだと思います。
相手としっかり並んで歩けるかどうか、
相手を理解したうえでもういちど
相手のことで頭がいっぱいになるかどうかは、
別なのかもしれない。
お互いにそれに気づいた、というタイミングのよさも
すごいですね!

フミヤさんの歌詞、
そうやって歌ってみると‥‥おっしゃるとおりです。
過去形だー。

ぜんぶの素敵な情景を
いったん脇へと押しやって、
サッカー部のキミに突っ込もう。

告白を決心した卒業式の朝に寝坊すんなよ。
あと、慌てて飛び起きて、
プレゼント忘れて家出るなよ。
さらにいえば、卒業式も終わって、
友だちにつき合ってもらって
校門で待ってるような局面で
プレゼントを取りに帰るなよ!
友だちも友だちだ、
「いや、いまは取りに帰るより、
 告白のタイミングを優先すべきだ」
とどうして助言できない!
もしくは
「プレゼントは俺が取りに行くから
 おまえはここで彼女を待て」だろう!
ああ、しかし、
それが判断できぬからこそ、
男子中学生か。
十代男子特有の勢いとアホさ加減か。
いったいなんの話をしてるのか。

長い長い片思いやすれ違いのあと、
劇的なタイミングでふたりが出合って
思いを伝え合うも、関係は長く続かない。
「恋歌くちずさみ委員会」では
ときどき見受けられるパターンです。
思いと現実のギャップ、というより、
相手を思っているひとりの時間が
どれほど濃密で切実か、
というような気がします。
それでも、再会できてよかったですね。

こんなことがあるんですねぇ。
ああ、人生はおもしろい。
やきもきするすれちがいも、8年後の再会も、
実はお互い想っていたという事実も、ぜんぶすごい。
読んでいるこちらまでバラ色になるような
ドラマチックな展開。

でも、ドラマチックな展開はやがて落ち着いて、
思い出の空白を埋め終わったとき‥‥
ふたりはそこから先へと進めないことに気づく。
ここを読んでドキッとしました。リアルです。

「初恋はとっくに終わっていた」というのは、
そうですね、そうなのかもしれない。
でも、空白を埋めることができた再会は、
それはそれですごくすばらしい。
だってそんなことはほとんどないから。
昔の話で、うわーっと盛り上がっていた期間も、
すてきな恋愛期間だとぼくは思います。
たとえ数ヶ月だったとしても。

いま、おふたりはどうなっているのでしょうね。
友だちのまま? 友だちでもない?
それとも、新たな気持ちで恋が再開していたり?

秋も深まってまいりました。
次の土曜日にも、また恋の話をいたしましょう。
それでは。

2014-09-17-WED

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